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夕方五時前。
約束通り蒼真が桐乃の祖母の家にやってきた。
「来たぞー」と言ってチャイムを鳴らすと浴衣姿の小白と桐乃が姿を現す。
「はーい」
二人とも馬子にも衣装で可愛らしかったが、それよりも蒼真は小白の耳を見て驚いた。
「え? それで行くの?」
小白は照れながら自分の耳を触った。
「うん。お祭りだから」
「……ふうん。まあ、いっか。お祭りだしな」
蒼真はどこか嬉しそうに頷いた。
後ろから桐乃の祖母がやってきて蒼真に尋ねる。
「お父さんはどうって?」
「仕事だから行けないって」
「あらそう。うちと一緒ね」
桐乃は楽しそうに祖母を見上げた。
「でも今年はねこちゃんがいるからさびしくないわ」
「ふふふ。よかったわね」
孫の喜ぶ姿に祖母も嬉しそうだった。蒼真は「オレは?」と言って自分を指さす。
小白は照れながらも嬉しそうに言った。
「うちはマヒロとマリエが来る。五時に」
「えー。いいなあ」桐乃は羨ましがった。「うちのパパとママは仕事ばっかりなのに」
「それはそれで大事だからしょうがない」
小白が桐乃を窘めると桐乃の祖母は面白そうにした。
「あら。えらいわね」
「うん。うちはえらい」
頷く小白は満足げだった。
約束より遅れたがしばらくしてから真広と真理恵がやってきた。
二人は浴衣姿の小白を見て驚いた。かわいらしい耳が露わになっている。だが周りはそれをあっさりと受け入れていた。
二人は顔を見合うと嬉しそうに微笑んだ。
「あらあら。こんないいのを着せてもらってすいません」
真理恵が桐乃の祖母に頭を下げている間、真広はポケットを探った。
「写真。写真撮らないと」
真広はスマホを取りだして小白と桐乃をパシャリと撮った。撮れた写真を真理恵と一緒に見て微笑む。
遠くで太鼓の音が聞こえ出すと真広は言った。
「じゃあ、行こうか」
神社に向かって歩き出すとからんころんという下駄の音が小気味よく町に響いた。
桐乃と蒼真はお祭りでなにを食べるか話し合い、真広と真理恵も桐乃の祖母と楽しそうに世間話をしていた。
辺りの家からもお祭りに向かう人達が楽しそうに出てくる。子供も大人も今日だけはみんな楽しそうだった。
小白はその雰囲気にご機嫌な足取りで坂を下っていく。
すると視界の端でなにかが動くのを見つけた。小白が立ち止まってそちらを向くと薄暗い路地裏が伸びている。
その奥の夕日に照らされたところに一匹のねこが座っていた。
そのねこは赤い毛を更に赤くして微笑を浮かべているようだった。
小白は小さく口を開けて「あ」と呟くとそのねこはなにも言わずに歩き出し、見えなくなった。
小白がぼんやりと明るい箇所を眺めていると前から真広の声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
小白は路地の奥を見つめたままかぶりを振った。
そして「……ううん。なんでもない」と言うとみんなの元に戻っていく。そのまま合流すると神社の方へと歩いて行った。
その姿をアンは屋根の上から見下ろしていた。そして目を細めて呟く。
「わたしはいつでもあなたの側にいるわ。どんな時でも。だからまた思い出して。人には希望が必要なのだから」
小さな呟きを聞いていたのはこの寂れた町だけだった。
その町をアンは柔らかな肉球で踏みつける。
どんな時でも希望は諦めない。
いつだって現実を侵食しようと待ち構えている。
だがそれは今日ではなかった。
祭り囃子が小さな町に低く響く中、小白の耳は楽しげに動いていた。
それを見て、アンは再び路地裏に消えた。
約束通り蒼真が桐乃の祖母の家にやってきた。
「来たぞー」と言ってチャイムを鳴らすと浴衣姿の小白と桐乃が姿を現す。
「はーい」
二人とも馬子にも衣装で可愛らしかったが、それよりも蒼真は小白の耳を見て驚いた。
「え? それで行くの?」
小白は照れながら自分の耳を触った。
「うん。お祭りだから」
「……ふうん。まあ、いっか。お祭りだしな」
蒼真はどこか嬉しそうに頷いた。
後ろから桐乃の祖母がやってきて蒼真に尋ねる。
「お父さんはどうって?」
「仕事だから行けないって」
「あらそう。うちと一緒ね」
桐乃は楽しそうに祖母を見上げた。
「でも今年はねこちゃんがいるからさびしくないわ」
「ふふふ。よかったわね」
孫の喜ぶ姿に祖母も嬉しそうだった。蒼真は「オレは?」と言って自分を指さす。
小白は照れながらも嬉しそうに言った。
「うちはマヒロとマリエが来る。五時に」
「えー。いいなあ」桐乃は羨ましがった。「うちのパパとママは仕事ばっかりなのに」
「それはそれで大事だからしょうがない」
小白が桐乃を窘めると桐乃の祖母は面白そうにした。
「あら。えらいわね」
「うん。うちはえらい」
頷く小白は満足げだった。
約束より遅れたがしばらくしてから真広と真理恵がやってきた。
二人は浴衣姿の小白を見て驚いた。かわいらしい耳が露わになっている。だが周りはそれをあっさりと受け入れていた。
二人は顔を見合うと嬉しそうに微笑んだ。
「あらあら。こんないいのを着せてもらってすいません」
真理恵が桐乃の祖母に頭を下げている間、真広はポケットを探った。
「写真。写真撮らないと」
真広はスマホを取りだして小白と桐乃をパシャリと撮った。撮れた写真を真理恵と一緒に見て微笑む。
遠くで太鼓の音が聞こえ出すと真広は言った。
「じゃあ、行こうか」
神社に向かって歩き出すとからんころんという下駄の音が小気味よく町に響いた。
桐乃と蒼真はお祭りでなにを食べるか話し合い、真広と真理恵も桐乃の祖母と楽しそうに世間話をしていた。
辺りの家からもお祭りに向かう人達が楽しそうに出てくる。子供も大人も今日だけはみんな楽しそうだった。
小白はその雰囲気にご機嫌な足取りで坂を下っていく。
すると視界の端でなにかが動くのを見つけた。小白が立ち止まってそちらを向くと薄暗い路地裏が伸びている。
その奥の夕日に照らされたところに一匹のねこが座っていた。
そのねこは赤い毛を更に赤くして微笑を浮かべているようだった。
小白は小さく口を開けて「あ」と呟くとそのねこはなにも言わずに歩き出し、見えなくなった。
小白がぼんやりと明るい箇所を眺めていると前から真広の声が聞こえた。
「どうしたんだい?」
小白は路地の奥を見つめたままかぶりを振った。
そして「……ううん。なんでもない」と言うとみんなの元に戻っていく。そのまま合流すると神社の方へと歩いて行った。
その姿をアンは屋根の上から見下ろしていた。そして目を細めて呟く。
「わたしはいつでもあなたの側にいるわ。どんな時でも。だからまた思い出して。人には希望が必要なのだから」
小さな呟きを聞いていたのはこの寂れた町だけだった。
その町をアンは柔らかな肉球で踏みつける。
どんな時でも希望は諦めない。
いつだって現実を侵食しようと待ち構えている。
だがそれは今日ではなかった。
祭り囃子が小さな町に低く響く中、小白の耳は楽しげに動いていた。
それを見て、アンは再び路地裏に消えた。
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愛しくて素敵な作品をありがとうございます。
ありがとうございます