54 / 67
54
しおりを挟む
病院からの帰り道。
パラパラと雨が降り始め、アスファルトの地面は色を濃くしていった。
真広が車を運転しながら高野と話したことを伝えると真理恵は小さく嘆息した。
「…………その、私にはなんて言ったらいいか……」
「そうだな……」
真広も真理恵と同じ気持ちだった。
ただ隣に住んでいた。そんな偶然から小白を預かり、そして託した。
それができる高野もまた優しい人間なのだろう。
だが不器用すぎた。もっと別の形で助けを求められたらきっと結末は変わっていただろう。おそらく誰にも言えず、一人で小白を育ててきた。なにをしたらいいかも分からず、手探りで。
それがどれだけ大変か、今の二人にはよく分かっていた。
赤信号で車を止めると真広はワイパーが水滴を払い続けるのを見つめた。
「もちろんこうすればよかったというのはあるんだろう。ただ、あの人なりに精一杯やったことだ。僕らにできることはそれを受け止めることだけだと思う」
「……ええ。そうですね。でも」真理恵は大きく息を吐いた。「あの子があまりに不憫で……」
真理恵は小白のことを考えていた。
実の親を失い、育ての親も失いかけている。それでも寂しがるそぶりも見せない。
本当なら親に甘えたい年頃だろう。子供なら尚更傷つきやすいはずだ。
なのに小白は一人で強く生きていた。
真広も真理恵も普通の家庭では育ってきていないし、自分達が恵まれていると思ったことはない。
ないが、家族はいた。
「大丈夫だ」真広は言った。「これからは僕らがいる」
真理恵は涙ぐみながら頷いた。
「ええ……。そうですね……」
真理恵は大きく息を吸い、そして胸に手を当ててなんとも言えない表情を浮かべる。
「なんだか急に怖くなってきました……。私に伯父さんほどの覚悟があるかと言うと……」
「そうだな……。僕もだよ……。だけど、やるしかない。僕らのためじゃなく、あの子のために」
「ええ……。本当に……」
真理恵は頷きながらもまだ不安は晴れていなかった。
小白になんて声をかけてあげるべきか。そんなことばかり考えていた。二人を乗せた車は国道をひたすらまっすぐと戻り、しばらくすると右折した。
坂を登っていくと雨は更に強くなり、ワイパーが忙しく動く。
沈黙が流れる中、二人は小白になんて言おうか考えていた。なんて言ってあげたらいいのか悩んでいた。
だがなにを言っても小白に気を遣わせてしまう気がして、口に出せないまま時間だけが経った。
家に戻った二人は駐車場に車を駐めて急いで下りた。
庭の隣の駐車場には屋根がないため、二人の方が微かに濡れる。
バックから鍵を取りだして鍵穴に刺した真理恵は不思議がった。
「あら。ちゃんと閉めたはずなんですけど」
家の鍵は開いたままになっていた。それを聞いて真広が不安がり、兄の顔を見て真理恵もまさかと考えた。
慌てて玄関に入り、靴を脱いだ二人はリビングに向かった。だが誰もいない。隣にある母親の部屋にもだ。
二人は青ざめて家中を探した。開けられるドアは全て開け、中を確認する。
だが小白の姿はどこにもなかった。
パラパラと雨が降り始め、アスファルトの地面は色を濃くしていった。
真広が車を運転しながら高野と話したことを伝えると真理恵は小さく嘆息した。
「…………その、私にはなんて言ったらいいか……」
「そうだな……」
真広も真理恵と同じ気持ちだった。
ただ隣に住んでいた。そんな偶然から小白を預かり、そして託した。
それができる高野もまた優しい人間なのだろう。
だが不器用すぎた。もっと別の形で助けを求められたらきっと結末は変わっていただろう。おそらく誰にも言えず、一人で小白を育ててきた。なにをしたらいいかも分からず、手探りで。
それがどれだけ大変か、今の二人にはよく分かっていた。
赤信号で車を止めると真広はワイパーが水滴を払い続けるのを見つめた。
「もちろんこうすればよかったというのはあるんだろう。ただ、あの人なりに精一杯やったことだ。僕らにできることはそれを受け止めることだけだと思う」
「……ええ。そうですね。でも」真理恵は大きく息を吐いた。「あの子があまりに不憫で……」
真理恵は小白のことを考えていた。
実の親を失い、育ての親も失いかけている。それでも寂しがるそぶりも見せない。
本当なら親に甘えたい年頃だろう。子供なら尚更傷つきやすいはずだ。
なのに小白は一人で強く生きていた。
真広も真理恵も普通の家庭では育ってきていないし、自分達が恵まれていると思ったことはない。
ないが、家族はいた。
「大丈夫だ」真広は言った。「これからは僕らがいる」
真理恵は涙ぐみながら頷いた。
「ええ……。そうですね……」
真理恵は大きく息を吸い、そして胸に手を当ててなんとも言えない表情を浮かべる。
「なんだか急に怖くなってきました……。私に伯父さんほどの覚悟があるかと言うと……」
「そうだな……。僕もだよ……。だけど、やるしかない。僕らのためじゃなく、あの子のために」
「ええ……。本当に……」
真理恵は頷きながらもまだ不安は晴れていなかった。
小白になんて声をかけてあげるべきか。そんなことばかり考えていた。二人を乗せた車は国道をひたすらまっすぐと戻り、しばらくすると右折した。
坂を登っていくと雨は更に強くなり、ワイパーが忙しく動く。
沈黙が流れる中、二人は小白になんて言おうか考えていた。なんて言ってあげたらいいのか悩んでいた。
だがなにを言っても小白に気を遣わせてしまう気がして、口に出せないまま時間だけが経った。
家に戻った二人は駐車場に車を駐めて急いで下りた。
庭の隣の駐車場には屋根がないため、二人の方が微かに濡れる。
バックから鍵を取りだして鍵穴に刺した真理恵は不思議がった。
「あら。ちゃんと閉めたはずなんですけど」
家の鍵は開いたままになっていた。それを聞いて真広が不安がり、兄の顔を見て真理恵もまさかと考えた。
慌てて玄関に入り、靴を脱いだ二人はリビングに向かった。だが誰もいない。隣にある母親の部屋にもだ。
二人は青ざめて家中を探した。開けられるドアは全て開け、中を確認する。
だが小白の姿はどこにもなかった。
1
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
海道一人
ファンタジー
二十年前、地球の各地に突然異世界とつながるダンジョンが出現した。
ダンジョンから持って出られるのは無機物のみだったが、それらは地球上には存在しない人類の科学や技術を数世代進ませるほどのものばかりだった。
そして現在、一獲千金を求めた探索者が世界中でダンジョンに潜るようになっていて、彼らは自らを冒険者と呼称していた。
主人公、天城 翔琉《あまぎ かける》はよんどころない事情からお金を稼ぐためにダンジョンに潜ることを決意する。
ダンジョン探索を続ける中で翔琉は羽の生えた不思議な生き物に出会い、憑依されてしまう。
それはダンジョンの最深部九九九層からやってきたという天使で、憑依された事で翔は新たなジョブ《運び屋》を手に入れる。
ダンジョンで最強の力を持つ天使に憑依された翔琉は様々な事件に巻き込まれていくのだった。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~
虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから
「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。
人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。
「私に、できるのだろうか……」
それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。
これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
灰かぶりの姉
吉野 那生
恋愛
父の死後、母が連れてきたのは優しそうな男性と可愛い女の子だった。
「今日からあなたのお父さんと妹だよ」
そう言われたあの日から…。
* * *
『ソツのない彼氏とスキのない彼女』のスピンオフ。
国枝 那月×野口 航平の過去編です。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる