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休憩がてらホテルに戻るとすぐさま受け付けに向かった。
若い男は俺を見つけると残念そうな顔になり、聞く前から答えを察してしまった。
「あの、うちのねこは?」
「申し訳ありません……。まだ見つからなくて……。ずっと僕が入り口を見張っているんで外には出てないと思うんですけど……」
「そうですか……。すいません。迷惑かけちゃって……」
「いえ。気にしないでください。パパ様も当ホテルの立派なお客様ですから。気を配るのは当然です」
スタッフは本心でそう言っているようだった。
改めてこの町でパパが迷子になったのは不幸中の幸いだと思った。
俺は「ありがとうございます」とお礼を言ってラウンジのソファーに腰を下ろした。
昼食はスーパーでなにか買って適当に済ますしかないな。この町でやってる食事処はどこもメディアの連中で込んでるし。
そう言えば温泉施設に食堂があったな。まだ行ってないし行ってみるか。
と言うより行くところがもうあまりない。立候補者達は全員怪しかったが人を殺すような奴には見えなかった。
あるとすれば猫神否定派の木下さんが一人でやったか、あるいは猫神肯定派の三人が裏で結託しているかだが、所詮は田舎の町長だ。二人も殺してまでなるメリットが俺には一切分からなかった。
それとも俺の知らないメリットがあるのだろうか? もし印税が倍になるなら俺も町長を殺してたかもしれないな。
「馬鹿なこと考えてる顔ね」
朝陽は呆れながら俺の顔を覗き込む。
「もう帰ってきたの? なにか収穫はあった?」
「……ないから帰ってきた。それにあっても言うかよ」
朝陽はムッとした。
「ねこちゃんならまだ見つかってないわよ」
「聞いたよ。まあその内出てくる。そっちはどうなんだ? 犯人に目星は付いたのか?」
「付いても言うわけないでしょ。まあ、実際は困ってるからこんなところをブラブラしてるわけだけど。外は怖いし」
「意外と小心者だな」
「自分の為じゃないわよ」
どういう意味かは分からないが朝陽がここに居てくれるのはありがたい。この間になんとかリードしたいものだ。
そう思っていたら朝陽は余裕ありげに微笑んだ。
「どうせこのままだったらあなたの残金が尽きて自動的に勝てるんだもの。そのあとに誰かが解けばそれを取材して本にするわ」
「お前な……。早く帰りたいとか言ってただろ?」
「あれはまあ……、なんとかなったの。そんなことあなたには関係ないでしょ。さっさと諦めなさいよ」
「諦めてたまるか。残金が尽きたら野宿でもしてやるよ。風呂は温泉があるしな。発電所の近くに廃屋が見えただろ? あそこで寝たらいい」
「ねこちゃんはどうするの?」
「この町にいれば食べ物はどうとでもなるし、案外パパも森の中を気に入るかもしれないしな」
「どれだけポジティブなのよ」
朝陽は呆れ果てて嘆息する。
「ポジティブなもんか。現実逃避だよ。でも結果が出ればなんでもいい。みっともなくても勝ちは勝ちだ。だからお前の方こそ諦めろ。大体俺と違っていくらでも本を出せるんだからわざわざこのネタに執着しなくてもいいだろ?」
「それはまあ、そうだけど……」
朝陽は歯切れ悪くそう言いながら視線を外した。
「はい。じゃあ俺の勝ちな。お前は負け。これが一番平和だ。貧乏人からネタを取るな。罰が当たるぞ」
「なんでそうなるのよ。こっちだってホテル代や交通費を投資してるんだから。回収しないと割に合わないわ」
「そんなの編集部に出させろよ。売れてる作家の特権だろ? 売れてない作家が取材費出せなんて言ったら次から相手にされなくなるけどな」
「こっちも色々と気を遣うのよ。あなたこそいつまでも同じ編集部にしがみついてないで他を探したらいいじゃない。原稿送るとか賞に出すとかしたらどう?」
「うるさいな。これがダメだったらそうするつもりだよ。お前は俺の母親か?」
「こんな子供に育ったら泣くわ」
「え?」
「え?」
俺がポカンとすると朝陽もポカンとした。
「なに?」
「え? いや、お前、子供とかいるのか?」
「は? なんで?」
「だって産んだらとかじゃなくて育ったらって言ったから」
朝陽は視線を上にやり、脳内で先ほどの会話を巻き戻しているようだった。そしてなにかに気付いて慌てだす。
「そ、それはあれよ。比喩よ。あたしくらいになるといつ如何なる時も比喩れるの」
「なんだよ比喩れるって。校正さんに赤入れられるぞ」
「造語なんだからいいでしょ。たまにむかつく時あるわよね。あれ」
「たまにか?」
俺が怪しんでいると朝陽はそっぽを向いた。
「とにかくあたしから諦めるなんてことはないの。それだけは分かっておいて。じゃ」
よっぽど気まずかったのか朝陽は怖いと言っていた外に出ていった。
なんだあれは? と思いつつもあいつに構っている暇はない。
温泉でこの土地に詳しい人でも見つけて聞き込みするか。
お腹が空いてあまり動きたくはなかったが、それでもなんとか体を起こし、俺は温泉へと向かった。
若い男は俺を見つけると残念そうな顔になり、聞く前から答えを察してしまった。
「あの、うちのねこは?」
「申し訳ありません……。まだ見つからなくて……。ずっと僕が入り口を見張っているんで外には出てないと思うんですけど……」
「そうですか……。すいません。迷惑かけちゃって……」
「いえ。気にしないでください。パパ様も当ホテルの立派なお客様ですから。気を配るのは当然です」
スタッフは本心でそう言っているようだった。
改めてこの町でパパが迷子になったのは不幸中の幸いだと思った。
俺は「ありがとうございます」とお礼を言ってラウンジのソファーに腰を下ろした。
昼食はスーパーでなにか買って適当に済ますしかないな。この町でやってる食事処はどこもメディアの連中で込んでるし。
そう言えば温泉施設に食堂があったな。まだ行ってないし行ってみるか。
と言うより行くところがもうあまりない。立候補者達は全員怪しかったが人を殺すような奴には見えなかった。
あるとすれば猫神否定派の木下さんが一人でやったか、あるいは猫神肯定派の三人が裏で結託しているかだが、所詮は田舎の町長だ。二人も殺してまでなるメリットが俺には一切分からなかった。
それとも俺の知らないメリットがあるのだろうか? もし印税が倍になるなら俺も町長を殺してたかもしれないな。
「馬鹿なこと考えてる顔ね」
朝陽は呆れながら俺の顔を覗き込む。
「もう帰ってきたの? なにか収穫はあった?」
「……ないから帰ってきた。それにあっても言うかよ」
朝陽はムッとした。
「ねこちゃんならまだ見つかってないわよ」
「聞いたよ。まあその内出てくる。そっちはどうなんだ? 犯人に目星は付いたのか?」
「付いても言うわけないでしょ。まあ、実際は困ってるからこんなところをブラブラしてるわけだけど。外は怖いし」
「意外と小心者だな」
「自分の為じゃないわよ」
どういう意味かは分からないが朝陽がここに居てくれるのはありがたい。この間になんとかリードしたいものだ。
そう思っていたら朝陽は余裕ありげに微笑んだ。
「どうせこのままだったらあなたの残金が尽きて自動的に勝てるんだもの。そのあとに誰かが解けばそれを取材して本にするわ」
「お前な……。早く帰りたいとか言ってただろ?」
「あれはまあ……、なんとかなったの。そんなことあなたには関係ないでしょ。さっさと諦めなさいよ」
「諦めてたまるか。残金が尽きたら野宿でもしてやるよ。風呂は温泉があるしな。発電所の近くに廃屋が見えただろ? あそこで寝たらいい」
「ねこちゃんはどうするの?」
「この町にいれば食べ物はどうとでもなるし、案外パパも森の中を気に入るかもしれないしな」
「どれだけポジティブなのよ」
朝陽は呆れ果てて嘆息する。
「ポジティブなもんか。現実逃避だよ。でも結果が出ればなんでもいい。みっともなくても勝ちは勝ちだ。だからお前の方こそ諦めろ。大体俺と違っていくらでも本を出せるんだからわざわざこのネタに執着しなくてもいいだろ?」
「それはまあ、そうだけど……」
朝陽は歯切れ悪くそう言いながら視線を外した。
「はい。じゃあ俺の勝ちな。お前は負け。これが一番平和だ。貧乏人からネタを取るな。罰が当たるぞ」
「なんでそうなるのよ。こっちだってホテル代や交通費を投資してるんだから。回収しないと割に合わないわ」
「そんなの編集部に出させろよ。売れてる作家の特権だろ? 売れてない作家が取材費出せなんて言ったら次から相手にされなくなるけどな」
「こっちも色々と気を遣うのよ。あなたこそいつまでも同じ編集部にしがみついてないで他を探したらいいじゃない。原稿送るとか賞に出すとかしたらどう?」
「うるさいな。これがダメだったらそうするつもりだよ。お前は俺の母親か?」
「こんな子供に育ったら泣くわ」
「え?」
「え?」
俺がポカンとすると朝陽もポカンとした。
「なに?」
「え? いや、お前、子供とかいるのか?」
「は? なんで?」
「だって産んだらとかじゃなくて育ったらって言ったから」
朝陽は視線を上にやり、脳内で先ほどの会話を巻き戻しているようだった。そしてなにかに気付いて慌てだす。
「そ、それはあれよ。比喩よ。あたしくらいになるといつ如何なる時も比喩れるの」
「なんだよ比喩れるって。校正さんに赤入れられるぞ」
「造語なんだからいいでしょ。たまにむかつく時あるわよね。あれ」
「たまにか?」
俺が怪しんでいると朝陽はそっぽを向いた。
「とにかくあたしから諦めるなんてことはないの。それだけは分かっておいて。じゃ」
よっぽど気まずかったのか朝陽は怖いと言っていた外に出ていった。
なんだあれは? と思いつつもあいつに構っている暇はない。
温泉でこの土地に詳しい人でも見つけて聞き込みするか。
お腹が空いてあまり動きたくはなかったが、それでもなんとか体を起こし、俺は温泉へと向かった。
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