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第1章 クロニカ編
08 生き残り、独りきり
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「隣町まで行けば、助けてくれる人がいるかもしれないわ。あの人がいつまでああして突っ立っていてくれるか分からないから、少しでも距離を稼がないと」
レーナには頼るべき相手がいた。
その相手の名前はセブンという女性だ。
その名前を聞いたシャックスは目を瞠る。
前世で聞いた名前である事に。
そして、もう一つ。
シャックスとしての人生の中、今までセブンと言う名前は聞いた事が無かったという点にも。
それもそのはずで、セブンは事情があって人との関わりを絶ち続け、友人であるレーナとの交流も最小限にしていた。
そのために、シャックスはセブンの存在を知らなかったのだ。
ところが数か月前レーナは、試練に備えるためにセブンに向けて「協力してほしい」と手紙を送った。
だがレーナには、セブンがその頼みごとを了承してくれるかどうか分からなかった。
だがらレーナは、セブンが今どこにいるのか分からなかった。
しかし息子のために、もしも自分とはぐれたら自分達よりもその人を探せと言う。
「私達とはぐれたら、こっちの事は探さなくて良いの。まっすぐ町に向かいなさい。セブンという言う人を見つければ助けてくれるはずだから」
シャックスはその言葉に頷けなかった。
逃げるシャックス達は、いつの間にか追跡魔法がかけられていたため、待ち伏せされてしまう。
シャックスは自分の服を見て、後悔する。
服が原因だったからだ。
シャックスは、自分達の服のボタンが魔道具だったと悟る。
シャックスは魔法の天才だったが、魔道具の天才ではなかった。
知識はあったが、魔道具について多くを知らないため、衣服に罠が隠されているという可能性を失念していた。
追いついたワンドは、レーナからニーナを引きはがす。
そして初めにニーナを殺害した。
「あなた! やめて!」
レーナが悲鳴を上げて止めようとするが、ワンドは躊躇わない。
剣でニーナの腹部を貫いた。
それは、シャックス達の心を折るために、守るべき対象の死を分かりやすくするためだった。
レーナが憎しみのこもった声と表情でで「あなた」ではなく、「ワンド・クロニカ!」と叫んだ。
名前を呼ばれたワンドは眉をぴくりと動かしただけだ。
次にワンドが視線を向けたのはフォウだった。
呆然とするシャックスの隙をつき、背後からフォウを引きはがす。
フォウはワンドの手により、首をかき切られて、血を流しながら死んだ。
ニーナとフォウは、ピクリとも動かず、眠るように息絶える。
体の傷を治す魔法使いは世界に存在するが、この場の誰もその魔法を使う事ができなかった。
レーナはその場に立ち尽くした。
シャックスもショックで足が動かない。
ワンドはシャックスに近づくが、レーナが立ちふさがる。
「逃げて、シャックス! あなただけでも生きて! 諦めないで!」
シャックスは、自分達の敗北を悟った。
動く気力がなかった。
「今ここで生き残る事ができるのは、あなただけよ」
しかし、レーナに頬を叩かれて、決意する。
シャックスは涙を浮かべながらその場から逃走する。
シャックスはレーナと共に逃げたかった。
しかし、魔法を使おうとしても使えない。
シャックスは精神が弱ると、魔法が使えなくなるのだった。
今まで魔法が使えなくなった事など、片手の数で数えるほどしかなかった。
だから、対策をとろうにもできなかったのだ。
シャックスは、逃げるしかなかった。
森の中を逃げ続けるシャックス。
ワンドが魔法を放ち、雷がいくつも落ちてきた。
シャックスは必死で逃げるが、その雷に当たってしまう。
シャックスは倒れた。
片足が雷の影響で麻痺して動かなくなったが、代わりに木の枝を見つけて、杖代わりにする。
次に雷が落ちた。
両足が動かなくなったが、両手を使って這うように異動する。
しかし、再び雷が直撃。
体がまったく動かなくなる。
そこにワンドが歩いてくる。
シャックスは目の前の木の根を齧るようにして、体をわずか数センチ前へ。
シャックスは、このままでは逃げきれないとは分かっていた。
しかし、諦めないでほしいとレーナが言っていたため、母親に恥じない行動をしたかったのだ。
その様子を見ていたワンドが「見苦しい」と呟く。
シャックスはここまでかと思ったが、シャックスの持ち物の何かが光を放った。
わずか数センチ前進した事で、衣服がずれてポケットから持ち物が落ちた。
それは、森の中でフードの子供を助けた後、なぜかシャックスが持っていた鏡だった。
その鏡が光って、シャックスを瞬間移動させる。
後に残されたワンドは、雷の魔法を放ったが、直撃したのはシャックスが消えた地面だった。
魔道具でシャックスが移動した場所は、森の出口だった。
シャックスは、そこで力尽きて倒れてしまう。
意識が途絶える寸前。
シャックスの視界に女性が映る。
赤い髪に橙色の瞳の女性が、近づいてくるのが見えた。
その人物は、レーナの知人であるセブンだった。
シャックスの目の前にいるセブンは、前世のセブンと似た顔をしていた。
使用人たちにシャックスたちを探させていたワンドは、焦げた人間らしきものを発見したとの報告を聞く。
シャックスは力尽きた。
と、そう判断すべきか、ワンドは迷っていた。
考え事をするワンドの足元にはレーナの亡骸があった。
レーナに手を下したのはワンドではなかった。
長年クロニカ家に勤めている男性。
デボア・ロードが、逃げようとしたレーナの首を剣で切ったのだ。
デボアは60歳になる老人で、先代の頃から使用人として働き、実力主義の考えのある人間だ。
そんなデボアが倒れたレーナを運ぼうとするが、ワンドは「触るな」と言い、しゃがんだ彼を蹴り飛ばした。
ワンドはデボアに言う。
「お前が5年前にした事を、俺が忘れていないとでも思っているのか。俺が指示した事以外やるな」
デボアは「申し訳ありません」と言って、その場を下がる。
その様子を見ていたアンナとフォウがワンドに話しかける。
「お父様、まだその女に何か利用価値があるんですか? もう死体ですよ?」
「そうですよお父様、こんな愚かな人間さっさと燃やして灰にしましょう」
ワンドはその言葉を聞いても、無視をして考え続ける。
アンナとサーズが互いの顔を見て、肩をすくめた。
やがて、夜の寒さに体を震わせたアンナが馬車に戻ると言い、サーズも同じよう荷馬車に戻った。
ワンドは視界の隅に小さなカラスを見つめる。
森のしげみからワンドの方を見ていたカラスは、身を翻して、森の奥へと消えていった。
ワンドはカラスの方に雷撃を放ったが、手ごたえはなかった。
雷撃は、カラスを覆う球状の透明なバリアに防がれたからだ。
馬車の中にいるアンナ・クロニカの心は平常だった。
家族が死んでも、アンナの心の海には波紋一つ怒らなかった。
昔はそうではなかった。
アンナにもシャックス達への愛情があった。
レーナにも懐いていたし、ニーナともそれなりに仲が良く、フォウの事もなよなよした男らしくない弟だとは思いつつも、死んで当然とまでは思っていなかった。
しかし成長するたびに、彼らを疎ましく思う心が大きくなっていった。
顔を見るのも嫌になり、触れ合うと鳥肌が立ち、言葉を交わすたびに悪口を言いたくなる。
それはアンナの心に、もう一つの心が芽生えたかのようだった。
以前あったアンナの心は、だんだん小さくなっていき、もう影も形も見えない。
しかしアンナはその事を特に残念と思う事はなく、悲しく思う事もなかった。
数日後。
生き残ったシャックスは、セブンの家の一室で目を覚ます。
部屋の中はごちゃごちゃしていたが、シャックスが寝かされていたベッドの周りは綺麗に整頓されていた。
シャックスは起き上がろうとしたが、体が思うように動かせなかった。
呻き声をあげていると、誰かが近づいてくる。
それは赤い髪の女性、セブンだった。
肩には黒いカラスを乗せている。
二十代ほどの年齢である彼女は、心配げな表情でシャックスの顔色を窺う。
「目が覚めた? 体の調子は? 手当したけど、こういうのは得意じゃないのよ」
セブンはシャックスが意識をなくす前の事を説明する。
「ここは、あなたがいた所からずっと離れた町よ。嫌な予感がしたから、レーナと待ち合わせている町で待っていられなくて、付近を歩き回っていたのよ。そしたら、私のカラスがあなた達がドンパチしているのを目撃しちゃって」
そこでカラスが羽をばたつかせて、自己主張をする。
セブンは目を伏せながら、言葉を選んで話を続ける。
セブンはカラスの目を通して、試練の一部を見ていた。
急いでシャックス達の元へ向かおうとしたが、間に合わなかったことを嘆いていたのだった。
「えっと、あなたの家族の事は、その……申し訳なかったと思ってるわ。あんな事になってしまって。私がもう少し早く駆けつけられたら……」
シャックスはその言葉で気絶する前の事を思い出す。
家族はすでに死んでしまっていた。
セブンは「ワンドたちは、シャックスが死亡したと思っているわ」と伝えた。
「昔、同じような事があって、死体を偽装するのは慣れてるから。連中はあなたが死んだと思っているはずよ。だからあなたはここでゆっくり休んでいても大丈夫」
シャックスにとってその事実は助かったが、それらは心を慰める事にはならなかった。
レーナには頼るべき相手がいた。
その相手の名前はセブンという女性だ。
その名前を聞いたシャックスは目を瞠る。
前世で聞いた名前である事に。
そして、もう一つ。
シャックスとしての人生の中、今までセブンと言う名前は聞いた事が無かったという点にも。
それもそのはずで、セブンは事情があって人との関わりを絶ち続け、友人であるレーナとの交流も最小限にしていた。
そのために、シャックスはセブンの存在を知らなかったのだ。
ところが数か月前レーナは、試練に備えるためにセブンに向けて「協力してほしい」と手紙を送った。
だがレーナには、セブンがその頼みごとを了承してくれるかどうか分からなかった。
だがらレーナは、セブンが今どこにいるのか分からなかった。
しかし息子のために、もしも自分とはぐれたら自分達よりもその人を探せと言う。
「私達とはぐれたら、こっちの事は探さなくて良いの。まっすぐ町に向かいなさい。セブンという言う人を見つければ助けてくれるはずだから」
シャックスはその言葉に頷けなかった。
逃げるシャックス達は、いつの間にか追跡魔法がかけられていたため、待ち伏せされてしまう。
シャックスは自分の服を見て、後悔する。
服が原因だったからだ。
シャックスは、自分達の服のボタンが魔道具だったと悟る。
シャックスは魔法の天才だったが、魔道具の天才ではなかった。
知識はあったが、魔道具について多くを知らないため、衣服に罠が隠されているという可能性を失念していた。
追いついたワンドは、レーナからニーナを引きはがす。
そして初めにニーナを殺害した。
「あなた! やめて!」
レーナが悲鳴を上げて止めようとするが、ワンドは躊躇わない。
剣でニーナの腹部を貫いた。
それは、シャックス達の心を折るために、守るべき対象の死を分かりやすくするためだった。
レーナが憎しみのこもった声と表情でで「あなた」ではなく、「ワンド・クロニカ!」と叫んだ。
名前を呼ばれたワンドは眉をぴくりと動かしただけだ。
次にワンドが視線を向けたのはフォウだった。
呆然とするシャックスの隙をつき、背後からフォウを引きはがす。
フォウはワンドの手により、首をかき切られて、血を流しながら死んだ。
ニーナとフォウは、ピクリとも動かず、眠るように息絶える。
体の傷を治す魔法使いは世界に存在するが、この場の誰もその魔法を使う事ができなかった。
レーナはその場に立ち尽くした。
シャックスもショックで足が動かない。
ワンドはシャックスに近づくが、レーナが立ちふさがる。
「逃げて、シャックス! あなただけでも生きて! 諦めないで!」
シャックスは、自分達の敗北を悟った。
動く気力がなかった。
「今ここで生き残る事ができるのは、あなただけよ」
しかし、レーナに頬を叩かれて、決意する。
シャックスは涙を浮かべながらその場から逃走する。
シャックスはレーナと共に逃げたかった。
しかし、魔法を使おうとしても使えない。
シャックスは精神が弱ると、魔法が使えなくなるのだった。
今まで魔法が使えなくなった事など、片手の数で数えるほどしかなかった。
だから、対策をとろうにもできなかったのだ。
シャックスは、逃げるしかなかった。
森の中を逃げ続けるシャックス。
ワンドが魔法を放ち、雷がいくつも落ちてきた。
シャックスは必死で逃げるが、その雷に当たってしまう。
シャックスは倒れた。
片足が雷の影響で麻痺して動かなくなったが、代わりに木の枝を見つけて、杖代わりにする。
次に雷が落ちた。
両足が動かなくなったが、両手を使って這うように異動する。
しかし、再び雷が直撃。
体がまったく動かなくなる。
そこにワンドが歩いてくる。
シャックスは目の前の木の根を齧るようにして、体をわずか数センチ前へ。
シャックスは、このままでは逃げきれないとは分かっていた。
しかし、諦めないでほしいとレーナが言っていたため、母親に恥じない行動をしたかったのだ。
その様子を見ていたワンドが「見苦しい」と呟く。
シャックスはここまでかと思ったが、シャックスの持ち物の何かが光を放った。
わずか数センチ前進した事で、衣服がずれてポケットから持ち物が落ちた。
それは、森の中でフードの子供を助けた後、なぜかシャックスが持っていた鏡だった。
その鏡が光って、シャックスを瞬間移動させる。
後に残されたワンドは、雷の魔法を放ったが、直撃したのはシャックスが消えた地面だった。
魔道具でシャックスが移動した場所は、森の出口だった。
シャックスは、そこで力尽きて倒れてしまう。
意識が途絶える寸前。
シャックスの視界に女性が映る。
赤い髪に橙色の瞳の女性が、近づいてくるのが見えた。
その人物は、レーナの知人であるセブンだった。
シャックスの目の前にいるセブンは、前世のセブンと似た顔をしていた。
使用人たちにシャックスたちを探させていたワンドは、焦げた人間らしきものを発見したとの報告を聞く。
シャックスは力尽きた。
と、そう判断すべきか、ワンドは迷っていた。
考え事をするワンドの足元にはレーナの亡骸があった。
レーナに手を下したのはワンドではなかった。
長年クロニカ家に勤めている男性。
デボア・ロードが、逃げようとしたレーナの首を剣で切ったのだ。
デボアは60歳になる老人で、先代の頃から使用人として働き、実力主義の考えのある人間だ。
そんなデボアが倒れたレーナを運ぼうとするが、ワンドは「触るな」と言い、しゃがんだ彼を蹴り飛ばした。
ワンドはデボアに言う。
「お前が5年前にした事を、俺が忘れていないとでも思っているのか。俺が指示した事以外やるな」
デボアは「申し訳ありません」と言って、その場を下がる。
その様子を見ていたアンナとフォウがワンドに話しかける。
「お父様、まだその女に何か利用価値があるんですか? もう死体ですよ?」
「そうですよお父様、こんな愚かな人間さっさと燃やして灰にしましょう」
ワンドはその言葉を聞いても、無視をして考え続ける。
アンナとサーズが互いの顔を見て、肩をすくめた。
やがて、夜の寒さに体を震わせたアンナが馬車に戻ると言い、サーズも同じよう荷馬車に戻った。
ワンドは視界の隅に小さなカラスを見つめる。
森のしげみからワンドの方を見ていたカラスは、身を翻して、森の奥へと消えていった。
ワンドはカラスの方に雷撃を放ったが、手ごたえはなかった。
雷撃は、カラスを覆う球状の透明なバリアに防がれたからだ。
馬車の中にいるアンナ・クロニカの心は平常だった。
家族が死んでも、アンナの心の海には波紋一つ怒らなかった。
昔はそうではなかった。
アンナにもシャックス達への愛情があった。
レーナにも懐いていたし、ニーナともそれなりに仲が良く、フォウの事もなよなよした男らしくない弟だとは思いつつも、死んで当然とまでは思っていなかった。
しかし成長するたびに、彼らを疎ましく思う心が大きくなっていった。
顔を見るのも嫌になり、触れ合うと鳥肌が立ち、言葉を交わすたびに悪口を言いたくなる。
それはアンナの心に、もう一つの心が芽生えたかのようだった。
以前あったアンナの心は、だんだん小さくなっていき、もう影も形も見えない。
しかしアンナはその事を特に残念と思う事はなく、悲しく思う事もなかった。
数日後。
生き残ったシャックスは、セブンの家の一室で目を覚ます。
部屋の中はごちゃごちゃしていたが、シャックスが寝かされていたベッドの周りは綺麗に整頓されていた。
シャックスは起き上がろうとしたが、体が思うように動かせなかった。
呻き声をあげていると、誰かが近づいてくる。
それは赤い髪の女性、セブンだった。
肩には黒いカラスを乗せている。
二十代ほどの年齢である彼女は、心配げな表情でシャックスの顔色を窺う。
「目が覚めた? 体の調子は? 手当したけど、こういうのは得意じゃないのよ」
セブンはシャックスが意識をなくす前の事を説明する。
「ここは、あなたがいた所からずっと離れた町よ。嫌な予感がしたから、レーナと待ち合わせている町で待っていられなくて、付近を歩き回っていたのよ。そしたら、私のカラスがあなた達がドンパチしているのを目撃しちゃって」
そこでカラスが羽をばたつかせて、自己主張をする。
セブンは目を伏せながら、言葉を選んで話を続ける。
セブンはカラスの目を通して、試練の一部を見ていた。
急いでシャックス達の元へ向かおうとしたが、間に合わなかったことを嘆いていたのだった。
「えっと、あなたの家族の事は、その……申し訳なかったと思ってるわ。あんな事になってしまって。私がもう少し早く駆けつけられたら……」
シャックスはその言葉で気絶する前の事を思い出す。
家族はすでに死んでしまっていた。
セブンは「ワンドたちは、シャックスが死亡したと思っているわ」と伝えた。
「昔、同じような事があって、死体を偽装するのは慣れてるから。連中はあなたが死んだと思っているはずよ。だからあなたはここでゆっくり休んでいても大丈夫」
シャックスにとってその事実は助かったが、それらは心を慰める事にはならなかった。
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