それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 次に吉永の自動車修理場にやって来た。
 町外れにあるトタンの壁に覆われた古くて小さな工場だ。
 俺が行った時、吉永は車の下に潜っていた。
「あのー」と声を掛けると汚れた中年男が這い出てくる。
 メガネをかけて頭がボサボサだった。
「なに?」とぶっきらぼうに聞き返す吉永に俺は取材の申し込みを試みた。
「これが終わったらでいい?」
「はい。待ってます」
 俺がそう言うと吉永は再び車の下に戻っていった。
 しばらくして一段落したらしく、俺は工場の横にある三畳ほどの事務所に通された。
 会社の社長と言っても従業員はこの人だけらしい。
「それで?」
 吉永は淡泊に尋ねた。
「ええとですね。出馬した人に色々聞いて回ってて」
「うん。で?」
「その、立候補した理由なんかは?」
「理由……。まあ………………色々と」
「……色々? その、具体的には?」
「…………色々は色々。車と一緒。車検の時にあれこれ見るだろ?
エンジンオイルを入れたり、タイミングベルトを交換したり。色々やって動くようになる。それと同じ」
 なにを言ってるんだ?
 俺の読解力では吉永の言っている意味は分からなかった。選挙で言うエンジンオイルはなんだ?
「……そうですか。えっと、吉永さんは猫神伝説肯定派ですか? 否定派ですか?」
「伝説? ああ。ルールのこと? あれはあった方がいいと思う」
「それはどうして?」
「色々」
「色々……?」
「エンジンにもV6が好きな人とかV8が好きな人がいる。NAだったりターボだったりスーパーチャージャーだったり。好みは人それぞれ」
「はあ……」
「それと同じ。俺はあれを気に入ってる。良いルールだ」
「なら勝っても残すべきだと?」
「うん」
「……そうですか」
 この人にとって猫神伝説が何リッターのエンジンなのかは分からないが、どうやら肯定派で間違いないらしい。
 それにしてもやる気が感じられない。嫌々やってる感じがすごい。
 選挙に嫌々出るなんてあり得るんだろうか?
 疑っていると吉永は面倒そうにペンを回し始めた。それはあのモグラのペンだった。
 やっぱり流行っているらしい。
「もういい? オイル漏れ直さないといけないんだけど。ひどいから組み直し。あれは添加剤じゃ無理だ」
「はあ……。お忙しいところすいません」
 よく分からないまま謝ると追い出されるように事務所から出た。
 振り返ると今にも潰れそうな自動車修理場が建っている。看板の字は掠れてほとんど読めなかった。
 どう考えても商売が上手くいっているとは思えない。そんな人がなんで手間もカネもかかる選挙になんて出るんだろうか?
 変な人だなと思いつつ、最後に残った舟山の運送会社に向かった。
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