それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 探してみたが佐竹はどこにもいなかった。
 事務所の人達も探しているようで、町長どころか秘書まで失い、混乱していた。
 スタッフが家にも行ってみたがいなかったようだ。
 この人達が見つけられないなら俺に見つけられるわけがなく、歩き回って疲れたのでホテルのロビーで一服していた。
 パパもソファーで座って休憩している。部屋だと丸くなったり伸びたりしてるが、一応警戒しているんだろう。
 部屋まで戻るつもりだったが、一度座ってしまうと中々動けない。普段からバイトも執筆も座ってばかりなのが響いてきた。
 体力付けないとな。結局作家も体力勝負だ。バイトしなくていいなら運動する時間が取れるんだけどな。
 ここにあと何日いられるか。それほど長くはないことを残金が物語っていた。
 そう言えば事務所の近くで永野を見かけたけどなんの用だったんだろうか?
 なにか用がありそうだったが、結局誰にも声を掛けずにどこかへ行ってしまった。
 あの人も怪しいと言えば怪しいよな。なにも話したくないなんて、どんな目的でこの町に来たんだ?
 ソファーに沈んで考えていると大槻さんが外から戻って来た。俺達を見つけると重そうなアタッシュケースを持って挨拶に来た。
「あ。こんにちは。もうこんばんはかな?」
「こんばんは。お仕事終わりですか?」
「ええ。でも大変でしたよ。どこに行っても町長が殺された余波てんやわんやです。もう帰る予定だったんですけど、この分だともう少しかかりそうですね」
「大変ですね」
「まあ、仕事ですからね。有馬さんはまだここにいるんですか?」
「そうなりそうです。温泉もまだですしね。あ。どうですか? 今から一緒に」
「すいません。僕、お風呂苦手なんですよ。湯船が苦手っていうか。だからいつもシャワーで済ましちゃうんです」
 そんな人もいるんだな。せっかくの温泉なのに。このホテルからだと行くのに少し時間がかかるから疲れていると行きたくない気持ちは分かるけど。
「そうですか。じゃあ俺は明日にでも行ってきます」
「せっかくですしね。ゆっくりしてきてください。じゃあ、自分は」
 小柄な中年サラリーマンは愛想良くニコリと笑って会釈すると止まっていたエレベーターに乗って部屋に向かった。
 そうか。銀行員も大変だな。ノルマとかもあるんだろうし。俺にはできない職種だ。
 結局疲れて動けないまま夕飯の時間となり、俺とパパはレストランに入った。
 相変わらずパパには豪華な食事が振る舞われる中、俺は昨日と同じ内容のバイキングからできるだけ食べていないものを探して皿に盛り付けていった。
 その近くで強面の島内が勢いよく皿を食べ物で埋めていく。
 そう言えば昨日食べられてなかったな。バイキングだから問題ない気もするけど、ホテルによっては予約してないとダメってところも結構あるし、今日は昨日の分まで食べるつもりなんだろう。
 そう言えばこの人もかなり謎だ。三井は連絡が取れたと言っていたけど、どこの会社に勤めてるんだろうか? 正直その筋の人にしか見えない。
 そんなことを思いながら眺めていたのがダメだったのか、島内は俺と目が合うやいなやギロリと睨んだ。
「なんだい兄ちゃん。なんか文句あんのか? あ。取り過ぎたか?
分けてやろうか?」
「え? いや、大丈夫です」
「そうか。ならいいけど。こっちはもう腹ぺこだよ」
 島内はいっぱいになった皿をテーブルに持っていき、豪快に食べ始めた。
 どうやらそこまで悪そうな人ではないみたいだ。とは言っても普通の家業では絶対ないだろうが。こんな町より歌舞伎町の方がよっぽど似合うだろう。
 でもまだ泊まってるってことは用があるということ。一体どんな理由でこの町に居続けているんだろうか?
 なにも話していない永野はともかく、一応所属がはっきりしたんだから帰ろうと思えばすぐにでも帰れるはずなのに。
 やっぱりこの人も事件となにか関係あるのか?
 怪しい永野もパパを嫌がってか来ないし。
 あいつもなにか隠してるんだろうか?
 誰にでも隠し事はある。俺だって小説を書いていることを他人に言えなかった。言えたのは作家になってからだ。賞も取ってないのに書き続けているのが恥ずかしかった。
 今になってはそんな恥ずかしさよりも如何に売れるかの方が大事だからどうでもいいけど。
 もしかして永野も小説家か? 島内も?
 ダメだ。誰もかもが小説家に見えてきた。ただでさえ多すぎて困ってるんだ。そんなにたくさんいてたまるか。
「なに睨んでるのよ」
 隣の席にやってきた朝陽は呆れていた。
「いや、俺以外の作家が全員死んだらベストセラー連発できるのになって」
「業界がなくなるだけじゃない。まあ今のままいけばそうなるかもしれないけど」
 どうも朝陽は疲れているようだった。どちらかというと心の方が。
「奥さんはどうだったんだ?」
「言うわけないでしょ? ライバルなんだから」
「……まあな。あ。警察があとから来ただろ?」
「来たわ。事情聴取に同席させてもらったから」
「あいつはなんて?」
「べつに。アリバイがどうとか犯人に心当たりはないかとかありふれたことを聞いていただけ」
「奥さんは?」
「旅行は知り合いと行っていたから確認を取ってくれればアリバイが証明できるって」
「男か?」
「さあね」
 佐竹以外にも不倫相手がいたのか? それとも佐竹はただ噂になっていただけ?
「犯人については?」
「なにも分からないって言ってた。これでいい? あたしが聞き出したことは言わないわよ」
「ああ。あ。あと一つ。佐竹は? いたのか?」
「さあ? 警察も聞いてたけど知らないって」
「匿ってたりとかは?」
 朝陽は「どうかしらね」と意味ありげな笑みを浮かべた。
 なるほど。佐竹と婦人がグルなら、当然合い鍵くらいは持っている。婦人がいない間に屋敷へ逃げ込んでほとぼりが冷めるまで隠れてる可能性もゼロじゃない。
 その後、この町から出るにはトンネルを通るしかないから、トランクにでも隠れておいて奥さんの運転で脱出する。
 だけどこれは犯人だとバレた時だな。今の時点ではいきなり消えたら怪しすぎるから証拠の隠滅でもして明日には出てくるだろう。
 全部は想像だが、朝陽も怪しんでいるのを考慮して、やはり佐竹は要チェックだ。
 すると朝陽のスマホが鳴り出した。画面を見ると朝陽は立ちあがる。
「編集?」
「関係ないでしょ。なんでもいいけど、約束は守ってよ。反故にしたら編集部に言うから」
 朝陽はレストランの外へ出て行く。あいつにしては珍しくどこか余裕がないようだった。
 隠し事があるのはあいつも同じか。あんまり詮索すると情報をくれなくなるな。
 俺も呑気なことは言ってられない。このホテルだって安くないんだ。早くしないと残金がなくなって帰るしかなくなる。
 ベストは早く解決して早く帰ることだ。そうすれば節約もできて印税も入る。その逆は考えたくもないな。
 小さく嘆息する俺の横でパパはシェフのフルコースを満喫し、食べ終わると毛繕いに勤しんでいた。
 パパにとってここはいつまででもいたい楽園なんだろう。
 みんな誰もが楽園を夢見る。だけどそんなものが永遠でないことを知っている。
 このままいけばあと三日で俺達はこの町から去らないといけない。その時きっと、パパはここが楽園であったことを知るんだろう。
 俺も今のうちに食べられるだけ食べておくか。
 もう腹八分だったが、明日に備えて俺は再び空の皿を埋めに行った。
 この町にも慣れた。
 もうなにが起きても驚かない。
  絶対に事件を解決して出て行く。
 そう覚悟を決めて、俺は春巻きを食べた。
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