それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 朝になって起きると少し疲れが残っていた。
 ベッドから下りるとカーテンを開けた。今日も良い天気だ。
 あくびをする俺にパパはにゃーと朝ごはんを催促してきた。
「多分レストランに行ったらなにか食べさせてもらえるよ。だからもう少し我慢な」
 パパを抱き上げ、外を見せてやる。パパは窓の外を興味深そうに眺めていた。
「にしても昨日はなんだ? お前が鳴くから起きただろ」
 昨日深夜。パパはベッドから飛び降り、窓の方を向いて鳴きだした。多分他のねこがいたんだろう。鳴き方が普段とは全然違って威嚇するみたいだった。
 そのせいで起こされた俺はパパをなんとか落ち着かせ、再び寝た。なんだか眠りが浅い気がするのはそのせいだ。
 二十代と違ってよく寝られないと体が重い。これから歳を取っていったらどうなるんだろうか? 
 そんな心配をしながら支度をし、食事の時間までテレビを眺めて時間を潰した。
 時間になるとパパを連れて一階までエレベーターで下りていく。動く箱が怖いのかこの時のパパは全く動かない。
 ドアが開くと一階のロビーに出る。レストランはここを左に行ったところだ。
 朝食もバイキングだから和食にするか洋食にするか悩んでいると玄関から昨日会った銀行員が入ってきた。
 銀行員は俺を見つけると笑顔で挨拶する。
「おはようございます」
「おはようございます。散歩ですか?」
「いえ、そこの自販機まで煙草を買いにいってました」
 するとスタッフの一人がやってきて銀行員に話しかける。
「大槻様。申し訳ありませんでした。ケトルの方はすぐに交換します」
「ああ。いいですよ。気にしないでください」
 大槻と呼ばれた銀行員は爽やかに笑った。スタッフは申し訳なさそうに受付の奥へと戻って行った。
「どうかしたんですか?」と俺は尋ねた。
「いえ。大したことじゃないです。今朝お湯を沸かそうとしたらケトルの電気がつかなくて。それでさっき言っておいたんですよ。まあバイキングにコーヒーとかあるでしょう」
「そうですね」
 そんな話をしていると入り口から昨日見たガラの悪い男が入ってきた。イライラしているのか「通路でぼさっと立ってんなよ」と言ってズカズカ歩いてくる。
 大槻さんは「すいません」と会釈して男を避けた。
 男はレストランの方をチラリと見て舌打ちし、俺が乗ってきたエレベーターに消えていった。
 俺はムッとしたが大槻さんは気にしてなさそうだ。
「まあ、ああいう人もいますよ。行きましょうか」
 レストランに向かって歩き出す大槻さんを見て大人だなと思った。きっと銀行員として色んな客に会って来たんだろう。
 レストランに入るとやはりパパの席が用意されていた。テーブルの上に置いてあるクッションに乗せると大槻さんは笑っていた。
「ははは。もうここまで来ると面白いですね。拝んでおいたら仕事が上手くいくかな?」
 大槻さんは面白がりながら手を合わせた。
 たしかにこうして見ると祀られているみたいだ。
 俺が苦笑しているとあとからやってきた初めて会う若い女がパパを見てギョッとした。
「ちょっとなによこれ? この町ってこんなとこまでねこがいるわけ? あーもう最悪」
 水商売風の若い女はパパを見てげんなりしていた。
 女が騒ぐので近くにいたスタッフがやってくる。
「永野様。どうしました?」
「どうするもないって。料理に毛が入ったらどうするの? このねこをさっさと外に出して」
「それはできません」スタッフは即答した。「こちらのねこ様もお客様です。我々にお客様を追い出すことはできません。毛が気になるようでしたら離れた席をご利用ください」
「はあ? あんたおかしいんじゃない?」
 永野と呼ばれた女は明らかに苛立っていた。パパには悪いがある意味この女の態度は普通だ。
 だがスタッフは退かなかった。無言で永野を凝視する。
 永野は理解できないという表情を浮かべていた。
「ああもう! じゃあいいわよ!」
 うんざりして永野はそのままレストランを出て行った。
 なんだか申し訳ない。そうパパも思ったのか心なしか元気がなさそうだった。
 そんな俺達を見て大槻さんは言った。
「気にしないでいいですよ。よそではそうでもここじゃあこれが正解ですからね」
「はあ……」
 そうは言っても気にしてしまう。こんなことなら部屋で昨日もらったねこ缶をやればよかった。
 俺は少ししょぼくれたが、パパはスタッフが料理を持ってくるとけろりとしてそれをもぐもぐ食べていた。
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