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その後、スタッフや朝陽もパパを探してくれたが、結局見つからないままだった。
「外には出ていないはずなんですけど……」
あの受付曰く、裏口には鍵がかかっており、窓も全て閉まっている。残るは入り口だけだがパパが下に降りてから一度も開いてないそうだ。
ならホテルの中にいるはずだが、どこを探してもパパは見つからなかった。
預かってカネをもらっているのにこのままじゃヤバい。
俺は気が進まなかったけどルドリックさんにウェブ通話をかけてみた。ルドリックさんはすぐに出た。
「はい。シメーさん。どうしましたか?」
「すいません。いきなり。あ。今そっちは深夜でした?」
「お気になさらず。こっちは日本と違って二十四時間開いている店が近くにあるわけではないですから。大体夜に出歩いたら殺されても文句が言えませんし。だからベッドの上で授業で使う資料をまとめていました。そちらはどうですか?」
俺は躊躇いながらもルドリックさんに事情を話した。この町に来てからのことを全部だ。
すると電話の向こうから楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「アッハッハッハッハ! 愉快! とても愉快な町ですね!」
「いや、笑い事じゃないですよ。パパもいなくなっちゃったし……」
「心配無用です。彼はとても賢いねこですから。でも小心者なところもありますからね。今は少し隠れているだけでしょう。お腹が減ったら自分から出てきますよ」
「だといいんですけど……」
「大丈夫です。それよりシメーさんにはやるべきことがあるでしょう? その事件を解決しないと次の本が出せないじゃないですか」
「それはまあ、そうですけど……」
歯切れの悪い俺にルドリックさんは諭すように言った。
「シメーさん。ここアメリカにはたくさんの成功者がいます。その成功者にはある共通点がある。なにか分かりますか?」
「……いえ」
「成功するまで諦めないことです。やり続けることです。途中の失敗なんて気にしません。ただただ前に進むんです。立ち止まっていたらその間にライバルが追い越していきますからね。怖いのは失敗することではありません。やめてしまうことです。足を止めれば今までの努力は水の泡になってしまいますから。私の言いたいことが分かりますか?」
「……はい。なんとなくですけど……」
「よかった。ではあなたはあなたの仕事に戻ってください」
ルドリックさんは楽しそうな声を残して通話を切った。
よかった。悲しんでなかった。
たしかにルドリックさんの言う通りだ。ここでやめたら水の泡。パパがいなくなるのは想定外だけど、まだ終わったわけじゃない。
不幸中の幸いにこの町ではねこが大事にされている。事故にあったり殺処分される確率は低いだろう。
ルドリックさんがパパを信じているんだ。俺も信じよう。
落ち込んでいた気分が少しずつ戻ってくる。
冷静になれば俺はこの事件に行き詰まっていた。
パパを探すことで事件から逃げようとしていたのかもしれない。そんなことをしてもなにもならないのに。
次回作に人生を賭けるつもりだった。だけど覚悟は風化していく。それをすんでのところで食い止められた。
気合いを入れるため、ロビーのソファーで大きな息を吐いた。
「よし」と呟き、湧いてきたやる気を行動に換えようとする。
そこにやってきた朝陽は珍しく俺を励ました。
「まあ、その内帰ってくるわよ」
「……そうだな。あいつは賢い。きっとなにか土産でも持って戻って来てくれるよ。悩んでても仕方ないし、事件を解きながら探してみる。ホテルの中にいたら捕まえといてくれるってスタッフが言ってくれたしな」
俺がゆっくりと立ち上がると朝陽は意外そうに見上げた。
「あら。思ったより前向きね」
「もう後ろがないんでね」
朝陽は一瞬目を見開き、そして前を向いて遠くを見た。
「そう……。そうね……」
妙に納得して呟く朝陽を不思議に思いながら、俺はホテルの外へと向かった。
「外には出ていないはずなんですけど……」
あの受付曰く、裏口には鍵がかかっており、窓も全て閉まっている。残るは入り口だけだがパパが下に降りてから一度も開いてないそうだ。
ならホテルの中にいるはずだが、どこを探してもパパは見つからなかった。
預かってカネをもらっているのにこのままじゃヤバい。
俺は気が進まなかったけどルドリックさんにウェブ通話をかけてみた。ルドリックさんはすぐに出た。
「はい。シメーさん。どうしましたか?」
「すいません。いきなり。あ。今そっちは深夜でした?」
「お気になさらず。こっちは日本と違って二十四時間開いている店が近くにあるわけではないですから。大体夜に出歩いたら殺されても文句が言えませんし。だからベッドの上で授業で使う資料をまとめていました。そちらはどうですか?」
俺は躊躇いながらもルドリックさんに事情を話した。この町に来てからのことを全部だ。
すると電話の向こうから楽しげな笑い声が聞こえてくる。
「アッハッハッハッハ! 愉快! とても愉快な町ですね!」
「いや、笑い事じゃないですよ。パパもいなくなっちゃったし……」
「心配無用です。彼はとても賢いねこですから。でも小心者なところもありますからね。今は少し隠れているだけでしょう。お腹が減ったら自分から出てきますよ」
「だといいんですけど……」
「大丈夫です。それよりシメーさんにはやるべきことがあるでしょう? その事件を解決しないと次の本が出せないじゃないですか」
「それはまあ、そうですけど……」
歯切れの悪い俺にルドリックさんは諭すように言った。
「シメーさん。ここアメリカにはたくさんの成功者がいます。その成功者にはある共通点がある。なにか分かりますか?」
「……いえ」
「成功するまで諦めないことです。やり続けることです。途中の失敗なんて気にしません。ただただ前に進むんです。立ち止まっていたらその間にライバルが追い越していきますからね。怖いのは失敗することではありません。やめてしまうことです。足を止めれば今までの努力は水の泡になってしまいますから。私の言いたいことが分かりますか?」
「……はい。なんとなくですけど……」
「よかった。ではあなたはあなたの仕事に戻ってください」
ルドリックさんは楽しそうな声を残して通話を切った。
よかった。悲しんでなかった。
たしかにルドリックさんの言う通りだ。ここでやめたら水の泡。パパがいなくなるのは想定外だけど、まだ終わったわけじゃない。
不幸中の幸いにこの町ではねこが大事にされている。事故にあったり殺処分される確率は低いだろう。
ルドリックさんがパパを信じているんだ。俺も信じよう。
落ち込んでいた気分が少しずつ戻ってくる。
冷静になれば俺はこの事件に行き詰まっていた。
パパを探すことで事件から逃げようとしていたのかもしれない。そんなことをしてもなにもならないのに。
次回作に人生を賭けるつもりだった。だけど覚悟は風化していく。それをすんでのところで食い止められた。
気合いを入れるため、ロビーのソファーで大きな息を吐いた。
「よし」と呟き、湧いてきたやる気を行動に換えようとする。
そこにやってきた朝陽は珍しく俺を励ました。
「まあ、その内帰ってくるわよ」
「……そうだな。あいつは賢い。きっとなにか土産でも持って戻って来てくれるよ。悩んでても仕方ないし、事件を解きながら探してみる。ホテルの中にいたら捕まえといてくれるってスタッフが言ってくれたしな」
俺がゆっくりと立ち上がると朝陽は意外そうに見上げた。
「あら。思ったより前向きね」
「もう後ろがないんでね」
朝陽は一瞬目を見開き、そして前を向いて遠くを見た。
「そう……。そうね……」
妙に納得して呟く朝陽を不思議に思いながら、俺はホテルの外へと向かった。
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