21 / 69
21
しおりを挟む
朝になって起きると少し疲れが残っていた。
ベッドから下りるとカーテンを開けた。今日も良い天気だ。
あくびをする俺にパパはにゃーと朝ごはんを催促してきた。
「多分レストランに行ったらなにか食べさせてもらえるよ。だからもう少し我慢な」
パパを抱き上げ、外を見せてやる。パパは窓の外を興味深そうに眺めていた。
「にしても昨日はなんだ? お前が鳴くから起きただろ」
昨日深夜。パパはベッドから飛び降り、窓の方を向いて鳴きだした。多分他のねこがいたんだろう。鳴き方が普段とは全然違って威嚇するみたいだった。
そのせいで起こされた俺はパパをなんとか落ち着かせ、再び寝た。なんだか眠りが浅い気がするのはそのせいだ。
二十代と違ってよく寝られないと体が重い。これから歳を取っていったらどうなるんだろうか?
そんな心配をしながら支度をし、食事の時間までテレビを眺めて時間を潰した。
時間になるとパパを連れて一階までエレベーターで下りていく。動く箱が怖いのかこの時のパパは全く動かない。
ドアが開くと一階のロビーに出る。レストランはここを左に行ったところだ。
朝食もバイキングだから和食にするか洋食にするか悩んでいると玄関から昨日会った銀行員が入ってきた。
銀行員は俺を見つけると笑顔で挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございます。散歩ですか?」
「いえ、そこの自販機まで煙草を買いにいってました」
するとスタッフの一人がやってきて銀行員に話しかける。
「大槻様。申し訳ありませんでした。ケトルの方はすぐに交換します」
「ああ。いいですよ。気にしないでください」
大槻と呼ばれた銀行員は爽やかに笑った。スタッフは申し訳なさそうに受付の奥へと戻って行った。
「どうかしたんですか?」と俺は尋ねた。
「いえ。大したことじゃないです。今朝お湯を沸かそうとしたらケトルの電気がつかなくて。それでさっき言っておいたんですよ。まあバイキングにコーヒーとかあるでしょう」
「そうですね」
そんな話をしていると入り口から昨日見たガラの悪い男が入ってきた。イライラしているのか「通路でぼさっと立ってんなよ」と言ってズカズカ歩いてくる。
大槻さんは「すいません」と会釈して男を避けた。
男はレストランの方をチラリと見て舌打ちし、俺が乗ってきたエレベーターに消えていった。
俺はムッとしたが大槻さんは気にしてなさそうだ。
「まあ、ああいう人もいますよ。行きましょうか」
レストランに向かって歩き出す大槻さんを見て大人だなと思った。きっと銀行員として色んな客に会って来たんだろう。
レストランに入るとやはりパパの席が用意されていた。テーブルの上に置いてあるクッションに乗せると大槻さんは笑っていた。
「ははは。もうここまで来ると面白いですね。拝んでおいたら仕事が上手くいくかな?」
大槻さんは面白がりながら手を合わせた。
たしかにこうして見ると祀られているみたいだ。
俺が苦笑しているとあとからやってきた初めて会う若い女がパパを見てギョッとした。
「ちょっとなによこれ? この町ってこんなとこまでねこがいるわけ? あーもう最悪」
水商売風の若い女はパパを見てげんなりしていた。
女が騒ぐので近くにいたスタッフがやってくる。
「永野様。どうしました?」
「どうするもないって。料理に毛が入ったらどうするの? このねこをさっさと外に出して」
「それはできません」スタッフは即答した。「こちらのねこ様もお客様です。我々にお客様を追い出すことはできません。毛が気になるようでしたら離れた席をご利用ください」
「はあ? あんたおかしいんじゃない?」
永野と呼ばれた女は明らかに苛立っていた。パパには悪いがある意味この女の態度は普通だ。
だがスタッフは退かなかった。無言で永野を凝視する。
永野は理解できないという表情を浮かべていた。
「ああもう! じゃあいいわよ!」
うんざりして永野はそのままレストランを出て行った。
なんだか申し訳ない。そうパパも思ったのか心なしか元気がなさそうだった。
そんな俺達を見て大槻さんは言った。
「気にしないでいいですよ。よそではそうでもここじゃあこれが正解ですからね」
「はあ……」
そうは言っても気にしてしまう。こんなことなら部屋で昨日もらったねこ缶をやればよかった。
俺は少ししょぼくれたが、パパはスタッフが料理を持ってくるとけろりとしてそれをもぐもぐ食べていた。
ベッドから下りるとカーテンを開けた。今日も良い天気だ。
あくびをする俺にパパはにゃーと朝ごはんを催促してきた。
「多分レストランに行ったらなにか食べさせてもらえるよ。だからもう少し我慢な」
パパを抱き上げ、外を見せてやる。パパは窓の外を興味深そうに眺めていた。
「にしても昨日はなんだ? お前が鳴くから起きただろ」
昨日深夜。パパはベッドから飛び降り、窓の方を向いて鳴きだした。多分他のねこがいたんだろう。鳴き方が普段とは全然違って威嚇するみたいだった。
そのせいで起こされた俺はパパをなんとか落ち着かせ、再び寝た。なんだか眠りが浅い気がするのはそのせいだ。
二十代と違ってよく寝られないと体が重い。これから歳を取っていったらどうなるんだろうか?
そんな心配をしながら支度をし、食事の時間までテレビを眺めて時間を潰した。
時間になるとパパを連れて一階までエレベーターで下りていく。動く箱が怖いのかこの時のパパは全く動かない。
ドアが開くと一階のロビーに出る。レストランはここを左に行ったところだ。
朝食もバイキングだから和食にするか洋食にするか悩んでいると玄関から昨日会った銀行員が入ってきた。
銀行員は俺を見つけると笑顔で挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございます。散歩ですか?」
「いえ、そこの自販機まで煙草を買いにいってました」
するとスタッフの一人がやってきて銀行員に話しかける。
「大槻様。申し訳ありませんでした。ケトルの方はすぐに交換します」
「ああ。いいですよ。気にしないでください」
大槻と呼ばれた銀行員は爽やかに笑った。スタッフは申し訳なさそうに受付の奥へと戻って行った。
「どうかしたんですか?」と俺は尋ねた。
「いえ。大したことじゃないです。今朝お湯を沸かそうとしたらケトルの電気がつかなくて。それでさっき言っておいたんですよ。まあバイキングにコーヒーとかあるでしょう」
「そうですね」
そんな話をしていると入り口から昨日見たガラの悪い男が入ってきた。イライラしているのか「通路でぼさっと立ってんなよ」と言ってズカズカ歩いてくる。
大槻さんは「すいません」と会釈して男を避けた。
男はレストランの方をチラリと見て舌打ちし、俺が乗ってきたエレベーターに消えていった。
俺はムッとしたが大槻さんは気にしてなさそうだ。
「まあ、ああいう人もいますよ。行きましょうか」
レストランに向かって歩き出す大槻さんを見て大人だなと思った。きっと銀行員として色んな客に会って来たんだろう。
レストランに入るとやはりパパの席が用意されていた。テーブルの上に置いてあるクッションに乗せると大槻さんは笑っていた。
「ははは。もうここまで来ると面白いですね。拝んでおいたら仕事が上手くいくかな?」
大槻さんは面白がりながら手を合わせた。
たしかにこうして見ると祀られているみたいだ。
俺が苦笑しているとあとからやってきた初めて会う若い女がパパを見てギョッとした。
「ちょっとなによこれ? この町ってこんなとこまでねこがいるわけ? あーもう最悪」
水商売風の若い女はパパを見てげんなりしていた。
女が騒ぐので近くにいたスタッフがやってくる。
「永野様。どうしました?」
「どうするもないって。料理に毛が入ったらどうするの? このねこをさっさと外に出して」
「それはできません」スタッフは即答した。「こちらのねこ様もお客様です。我々にお客様を追い出すことはできません。毛が気になるようでしたら離れた席をご利用ください」
「はあ? あんたおかしいんじゃない?」
永野と呼ばれた女は明らかに苛立っていた。パパには悪いがある意味この女の態度は普通だ。
だがスタッフは退かなかった。無言で永野を凝視する。
永野は理解できないという表情を浮かべていた。
「ああもう! じゃあいいわよ!」
うんざりして永野はそのままレストランを出て行った。
なんだか申し訳ない。そうパパも思ったのか心なしか元気がなさそうだった。
そんな俺達を見て大槻さんは言った。
「気にしないでいいですよ。よそではそうでもここじゃあこれが正解ですからね」
「はあ……」
そうは言っても気にしてしまう。こんなことなら部屋で昨日もらったねこ缶をやればよかった。
俺は少ししょぼくれたが、パパはスタッフが料理を持ってくるとけろりとしてそれをもぐもぐ食べていた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる