それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 さすがに四人が同じ場所で選挙演説をすればうるさくて苦情が出たらしく、今は木下さんだけがスーパーの前でやっていた。
 それにしても四人同時の出馬か。時期町長と目されていた佐竹が死んだ直前の立候補だ。あまりにもタイミングが良すぎる。
 事件と関係している可能性は高いだろう。この中に犯人がいてもおかしくない。
 特に運送会社の舟山は要注意だ。話をしたけど政治家になりたがるような性格じゃなかった。もっと気が小さく、誰かの指示を待つような人だ。あれで社長なんだから実は違うかもしれないが。
 木下さんの演説は誰も聞いていなかった。
 それも内容を聞いて納得した。
『私はこの猫神伝説に則ったルールを全て廃止しようと思っています! こんなもの百害あって一利なし! そんなことよりももっと子育て支援に重点を置くべきです!』
 あまりにも真っ当な意見だった。だからこそこの町では異質だ。意見には同意していても表立って木下さんを支持すれば村八分に遭うかも知れない。そう考える人も多いだろう。
 演説が一段落すると木下さんに話しかけてみた。
「出馬するんですね」
 木下さんは照れながらマイクをオフにする。
「まあね。ガラじゃないのは分かっちゃいるんだが。どうしてもやらないといけない気がして」
「そうですか。でも大変ですね。いきなりライバルが三人も出てきて」
「おうよ。まさかあいつらが出馬するとはな。こっちも完全に予想外だ。恥ずかしい話だが、空き巣狙ってただよ。殺された奴の後釜なんて誰もやりたがらないと思ったんだけどな」
 木下さんは照れくさそうに笑った。
 でも狙いは悪くない。ここの町は三代続けて岩間一族が町長を独占している。そんな町で政治家志望が育つわけがない。誰かがなってくれるだろうと静観する人がほとんどだろう。
 かく言う俺も自分のところの町長や市長が殺されても立候補しようなんてつゆほども思わない。
「運送屋の舟山さんは知ってるんですけど、他の二人はどういう人なんですか?」
「梅田と吉永か? 梅田は建設会社をやってる。吉永は車の修理だ」
「二人とも経営者なんですか?」
「そうだよ。どっちも小さい会社だけどな」
 舟山も経営者だ。田舎だと地主や会社の社長が政治家になるって聞くけど本当なんだな。地主だった岩間がいなくなった今、社長が次の座を狙っているんだろう。
 木下さんは眉をひそめた。どうやら後悔しているようだ。
「でもあいつらが立候補するなんてな。失敗したよ」
「失敗というと?」
「岩間が死んだあとに町の連中で話し合ったんだよ。その時にあの三人も顔を出してたんだ。そこでつい立候補するって口を滑らせてちまってな。年寄りいじめようってんだ。まったく意地が悪いぜ」
 あの三人は木下さんが出馬するのを知っていたのか。
 それで妨害をする為にわざわざ出馬した? そんなことあるのか?
「ただの偶然じゃないですか?」
「いや。あいつらのことはガキんちょ時から知ってるけど、そんな野心があるなんて思ったこともなかったね。会社持つってだけでも身の丈に合ってねえ。人の下で働けない奴っているだろ? そういう奴は独立したがるんだが、大抵は会社を潰しちまう。あいつらも似たようなもんさ。潰してないけど、いつも火の車だ」
「だから町長になろうと?」
「さあね。まあそれなりに給料は出るんだろうし、自分の会社に有利なことも色々できると思ってるんだろう。まったくふざけてるよ」
 たしかにそれが狙いなら木下さんが怒るのも無理はない。
 でも最近は地方の政治家に立候補する人が少ないって言うし、狙い目ではあるんだろう。そのせいで倍率が跳ね上がっては本末転倒だが。
「小説家の兄さん。これからあいつらのとこ行くの?」
「まあ、そうですけど」
「じゃあ言っといてくれねえか。馬鹿なことはやめろって」
「それはちょっと……。でもそこまでして町長になりたいんですね?」
「まあね。なりたいって言うか、心配なんだよ。この町が。これからどうなるかみんな不安なんだ。それを少しでも和らげてやりたいんだよ。だったら暇な年寄りが一肌脱ぐしかねえだろ」
「なるほど」
 木下さんは本当にこの町のことを思ってるんだな。
 でもだからこそ動機になり得る。町を守るために岩間と佐竹を殺した可能性もあるんだ。
 ただやっぱり一人では岩間の死体を運べないから共犯者が必要だ。だけど周囲を見渡してもそんな人物は見当たらなかった。
 完全なる孤立無援だ。
 それについては少し哀れに思いつつ、俺は次の候補者を目指した。
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