路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 あの日から一週間が経ち、鈴原家にはまたいつもの日常が戻ってきた。
 朝。テレビがニュースを流す中、食卓には代わり映えしないメニューが並べられている。
 真理恵はテーブルで朝食を食べる小白に尋ねた。
「シャケの焼け具合はどう?」
「わるくない」
 真理恵は面白そうに笑った。
「それはよかった」
「やっぱりシャケは皮がパリってしてる方がいい。ふにゃってるのはダメ」
 小白のこだわりを聞いて真広と真理恵は微笑んだ。
 真広は安物のインスタントコーヒーを飲みながら天気予報を見ている。
「よかった。今日は晴れるみたいだ」
「昨日からそう言ってますよ。いきなり変わったら困ります」
 真理恵は心配性の兄に呆れながら味噌汁を飲み干した。皿を重ねるとそれを流し台に持っていく。その後ろでは小白が真広に尋ねている。
「次はいつおじちゃんのとこいく?」
「そうだな……。次の休みになったら行こうか」
「うん」小白は頷いた。「おみやげ持ってく。前もかいよろこんでたから」
 小白は拾った貝殻を高野にあげていた。
 高野は小白を連れて来た真広と真理恵に不満げだったが、それでも貝殻を受け取ると窓際に置いてそれを眺めていた。
 高野の容態は安定しているが、それでも磨り減った体はまたいつ壊れてもおかしくないと医者に言われていた。
 小白が「また来る」と言うと高野は小さく嘆息して呟いた。
「……ああ。待ってるよ」
 そのあと小白は勝手に家を出たことを知られて高野に怒られた。
 それ以来小白は高野のお見舞いに行きたがっていた。たくさんのことを話したかった。
 小白があまりにも楽しそうなので高野は諦めることを諦め、疲れた体を休めている。
「それじゃあいってきます。五時には帰ってきますから」
 朝の準備を終えた真理恵はそう言うと玄関のドアを開けた。
 その後ろでは「いってらっしゃい」と真広と小白が声を掛けた。
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