それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 レストランにパパを抱いて連れて行くと丁重に迎え入れられ、席まで案内された。
 なんとパパ用の小さなテーブルまで隣に用意されている。テーブルには丸いクッションが用意され、パパは気に入ったのかそこに収まっていた。
 するとシェフと思しき人物がパパの元へとやって来て料理の乗った小さなお皿を置いた。
「ようこそ。こちら前菜の鯛のカルパッチョです」
 小さな皿には小さなカルパッチョが盛り付けられている。
 パパはくんくんと匂いを嗅ぎ、大丈夫だと判断したのかパクパク食べ出した。
 俺は困惑していた。
「あの……これは……?」
「ねこ様の為に作りました。もちろんお代は結構です」
「はあ……。どうも……。えっと、自分の食べる分は」
「お客様はあちらにバイキングがございますのでご自由にどうぞ。では次の料理を用意がありますので」
 そう言うとシェフは調理場に戻っていった。
 仕方なく俺は席を立ち、適当に料理を取って戻って来ると隣の席でそれを見ていた朝陽は苦笑した。
「まるで王と奴隷ね」
 誰が奴隷だと言いたいところだが、この町ではあまり否定できない。
 俺が取ってきたものを食べていると朝陽は別に注文したワインをグラスに注ぎながら尋ねてきた。
「ねえ。なにか良いネタは見つかった?」
 俺はハッと笑った。
「見つかったとしても言うわけないだろ。お前は敵なんだから」
「相変わらずケチね。モテないでしょ?」
「ほっとけ。俺は今回の作品に人生賭けてるんだよ。横取りされるかもしれない奴にペラペラ話すわけないだろ」
「ああそう」朝陽は呆れていた。「でも気持ちは分かるわ」
「どうだか。売れてるお前に重版もしたことない俺の気持ちなんて分からないだろ」
「そこは分からない。でも人生賭けてるのはあたしも一緒よ。どんな作品にだってそれは同じだった。作家はみんなそうでしょ?」
「…………かもな」
 相変わらずプロ意識が高い。
 俺は反論できず普段食べられないエビフライをパクリと食べた。
 作家はみんな作品に人生を賭けている。でもその賭けに勝てるのは一握りしかない。早く俺もそちら側に行きたいもんだ。
 朝陽は優雅に赤ワインを飲みながら話した。
「あたしは資料館に行ってきたわ。なんでこの町に妙なルールができたのか分かると思ったから。でも無駄足ね。ほとんどが村の成り立ちや戦中、戦後の話ばかり。色んな鉱石が出たとかどうでもいいことばかり書いてあったわ。タダじゃないなら行ってないわね」
 どうやら資料館には行かないでいいみたいだ。
 朝陽はエビのサラダを食べ、ワインを一口飲んで続けた。
「明日は神社に行ってくる予定。ここから結構あるのよね。あとは人ね。こういうのはお年寄りに聞くのが一番だわ。そっちの予定は?」
「聞いてなかったのか? お前にはなにも話さない。まあでも、温泉は行ってくるよ」
「それくらいしかないしね。あー。思ってより短い取材旅行になりそうだわ。そっちの方が助かるけど」
「なにか予定があるのか?」
「……さあね」
 朝陽が遠い目をして含みのある笑みを浮かべた。
 俺がむかついているとテーブルに置いた朝陽のスマホが鳴り出した。朝陽は画面を確認し、「ちょっと失礼」と言って立ちあがった。そしてカルパッチョを食べ終わり、口の周りを舐めるパパを軽く撫でて外に出た。
 担当から電話か? ああいうのも売れっ子らしいよな。売れてない作家なんてこっちから連絡取らないと基本は放置される。
 よくドラマで小説家と会って打ち合わせしてるけど、編集者なんて忙しいからある程度の作家とじゃなければメールでおしまいだ。
 売れてる作家と売れてない作家では天と地ほど扱いの差がある。 俺も早く待ってても仕事が来るような売れっ子になりたい。
 皿が空になったので少ししょぼくれながら立ちあがると、パパには次の料理が運ばれてきた。今度は肉だ。パパは嬉しそうに食べている。
 俺は小さく嘆息し、空になった皿を持って料理を取りに行った。
 こんなに寂しいバイキングは生まれて初めてだった。
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