それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 げんなりしていたのは俺だけじゃないらしく、朝食を食べにレストランへ向かう途中、中々やってこない古いエレベーターを待っていると大槻さんに苦笑しながら挨拶された。
「おはようございます。なんかすごいことになってますね」
「そうですね。もう滅茶苦茶ですよ。一体なにがしたんだか」
「あの岩間って町長がすごく強かった町ですからね。いなくなったらこれまで抑えつけられてた人が出てきたんじゃないですか」
「だとしてもこんな同時にって……」
「聞いた感じ木下さん以外は商工会の人が多かったから、なんか自分達に有利なことを考えてるのかもしれませんね。まあ、朝は勘弁してほしいですけど」
「本当ですよ」と言ったところでようやくエレベーターがやってきた。ドアが開くと朝陽があくびしていた。
「お前もあれに起こされたのか?」
 エレベーターに乗り込みながら聞くと朝陽眠そうに目を瞑った。
「まあね。昨日遅くまで原稿してたからもう少し眠たかったのに。おっさん達の合唱で起こされるなんて最悪の朝だわ」
 こんなところでも原稿か。仕事があるのは羨ましいけど、大変だな。それにしても珍しく朝陽と意見が合った。せっかくホテルに泊まっているんだ。騒音は勘弁願いたい。
 大槻さんは苦笑いを継続する。
「残念ですけど選挙期間はこれからみたいですからしばらく続きそうですね。注意したら止めてくれそうですけど。それか早く仕事を終わらせて出て行くかになりそうですね。トラブルはごめんなので自分は後者にしようかな」
「あたしもそうするわ。できれば明日の朝には帰りたいくらい」
 明日の朝と聞いて俺は驚いた。内心焦っているとエレベーターのドアが開く。大槻さんが開くのボタンを押してくれたので俺と朝陽は会釈して先に出た。
「随分な余裕だな」
「余裕なんてないわ。あたしはあなたと違って暇じゃないだけ」
「俺だって暇じゃないぞ?」
「どうせねこの世話でしょ」
 朝陽はパパの頭を軽く撫でた。パパは嬉しそうに目を瞑る。
 そこへ入り口から島内さんが入ってくる。どうやらまた雀荘に行ってたらしい。かなりイライラしてドアの外を睨んだ。
「あのおっさん達はなんなんだ? ただでさえ寝てないって言うのに。くそが」
 舌打ちする島内に朝陽はうんざりし、見もしないでレストランへ入って行った。
 俺も苦笑して中へ続くとちょうど永野がコーヒーをカップに注いでいるところだった。
 永野は俺とパパを見て気まずそうにする。それはこっちも同じだった。
「えっと、おはようございます」
「……おはようございます」
「その、部屋に置いてきた方がいいですかね?」
 俺がパパを持ち上げると永野は申し訳なさそうにかぶりを振った。
「大丈夫です。すいません。あの時は色々あったせいでちょっとイライラしてて。ごめんね。ねこちゃん」
 初対面の時と違い殊勝な態度の永野はパパに謝った。パパは許したのかにゃーと返事をする。
 永野は笑った。
「よかった。じゃ」
 永野は手を振って席に戻った。
 俺がパパに「よかったな」と言うとパパは満更でもなさそうに口の周りをぺろりと舐めた。
 ねこの祟りは七代までと言うが、パパに至ってはそうじゃないらしい。そんなことより朝食が楽しみなんだろう。先ほどから鼻をクンクンと動かしている。
 パパをいつものVIP席に置くとあとはスタッフがお世話をしてくれた。
 彼らにパパを任せ、今日は洋食かなと思いながらプレートを埋めていく。慣れてきたのかだんだん綺麗に盛り付けられることができてきた。さり気ない日常を彩るセンスが磨かれている。
 コーヒーをカップに注いでテーブルに戻り、さてのんびり食べ始める。周囲をチラリと見てあることに気付いた。
 そう言えば宿泊客が増えたな。最初は俺達五人だけだったのに、記者らしき人達がちらほらいる。きっと昨日の事件を嗅ぎ付けて急遽予約を取ったんだろう。
 記者の次は作家がやってくる。ゆっくりしてると朝陽以外にネタを取られるな。
 もう佐竹に狙いをつけて探してみるか。見つけて話をすればなにかボロが出るかもしれない。
「あれ?」
 隣の席でコーヒーを飲んでいた朝陽が何かに気付いた。
「どうした?」
「静かになってない?」
「え? あ。本当だ」
 さっきまでうみねこ並にうるさかった立候補者達の声がぴたりと止んでいる。
 かと思えば記者と思われる男達のスマホが一斉に鳴り出した。
 電話に出る男達の顔は一同驚いている。そして多くが朝食を切り上げ、外に向かって走りだした。
「なんだ?」
 不思議に思った俺は近くにいた一人に尋ねた。
「あの。なにかあったんですか?」
 記者と思わしき男は慌てながら皿に盛っていたロールパンを掴み、早口で説明してくれた。
「また死体が出たんだよ!」
 俺も隣にいた朝陽も驚いた。朝陽は聞き返した。
「また? 誰の?」
「死んだ町長の秘書だ!」
 男はそう言うとコーヒーを飲み干し、他の記者に負けまいとレストランの出口へと飛び出した。
 朝陽は呆然としていた。
「佐竹が死んだ? そんなまさか……」
 朝陽から力が抜けていく。俺もいきなりのことで訳が分からなかった。
 分かってることは一つだけ。
 この奇妙な町で連続殺人が起きた。
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