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第5章 その後編
30 もしもあの頃に…
しおりを挟むアンナの得意魔法は炎。
それは以前と変わっていなかった。
アンナは周囲に炎をまき散らして、ヒルズを焼死させようとした。
「これに対処できるかしら!?」
しかし、シャックスが水の水球をいくつもだして、それを防ぐ。
「生意気な!」
と、同時に苦手な雷の魔法を駆使して、アンナを感電させようとした。
しかし、アンナはそれをよける。
彼女が身に着けている防具が、魔道具の効果で魔法を防いだからだ。
状況は膠着していたが、戦っているのはシャックスだけではなかった。
アーリーが弓を使い、アンナに怪我を負わせる。
アンナは舌打ちをして、アーリーを睨みつけた。
そこでアンナたちは非常な手段をとった。
「仕方がないわね。この手は使いたくなかったけど」
後からやってきたダークネスの人間が、町で攫ってきた子供の女の子を人質にとったのだ。
「アンナ、人質をとるのは自分が弱いといっているようなもんだぞ」
「うるさい! 手段を選ばないのが、組織の生き方なの。私は弱くなんかない!」
要人を護衛するためなら、切り捨てるべきだとシャックスは考えたが、とっさに体が動かなかった。
アンナの魔法がシャックスを襲うが、それをアーリーが身を挺して防いだ。
幸いなのは、水浸しになっていたことで、焼死は免れた事だ。
アーリーはアンナの魔法を正面から受けて吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられて気絶した。
そうこうしているうちに、ヒルズが攫われてしまう。
人質の女の子は邪魔だと判断されたのか、その場に投げ捨てられた。
薬品で気絶させられたヒルズを、ダークネスの人間がかついで撤退しようとする。
シャックスはアーリーに心の中だけで謝罪して、急いでおいかけた。
建物の中はモンスターがうようよしていたが、ナギやロック達が対処してくれたため、シャックスはダークネスを追いかける事に専念できた。
「さっき護衛のおっさん、じゃなくてヒルズさんが連れされるのを見た、シャックス頼む」
「止められなくてすみません。あなたが頼りです」
「いや、大丈夫だ。元はといえば俺のミスだから」
建物を出てたどりついた路地の先では、ダークネスたちが魔道具を使って、その場から転移しようとしていた。
一定範囲の空間ごと、べつの場所に飛ばすものだった。
シャックスが逃がすまいと彼らに手を伸ばしたところで、魔法が作動。
シャックスごと別の場所へ転移してしまう。
転移先は、国の王宮だった。
彼らの狙いは、要人をカードにして国王を脅し、未踏大陸から様々なものを搾取する事だった。
そのために、定期的に用心を拉致して、こういったことを繰り返すつもりだった。
今回は初回なので、派手に動いて名前を上げようという試みだった。
彼らの行動よって闇市場に珍しいものを流れ、戦力が強化されたり、資金が潤う事は防がなければならない。
目立つダークネスはいずれ潰されると推測されるが、そういった行為はだだの爬虫類の尻尾切りだ。
逃げ延びた組織の構成員が別の組織を作って、続きの活動を行っていくのが、彼らのやり方だった。
魔法で転移した先で、シャックスはダークネスたちと戦う。
そこで前に出てきたのは、ダークネスで一番強者のオーラを持っていた人物。
その人物の名前はルナールだった。
二メートル以上の巨漢で非常に大柄な体格。
筋肉の塊と表現しても良い、男性だった。
年は四十ほどで、なぜか半裸だった。
熱を持っているのか、皮膚は赤くなり、湯気が出ている。
「久しぶりに手ごたえのある相手と戦えそうだ」
そう言って名前を名乗ったルナールは、他の仲間を国王の元へ向かわせる。
シャックスは、ルナールと相対し、隙の無さを感じた。
だが、負けるわけにはいかないと己を叱咤する。
ルナールは凄腕の剣士で、剣の扱いに長けた男性だった。
もくもくと剣を振るい、シャックスを圧倒する。
シャックスは、剣に魔力を付与して、相手と戦う。
しかし、ルナールの力が強すぎた。
シャックスの剣が折れてしまう、
絶対絶命かと思ったとき、シャックスは前世の記憶を思いだし、二本の剣を頭に思い浮かべた。
すると、その場に金の剣と銀の剣が出現し、そこにあるのが当然だと言わんばかりに、シャックスの手におさまる。
シャックスはその剣を使って、ルナールを切り結ぶ。
足りない技量や経験は、剣に宿った記憶が流れ込んできて、補ってくれるようだった。
シャックスはややあって、ルナールをうちはたした。
疲労にさいなまれていたが、じっとしているわけにはいかないと移動する。
王宮内は静かだったが、王座の間から激しい戦闘音が聞こえてきて、近づくにつれて、人の気配が多く感じられる。
王座の間に到着したシャックスの前でアンナが捕まり、他の面々も捉えられていた。
しかしアンナは負けを認めず、隙を作ってヒルズを人質にしなおし、国王に要求を突きつける。
ダークネスたちが以前入手したものーー王宮からなくなった国宝を手にしていたため、それに気を取られたのだ。
アンナは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私が失敗するはずないわ。私があんなみじめな思いをしたのは、いる場所が悪かっただけ。ここでなら、私は一番になれる」
アンナはこの場にいる誰もを下に見ていて、醜くゆがんだ表情をしていた。
しかし、そんなアンナにシャックスがとどめをさす。
「そんなことはない。姉さんはどこでも一番にはなれない」
背後から雷で打ちすえ、剣でアンナを刺し貫いた。
アンナの最期の言葉は、「できそこないなんかに、ありえない」だった。
彼女も最後まで変わらなかったな、とシャックスは思う。
もしもアンナ達が己の間違いを悟り、変わったとしたら自分はどうしただろうかと思いを馳せる。
当主を決める試練を行う前だったら、戸惑いながらも仲良く暮らせたかもしれない。
ニーナやフォウ達は嫌がらせの被害を受けていたが、真剣に過去を悔いる者達に仕返しするような事はなかった。
試練が行われている最中だったら、シャックス達は怒りをあらわにするだろうが、それでも嫌味や悪口は言うかもしれないが、仕返しはできなかった。
試練が行われた後だとしたらーー、そこまでは想像ができなかった。
シャックスは目を閉じて、少しだけそれらについて考えていた。
後日、アンナの蛮行の責任をとると遺言がのこされ、ワンドが消失死体として発見される。
シャックスはふいに落ちない思いだったが、死亡の知らせはくつがえらなかた。
シャックス達は、国王に感謝され、また勲章を授与される。
ヒルズを完璧に守れなかった事に負い目があったが、当人は寛大な心で許したのだった。
アリー達は緊張しながらも、少しだけ慣れた様子で勲章授与式に出席した。
国王は、シャックスに領地を授けようとしたが、断った。
貴族として生きるより、誰かを助けるために任務をこなしながら生きた方が良いと思ったためだ。
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