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朝食を食べ終わると俺はパパと猫神神社に向かった。
猫神神社はホテルから歩いて十五分ほどの場所にあった。
どうやら山の中腹にあるらしく、車が一台だけ停まっている駐車場の奥に鳥居と石段が上へと続いていた。
近々祭りがあるらしく、のぼり旗がたくさん立っている。
さすがにこの階段をパパを抱えて登るのは大変だと地面に降ろす。最初パパは周囲を警戒してキョロキョロしていたが、そのうち階段をひょいひょいと登りだした。
俺が先に階段を登り、その後ろをパパが止まったり走ったりしながらついてくる。
だが自分のペースで行きたいらしく、ハーネスを引っ張ったら鬱陶しそうにして地面に伏せたのでパパが動きたくなるまで待った。
そんなこんなで十分ほどかけ階段を登り切ると神社が俺達を待っていた。
境内は最近手を入れたのか綺麗だった。だけど思っていたより小さい。人もいなさそうだし、これなら近所にある神社の方がよっぽど立派だ。
だけど雰囲気はあった。
静かでこれと言った特色はないはずなのにどことなく厳かで、自然と背筋が伸びた。
さっきまで動き回っていたパパもここではなぜか大人しかった。
俺はフーッと息を吐いて参道を歩いて奥へと向かった。
狛犬はおらず、代わりに狛猫が座って待っていた。狛犬は元々神の使いだし、それがねこになるのはここじゃ当たり前だろう。
町の入り口にあった看板もある。おそらくオリジナルはこちらだ。
歩き出してすぐ本殿の目の前までやってきた。賽銭箱の奥にある襖がほんの僅かだが開いている。
中を覗こうと思ったがパパが動かない。
「ん? どうした?」
尋ねても返事があるわけじゃなく、仕方なく近くの柱に紐を結んだ。そして靴を脱ぎ、木の階段を登って襖の隙間を覗いてみる。
そこに猫神がいた。
正確には猫神像だ。それが本殿の奥で祀られていた。
ただ広場にあった石像と違い、こちらは木彫りだった。それもかなり古い。おそらくこれが最初の猫神像なんだろう。
広場の石像より随分小さい。だが威厳というか存在感というか、そういうものはこちらの方が圧倒的に大きかった。
思わずつばを飲み込んでしまった。なんだか見てはいけない気がし、周囲には誰もいないのに自然と一礼してしまう。
それがイヤで俺はすぐさまその場を離れた。
一体なんなんだ? なにかおかしくなってきている。
それはさっきもそうだ。
あの永野とかいう女がパパを追い出せと言った時、俺はムッとしたと同時にこの町にいるならねこを尊べよとも思ってしまった。
少しずつだが頭の中にあるなにかが変わっている気がして、なんだか怖くなってしまう。
これが慣れなのか。それとも洗脳か。あるいは信仰心なのか。
そのどれかは分からないが、どちらにせよ人はその場所に順応してしまう。きっとこの町はその象徴なんだろう。
それが怖かった。
パパを連れて本殿から離れると大きく息を吐いた。そこで少し息苦しさを覚え、知らず知らずのうちに緊張していたことに気付いた。
「なんなんだよ…………」
思わず独り言がこぼれてしまう。
神様なんて信じたことがなかった。そんなのは心の弱い人間がすがる為に作った偶像だ。そう思っていた俺の心に少しずつだがなにかが入り込んでいる。
それがイヤでもあったが、同時に大きななにかに身を委ねるようで心地よくもあった。
なんとも言えない気分のまま来た道を引き返そうとした時、強い風が吹いた。
俺は思わず立ち止まり、パパと顔を合わせる。
まさか猫神を凝視した報いかと少しだけ恐れていたところ、遠くの方でサイレンが鳴るのが聞こえた。
「…………今度はなんだ?」
よく分からない。だけどイヤな予感がした。
俺がサイレンの音がする町の方を眺めている間、パパはずっと後ろにある本殿を見つめていた。
猫神神社はホテルから歩いて十五分ほどの場所にあった。
どうやら山の中腹にあるらしく、車が一台だけ停まっている駐車場の奥に鳥居と石段が上へと続いていた。
近々祭りがあるらしく、のぼり旗がたくさん立っている。
さすがにこの階段をパパを抱えて登るのは大変だと地面に降ろす。最初パパは周囲を警戒してキョロキョロしていたが、そのうち階段をひょいひょいと登りだした。
俺が先に階段を登り、その後ろをパパが止まったり走ったりしながらついてくる。
だが自分のペースで行きたいらしく、ハーネスを引っ張ったら鬱陶しそうにして地面に伏せたのでパパが動きたくなるまで待った。
そんなこんなで十分ほどかけ階段を登り切ると神社が俺達を待っていた。
境内は最近手を入れたのか綺麗だった。だけど思っていたより小さい。人もいなさそうだし、これなら近所にある神社の方がよっぽど立派だ。
だけど雰囲気はあった。
静かでこれと言った特色はないはずなのにどことなく厳かで、自然と背筋が伸びた。
さっきまで動き回っていたパパもここではなぜか大人しかった。
俺はフーッと息を吐いて参道を歩いて奥へと向かった。
狛犬はおらず、代わりに狛猫が座って待っていた。狛犬は元々神の使いだし、それがねこになるのはここじゃ当たり前だろう。
町の入り口にあった看板もある。おそらくオリジナルはこちらだ。
歩き出してすぐ本殿の目の前までやってきた。賽銭箱の奥にある襖がほんの僅かだが開いている。
中を覗こうと思ったがパパが動かない。
「ん? どうした?」
尋ねても返事があるわけじゃなく、仕方なく近くの柱に紐を結んだ。そして靴を脱ぎ、木の階段を登って襖の隙間を覗いてみる。
そこに猫神がいた。
正確には猫神像だ。それが本殿の奥で祀られていた。
ただ広場にあった石像と違い、こちらは木彫りだった。それもかなり古い。おそらくこれが最初の猫神像なんだろう。
広場の石像より随分小さい。だが威厳というか存在感というか、そういうものはこちらの方が圧倒的に大きかった。
思わずつばを飲み込んでしまった。なんだか見てはいけない気がし、周囲には誰もいないのに自然と一礼してしまう。
それがイヤで俺はすぐさまその場を離れた。
一体なんなんだ? なにかおかしくなってきている。
それはさっきもそうだ。
あの永野とかいう女がパパを追い出せと言った時、俺はムッとしたと同時にこの町にいるならねこを尊べよとも思ってしまった。
少しずつだが頭の中にあるなにかが変わっている気がして、なんだか怖くなってしまう。
これが慣れなのか。それとも洗脳か。あるいは信仰心なのか。
そのどれかは分からないが、どちらにせよ人はその場所に順応してしまう。きっとこの町はその象徴なんだろう。
それが怖かった。
パパを連れて本殿から離れると大きく息を吐いた。そこで少し息苦しさを覚え、知らず知らずのうちに緊張していたことに気付いた。
「なんなんだよ…………」
思わず独り言がこぼれてしまう。
神様なんて信じたことがなかった。そんなのは心の弱い人間がすがる為に作った偶像だ。そう思っていた俺の心に少しずつだがなにかが入り込んでいる。
それがイヤでもあったが、同時に大きななにかに身を委ねるようで心地よくもあった。
なんとも言えない気分のまま来た道を引き返そうとした時、強い風が吹いた。
俺は思わず立ち止まり、パパと顔を合わせる。
まさか猫神を凝視した報いかと少しだけ恐れていたところ、遠くの方でサイレンが鳴るのが聞こえた。
「…………今度はなんだ?」
よく分からない。だけどイヤな予感がした。
俺がサイレンの音がする町の方を眺めている間、パパはずっと後ろにある本殿を見つめていた。
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