それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 古い町を軽く回るとさっき来た道に戻ってきた。
 佐竹の居場所は分からないけど、事務所に行けば分かるだろう。
 古い方の町に事務所はなかった。ならこっちにあるはずだ。誰かに聞けばすぐに分かる。こういう時、小さな町は便利だ。グーグルマップすらいらない。
 だけど住みたいかと聞かれればノーだ。田舎の濃密な人間関係と監視社会を上回るなにかがあれば別だけど、今のところそんなものは見当たらない。
 まあねこ好きにはいい町なのかもしれないけど。
「なんだ?」
 右手にパトカーが数台駐まっているのが遠くに見えた。
 行ってみると神社に警察関係者らしき人が数人集まっている。その中にさっきあった三井もいた。
「どうかしたんですか?」
 なにか知れるかもと声をかけると三井は俺に気付き、爽やかに笑った。
「どうも。いえね。町長の車が見つかったんですよ。中に血痕もあったので犯行に使われたんだろうと話していたところです」
 ペラペラと話す三井に同僚の刑事が軽く睨む。だが三井は笑っていた。
「おっと。でもこれくらいはいいだろ? なにか知ってるかもしれないんだから」
 力関係が上なのか、同僚の刑事はなにも言わなかった。
 町長の車と言われるものを見て俺は思い出した。
「あ。その車だったら昼前に来た時もありましたよ」
「そうですか。だとすると犯行に使われた深夜に放置されたんでしょう。でもどこに行ったらあんな傷だらけになるんでしょうね?」
「傷?」
 見てみると両側面が擦り傷やへこみでボロボロになっていた。
「あれで森の中を走ったとかですかね?」
「どうでしょう。あの森は木が多いし、なぎ倒された跡もなかった。変電所へ通じる道も最近車が通った痕跡がありません。でも車内から町長のものと思われる血痕がある。だとすると車で殺害し、森の近くまで行って運んだ可能性が高いですが、血の跡はなかった」
「死体をなにかに包んでいたんじゃないですか?」
「そうでしょうね。そうだとしたら死体のどこかに包んだなにかが付着しているはずです。今はそういうことも科学捜査で分かるんですよ。でもだったら確実に犯人は二人以上いるはずです。森の入り口から犯行現場までは二キロ以上ありますからね。百キロ近い男性を一人で運ぶのはよっぽどの力がない限り不可能です」
 二人以上。ならあの三人組が有力か。
 それか佐竹に協力者がいるかだ。町長婦人は町にいなかったわけだしな。
「町田のグループは見つかったんですか?」
「いえ。まだです。ですが隣町で乗り捨てられた車が見つかっています。その内見つかるでしょう。まあタイミングから見てなにか知ってるのはまず間違いないですし、早く捕まってくれるとこちらも楽なんですがね。人員も外に割かないで済みますし。ただでさえあっちの町は事件が多くてその分人もかけてますから」
「なにかあったんですか?」
 三井は同僚を見た。同僚は無言で圧力をかけてくる。三井はこちらに向き直してただ笑った。
「そうですよね」と俺は理解する。
「取材してるようですけど有馬さんはなにか分かりましたか?」
「いえ。これと言っては。でもいいんですか? 俺も容疑者なんじゃ?」
 三井はフッと笑った。
「有馬さんと朝陽さんは編集部の方に連絡して確認が取れました。この町となんの縁もないみたいですしね。まあ完全にシロとはいきませんが。人というものはどこで繋がっているか分かりませんからね。それは銀行員の大槻さんや島内さんもそうです」
「じゃあ、あの二人も?」
「電話で確認は取れました。ただそれだけです」
「永野とかいう若い女性は?」
 俺の問いに三井は沈黙し、やはり爽やかに笑った。
 どうやら言うつもりはないらしい。この分だと俺もまだ疑われているみたいだ。
 少し協力して心象をよくしておくか。
「そう言えばさっき町長の奥さんが帰ってきてましたよ」
「え? 本当ですか? 困ったな。戻ったらすぐ交番に来るよう言っておいたんですが。家ですか?」
「はい。そっちの」
 俺は先ほどいた方角を指差した。
「そうですか。ありがとうございます。まったくあの秘書と言い、ここの人は約束を守ってくれませんね」
「え? 佐竹さんともなにかあったんですか?」
「ええ。町長の行動や人間関係が知りたくて色々見せてもらう約束をしたんですが、どうやら事務所にもいないようです。まあもしかしたら屋敷にいるのかもしれませんね。奥さんに色々と報告があるでしょうし」
「なるほど……」
 車あったか? 奥さんのベンツしか見てないけどな。ここに来るまで一台ともすれ違わなかったし。
 事務所にいないなら佐竹は家か。もしかして捕まる前に逃げたとかないだろうな。だとしたら事件は解けなくなる。その場合このネタはどっちのものなんだ?
 変なことを心配していると三井に「よかったら有馬さんも一緒にどうですか?」と誘われた。
 たしかに三井と一緒なら話は聞けるだろう。だが……。
「……遠慮しておきます」
「そうですか。では」
 三井は同僚達と共にパトカーや車に乗って町長の屋敷に向かった。
 一人残されるとやはり行けばよかったなんていう後悔が滲む。だけどこれでいいとも思った。
 朝陽の方が先に町長の奥さんを怪しんだんだ。横取りするのはフェアじゃない。
 俺は苦笑した。
 きっとこういう性格がダメなんだろう。もっとがめつくいかないと売れるものも売れない。
 流行りに乗るのがイヤだとか、人と同じことはしたくないとか。
 そういうことにこだわってきた。だけどもうそういうこだわりを捨てないといけないところまで来たのかもしれない。
 ……いや、まだもう少し頑張ってみるか。
 先のことを考えるのはこの事件が終わってからでも遅くない。
 移動の連続で少しずつ暗くなってきた中、俺は今一度やる気を入れ直し、この変な町を歩き出した。
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