路地裏のアン

ねこしゃけ日和

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 牧師と別れたあと、小白は桐乃の祖母の家にいた。
 そこは屋敷から住宅地を少し歩いたところにある一軒家で古いがきちんと手入れがされていた。
「どうぞ。いらっしゃい」
 小白が桐乃に促されるまま入ってみると中はリフォームされており、それほど古さは感じない。床も壁も新しく、老人が暮らしやすいよう至るところに手すりが付けられていた。
 小白は玄関からすぐの客間に通されていた。畳の香りがする和室を見渡していると桐乃の祖母が入ってくる。
 祖母は子供用の小さな浴衣を二枚持っていた。それぞれ水色に花柄模様と赤色に花火模様が彩られている。それを見て桐乃は小白に尋ねた。
「どっちにする?」
 祭りに行く話をしていると小白が浴衣を持っていないと伝えたところ、桐乃が貸してくれるという話だった。
 小白は浴衣を見てから桐乃を確認した。桐乃の目は水色の方を向いている。
「……じゃあ、赤で」
「うんうん」と桐乃は頷いた。「ねこちゃんに絶対似合うと思う! じゃあおばあちゃんお願い」
 桐乃の祖母はニコリと笑った。
「それじゃあ服を脱ぎましょうか」
 そう言われて桐乃は着ていたTシャツと短パンを脱いだ。野球帽に安物の下着姿になった小白を見て桐乃の祖母はクスリと笑う。
「帽子も脱いでちょうだいね」
 小白は少し困って桐乃の方を向いた。桐乃は不思議そうにしている。小白は小さく嘆息し、ぼそりと呟いた。
「……うちはうち」
 小白が渋々野球帽を脱ぐとそこから可愛らしい耳がぴょこんと覗いた。
 それを見て桐乃はポカンとした。桐乃の祖母は「あら」と言ってなにかを察した顔になる。
 二人に見つめられた小白はばつが悪そうに俯いていた。
「…………まあ、でも、これがうちだから」
 小白はそう言ってから桐乃の顔を恐る恐る見た。
 すると予想外に桐乃の目は輝いている。呆ける小白の手を桐乃は取った。
「かわいい~。知ってる! これってコスプレってやつでしょ? ねこちゃんはねこが好きだからねこのコスプレしてるの?」
「え? まあ、そうとも言える……か?」
「すごい! お祭りだもんね! かわいくしないとだよね!」
 小白は自分の耳を右手触った。
「かわいい?」
「うん! かわいい!」
 お気に入りの耳を褒められて小白ははにかんだ。
「うちもそう思う」
 その様子を眺めていた桐乃の祖母は優しく微笑んだ。
「じゃあもっとかわいくなっちゃいましょうか」
 小白と桐乃は顔を見合わせ、わくわくして「うん」と声を合わせて頷いた。
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