それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和

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 彼の理を知ることができるのは彼だけ。
 ただし、想像することはできる。
 それを生業にする者がこの町には二人居た。
 その中の一人は彼の心の内に芽生えたある変化すら読み取っていた。
 彼はそれに少しの屈辱と大いなる安堵を感じた。
 子供の頃から他人に理解されず、他人を理解できず、しかしその両方を演技として問題ないように振る舞ってきていた彼からすれば初めての体験だ。
 しかしかと言って彼の行動が変わることはない。
 いつも通り大きな流れに乗り続けるだけだ。
 彼が反社会的な組織に身を置くようになったのもそのせいだった。
 どこの組織より上の命令は絶対。どんな無茶なことでも逆らうことはできない。
 そして同時に組織は強大な力も持ち合わせている。
 ひたすら強い流れを探していた彼にとっては打って付けの居場所だった。
 杯をもらうとすぐさま頭角を現した彼は誰もやりたがらない死体処理をやらされ、その内邪魔な相手を排除する殺し屋にさせられた。
 完璧主義者の彼は自ら誰にも分からないよう計画を立て、今まで何人もの人間を殺し、時には存在そのものを消していた。
 恐怖はなかった。罪悪感もだ。むしろ安堵の方が大きい。
 自分は大きな流れの中にいることを感じられた。
 そんな彼が別の流れを感じ始めていた。
 今回の仕事は猫神町の町長とその秘書を殺すこと。死体は処理せず、脅しに使うことで今後のシノギをやりやすくするのが上の命令だった。
 岩間の父親が焼死したことを知った彼はそれを猫神伝説と結びつけることにした。
 そうすれば町民達は更に猫神の存在を信じ、無茶苦茶なルールを加算しても不思議に思わない。シノギが更にやりやすくなる。
 そのはずだった。
 だが岩間を殺し、その死体を運んでいた時、彼はなにかに見られているような感覚を覚えた。
 ちょうど風が吹き、そのせいでトンネルが不気味な音を出していたせいだったのかもしれない。
 だがなにか妙な予感がしたのは確かだ。
 その予感が現実のものとなったのは第二の殺人で佐竹を殺した時だった。
 彼の計画では木材加工場に連れて行き、機械に放り込むはずだった。その為のルートやアリバイ作りなども既に考えていた。
 だが佐竹がカネの取りに行ったのはあろうことかその木材加工場だった。
 佐竹の死体を動き出した機械に入れた時、彼ははっきりと感じた。
 今まで感じたことのない大きな流れの中に、自分がいることを。
 岩間の父親の焼死だけならともかく、佐竹が向かったのがこの町で唯一噛み殺せる木材加工場だった。
 一度だけなら偶然だが、二度続けば必然となる。
 少なくとも彼はそう感じた。
 そうなるとあとは流れに身を任せるだけだった。
 より大きな流れに。ただ、逆らわず伝説通りに振る舞えばいい。
 階段を登り切った彼は計画通り神社の裏にある道から山の中に隠れようとした。
 迷路のような山道も既に記憶しており、安全に逃げられる算段は付いていた。
 だが彼が参道を走っている時、突風が吹いた。
 足下を照らしていた灯籠の火が全て消え、周囲は暗闇に包まれる。
 彼は足を止め、そして目を開いた。
 なにも見えないはずの暗闇に彼は自分が身を委ねていたものを見た気がした。
 次の瞬間、彼は静かに全てを受け入れた。
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