古い方・恋愛ジャンル(ほぼ女性向け) 短編まとめ場所

透けてるブランディシュカ

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〇10 かつて恋をしていた花屋の少女、王子様に弄ばれたので復讐を果たす事に

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 昔の私は、ただの花屋の娘でした。

 高望みすることなく、自分に見合った環境で満足していた、何の変哲もない普通の人間だったのです。

 しかし、そんな私の元に王子様が遊びに来てから、何かが狂ってしまいます。

 あんな事がなかったら、平凡に生きていたに違いないのに。

 どうして、運命は私にイジワルをしたのでしょうか。

 その日、この国の王子様は、気まぐれを起こしました。

 庶民の花屋にやってきて、私に話しかけてきたのです。

 それからもその王子様あ、何度も花屋に遊びに来ました。

 私はいつも緊張して対応します。

 だって、相手は王族の方ですから、失礼があってはいけません。

 だから私は、いつも大変な思いをしていました。

 けれど、王子様は私が何か失敗しても、許してくれるような優しい方でした。

 だから、私はだんだんとその王子様の事が好きになってしまいました。

 身分の違いは気になりましたが、好きと言う気持ちは誰にも止められません。

 私は心の中でその気持ちをひそやかに、大切に育てていました。

 けれど出会ってから一年がたったある日、王子様も私に好きだと言ったのです。

 両想いだと分かった時に舞い上がってしまったのは恥ずかしい思い出です。

 お仕事でだいぶ、同僚達に迷惑をかけてしまいました。

 けれど私は、そんな恋心がとても心地よかった。

 王子様の事を考えるだけで、幸せな気分になれたから。

 でも、自分の身分は分かっています。

 だから、気持ちに蓋をしようと決断していました。

 夢のような恋が、物語のような恋ができただけで十分満足していましたから。

 だから、王子様に「私の事は忘れてどうか幸せになってください」と言ったんです。

 しかし、王子様は諦めませんでした。

「好きでもない人間と一緒になるより、貧しくても愛している人と共に生きていたんだ」

 と、そう言って駆け落ちする事を提案してきたのです。

 私は最初、王子様を止めていました。

 国が大変な事になってしまうし、国民達や王子様の周りの人達が心配してしまいます。

 けれど、何度も真剣な言葉を聞くうちに、すっかりその気になってしまいました。

 そして、二人で荷物をまとめて国を出ていってしまいました。

 この時に、私が足をとめていれば、何かが違ったでしょうか。

 いまなっては分かりません。

 結果として、私の人生に訪れたその二回目の運命の日は、悪い方向へと転んでいきます。

 後から考えれば、なんて愚かな事をしたのだろうと、思ってしまいます。

 どうして舞い上がっていたのかと。

 だって私は、ただ王子に利用されていただけなんですから。





 自由な生活にあこがれていた王子は、自分の逃亡の罪を誰かにおしつけたかったのです。

 たった数週間の逃避行のうち、私と王子は追手の兵士に捕まってしまいました。

 そこで、王子は驚くべき事に「平民の女にだまされただけだ」と言ったらしいです。

「この女に騙されて、愛しているとささやかれ、その気になって国をでてしまった。今は反省している」

 確か、そんな事も言ったようですね。

「旅の間に、俺が持っていた宝石やお金をその女に盗まれた。それで、気が付いたんだ。その女は俺を騙していたんだと、俺を愛してなんていなかったんだと」

 私は当然、そんな事はしていません。
 王子の持ち物は、何一つとってはいません。

 王子は、たった数週間自由になるために、私を利用したのでしょう。

 詐欺の被害者という事でおとがめなしで許された王子。

 間抜けな王子でも、国にとっては必要な存在でしたから、外聞をきにして罪を問われる事もありませんでした。

 反対に私は、王子様をたぶらかした悪女という事で有罪になり、牢屋に入れられてしまいました。







 だから私は、復讐する事にしたのです。






 死神、なんて存在が現実にいるとは思いませんでした。

 牢屋に入れられた私の元に、ガイコツのお化けがやってきました。

 その時は、本当にびっくり。

 知らない間に死んで地獄にでも落ちてしまったのかと思いましたから。

 でも違いました。

 私はまだ生きていて、死神はとりひきを持ち掛けてきたのです。

 その言葉を聞いた私は、頷きました。
 死神と、とりひきをしたのです。

 死神は、私の魂を死神に差し出すかわりに、復讐のための力を与えると言ったからです。

 牢屋から出た私は、王子に色々な嫌がらせを行いました。

 王宮中の女性を王子に惚れさせて、醜い争いを起こし王宮の中を荒れさせましたし、王子をそれに巻きこんだりしました。

 その中には、死ぬことで王子と一緒になろうと考えた女性がいて。王子がナイフを持った女性に追いかけられているのをみると、少しだけ胸がすっとしました。

 やがてやつれた王子は部屋に閉じこもる事が多くなりましたが、まだ楽にはさせません。

 部屋の中に不気味な音を響かせて、引きこもらないようにしました。

 私は、その後も王子がどこかの部屋に長く引きこもるたびに、そんな事を繰り返します。

 やがて、建物の中に入れなくなった王子は、王族という身分に不釣り合いな場所で生活せざるを得なくなりました。

 お城の庭で一人寂しく過ごす王子は、とても可哀そうです。

 でも、牢屋で一人で寂しく過ごしていた私も、きっと可哀そうですから、自業自得ですね。

 すっかりおかしくなってしまった王子。

 そんな人に近づく人はいなくなりました。

 身の回りの世話をする人や、食事を運ぶ人、お医者さんはまだ身近にいるようですが、その人達も必要最低限の触れ合いしかしません。

 会話も行いません。

 私はこれ以上虐めると、王子が可哀想になってきて、うっかり許してしまうと思いました。

 だから、一思いに復讐して終わらせる事にしました。

 突然の嵐で、雷にうたれた王子様は、心臓発作をおこしてばたりと倒れてしまいます。

 最後に彼には、一番怖いものを幻影として見せたのですが、果たした一体何を見たのでしょうね。

「許してくれ」と言っていましたが、まさかただの花屋の娘である、私の姿ではないでしょうし。


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