それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 猫神像に頭を下げるのが馬鹿らしく、像が見えない道路側から舟山の会社を訪ねた。
 意外にも横断幕や顔写真入りの看板なんかの用意にどこから集めたか知らないが何人かの若者が駆り出されていた。
 他の肯定派と違い、舟山の選挙陣営はやる気があるように見える。
 だが当の本人は働く若者達を端っこで心配そうに眺めていた。
「こんにちは」
 挨拶すると舟山はビクッと体を震わし、恐る恐る俺の方を向いた。俺だと分かると安堵している。
「ど、どうも……。記者さんでしたよね……。今度はなんですか?」
 そう言えばそういう設定だったな。
「まあ、はい。出馬する全員に話を伺っているんですが、お時間いいですか? 少しだけでいいんですけど」
 舟山は悩んでから「少しなら」と言ってくれた。
 前も思ったけどどうも押しに弱い。イヤでもイヤと言えない性格みたいだ。こんな人が町長に立候補して大丈夫なのか?
 俺は心配になりながらメモ帳を取り出した。
「ええと。他の人にも聞いているんですけど、どうして出馬しようと思ったんですか?」
「え? それはまあ、岩間さんが亡くなられたので、その代わりとい言いますか……」
「代わり?」
「だ、誰かがやらないとダメですし……」
「木下さんも立候補しましたよね? あの人ではダメだと?」
「だって猫神様を敬うルールをなくそうとしているわけでしょう?そ、そんなことしたら町に天罰が下りますよ……」
 舟山は本当に天罰を恐れているようだった。安全を確認するように周囲をちらちらと見ている。
 会社になにかが起こると思っているのか作業スペースの方へと頻繁に視線を投げていた。
 俺もそちらを見てみるが特になにもない。トラックに荷物を載せるスペースがあるだけだ。
「では当選したら今まで通り猫神を尊重する町作りをしていくということですね?」
「はい……。そうです……」
 俺はスタッフが気になって聞いてみた。
「この人達は? 従業員ですか?」
「いえ。従業員は仕事に出ています。この人達は知り合いからの紹介で、色々と手伝ってくれているんです……」
「へえ。随分若い人達が多いですね。選挙では珍しい気がします」
「ど、どうなんでしょう……。なにぶん初めてなもので……」
 舟山は気まずそうに下を向いた。
 なにか違和感を覚える。スタッフはよく動いているが嫌々やっている感じがした。それにさっきからジロジロ見られているがみんな目つきが悪い。
 邪魔だと思われてるんだろうか? それともスパイと勘違いされているとか?
 猫神肯定派の陣営だと言うのにさっきから猫神像が視界に入っても頭を上げるそぶりもない。
「皆さんお忙しそうですね」
「え? ああ……。まあ……。よくやってくれてます……」
「でもお仕事しながらだと選挙活動は大変では?」
「それはまあ……。でもなんとかやっていきますよ……。あの、これくらいでいいですか?」
 舟山は更にソワソワしてきた。なんだかいじめているみたいで申し訳ない。
「そうですね。ありがとうございました」
 俺は礼を言ってから運送会社をあとにした。
 広場に出ると渋々猫神像に頭を下げる。役所がすぐそこだから見つかって追い出されでもしたら最悪だ。
 そんな俺を見て舟山の選挙スタッフ達はクスクスと笑っていた。
 正直腹が立ったが、こうすることに慣れてきている自分もいて、むしろやらないあいつらがおかしいと思ってしまっている。
 この町に長く居るのは危ない。そう思いつつも事件が解けるまでは出て行くことはできない。
 色々と回ったが肝心の事件はまだまだ解けそうになかった。
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