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透けてるブランディシュカ

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〇19 乙女ゲームの世界に転生した少女はヤンデレへ進んだ

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 乙女ゲーム「シチュエーション・ラブ」に転生した。
 私は、この世界で第二の人生を送る事になったらしい。

「シチュエーション・ラブ」は学園ストーリーが充実しているゲームだ。

 知らない人はいないという有名な学園もののお話。
 異世界に転生した私は、学校に通いながら、攻略対象達と絆を深めていくのだろう

 恋日可憐は、乙女ゲームの主人公になったのだから。




 
 可憐が好きなのは立花そうごという教師だ。

 包容力のある優しい人間。

 彼と仲良くなりたい。

 そう思った可憐はさっそくゲームの内容をまとめる事にした。

 今は原作開始の一か月前。

 学園ストーリーが始まるのはこれから一か月後だ。

 入学式から始まるので、学園生活で戸惑う事はないだろう。

 可憐は一年生だ。

 他の新入生と共に、ゆっくり新生活になじんでいけばいいはず。

 そこらへんは、現実もゲームも変わらない。

 しかし、立花と出会えるのは五月から。

 体調を崩した教師の代わりに、担任を務めることになる。

 四月のイベントに登場しないのは、少し残念だった。

 嘆いていてもしょうがない。

 可憐は、それまでにやっておくべき事をリストアップしておく事にした。






 まず、他の攻略対象とのイベントを起こさない。
 イベントを起こしてもいいが、好感度を上げ過ぎない。

 好感度が一定数値あがると、その人物のルートに入ってしまう。
 となると、他の人物とのイベントが減ってしまうため、立花狙いである可憐は気を付けなければならない。

 あとは、評価をあげる事も考えて行動しなければ。

「シチュエーション・ラブ」は恋愛だけしていれば良いというゲームではない。

 勉強や生活態度も、内容にかかわってくる。

 攻略対象と仲良くするときに、それらの要素をきちんとこなしていないと、イベントが発生しなくなってしまうのだ。

 だから、普段の学園生活も油断してはならかった。

 最期は、学校のシンボルである巨大な桜の木の傍でイベントが起きる。

 この木には、恋愛を成就させる精霊が宿っている……という設定があるからだ。

 だから日ごろから、この木の近くに立って、恋愛の成就をお祈りすることが大切だった。

 そうすることで、好感度が上がりやすくなる。






 やるべき事をまとめた可憐は、入学式までにさまざまな事をこなした。

 勉強の予習はもちろん、健康を維持するために生活習慣も見直した。
 最低限の体力をつけるために、体づくりの運動も行った。

「シチュエーション・ラブ」はルートによってたまに主人公が危険な目にあう。

 不審者においかけられたり、ストーカーに狙われたり、監禁されたり。

 そんな時に、逃げたり対抗したりする体力をつけておかなければならない。

 特に終業式の後の最後のイベントは危険なものだ。

 ノルマをこなしても、慢心せず、見落としている点はないかいつも考えた。

 可憐は四月までの一か月間を、そんな風に過ごしながら、日々を消化していった。







 やがて原作開始の時期やがってきた。

 桜が満開になる頃、乙女ゲームである学校へ入学。

 そして、波風立たせずに過ごして四月が過ぎゆき、五月。

 先生はきた。

 やはりゲームの通りになった。

 そんな立花そうご先生は、ゲーム通りにカッコいい。
 いや自分の瞳で見る彼はゲーム以上に恰好よかった。

 共に生きるなら彼しかいない、

 そう思えるほどに。

 しかし、立花先生はなぜか私の方だけを見てくれなかった。

 他の生徒には、平等に対応してくれるのに、なぜか私にだけよそよそしい。

 声をかけようとしたら逃げられてしまうし、イベントを起こそうとしてもその発生場所にいない事が多い。

 一体どうしてだろう。






 やはりゲームの世界といっても、全てがゲーム通りに起こるわけではないのかもしれない。

 何らかの些細な違いが、思いもよらない所で思わぬ影響を起こしてしまうのかも。 

 そうなると、立花先生とゲーム通りに接していても、恋仲にはなれない事になる。

 ならば、ゲーム以上の事をするしかない。

 せっかくこの世界では、普通の少女として普通に恋愛感情を示せると思ったのに。

 あの前世のように、異常な例愛の仕方をしなくて済むと思ったのに。

 私はまた、繰り返さなければならないのだろうか。







 俺はどうやら乙女ゲームの世界に転生してしまったらしい。

 困ったな。

 世間で騒がれている事は知っていたけれど、あんまり情報を知らないからな。

 俺は、前世でも教師だったから、クラスの女子生徒達が騒いでいる話題は耳に入ってきていた。

 有名な乙女ゲームをやっている奴が多くて、自然と登場人物や舞台背景などの情報が頭に入ってくるのだ。

 だから、普通の人間よりは恵まれているのだと思う。

 訳も分からない世界に転生したわけじゃないというのは、幸いな事だ。

 しかし、俺は絶望に突き落とされた。

 なぜなら、ヒロインがあいつだったからだ。

 俺を、ストーカーして最後には刺し殺してきたあいつ。

 見た目は少し違う。

 けれど、俺には分かった。

 あいつの言葉使いや、癖がそっくりだったからだ。

 あいつ、この世界に転生してきたのかよ。

 俺は、その日からあいつを徹底的に避ける事にした。

 冗談じゃない。

 また、間違ってあいつに攻略されたりしたらたまらない。

 どんな拍子でヤンデレストーカーと化すか分からないんだぞ。







 その日、私は前世の出来事を思い返していた。

 楽しみのない生活だった。

 つまらない生活だった。

 でも、愛は素敵なものだという知識はあった。

 だから、愛にのめり込もうとしていた。

 そして、私は愛を向ける矛先として、自分のクラスの担任をターゲットにした。

 だって、先生は優しかったから。

 クラスではぶられている私にも優しくしてくれたから。

 きっと好きになるなら、こういう人を好きになるはずだ。

 そう思って、私は先生に猛アピールしていた。

 けれど、先生は振り向いてはくれなかった。

 諦めればよかったのに。

 どうしてか胸が苦しくなった。

 もしかして、これが本当の愛という感情なのだろうか。

 だとしたら、辛すぎる。

 嫌われてから、愛の感情を自覚するなんて。

 どうしようもできなくなった私は、先生を○して、私も〇した。

 邪魔しようとするやつらがたくさんいたけれど、邪魔できないようにたくさん〇した。

 死んで。

 全て終わったと思ったのに。

 チャンスを与えられたから、嬉しかった。

 普通の女の子みたいに恋愛できる機会が巡って来たんだって。
 






 私は、失敗を繰り返さない。

 やり方を変える事にした。

 たくさん勉強して、先生に認めてもおうと思った。

 恋が駄目なら、せめて優秀な生徒として傍においてほしい。頼ってほしい、期待してほしい。

 無視できないくらい、たくさん活躍して、私の事をできるだけ見てほしい。

 だから、期末テストや学年テストはいつも一位をとったし、面倒なクラスの雑事もすべてこなした。

 苦手な運動でも、できるだけいい成績をとった。

 委員会活動や部活動にも、たくさん力をいれた。

 そうすると私は、その学校の中ですぐに多くの人から告白されるようになった。

 でも、私はそれらの全てを断った。

 攻略対象もいたけれど、私は彼等の事をあんまり好きじゃなかったから。

 恋をするなら、好きな人が良い。

 付き合うなら、愛せる人が良い。

 それは私にとっては、たった一人だけだから。

 けれど、先生はいつまでたっても私を見てくれなかった。







 苦しい。

 悲しい。

 痛い。

 辛い。

 やがて、ほとんどの原作イベントが終わった。

 先生はとうとう私の事を見てくれなかった。

 最後まで、ずっと。

 だから、前世と同じように終わらせようと思ったのだ。

 だって、あなたに振り向いてもらえないのなら、生きている意味がないもの。

 私は、卒業式で行われる船上パーティーの場に、その凶器を持っていく事にした。








 きらびやかに装飾された船。

 笑顔でドレスアップするたくさんの女性達。

 その女性達を見つめて微笑む男性達。

 目の前にあるのは、とても幸せな光景だった。

 けれど、私にとっては何の意味もない。

 だから、私は終わらせるために先生を探しに行くことにした。

 私の中の気持ちは、

 これで、もう終わりにしたい。

 とそれだけで一杯だったから。

 やがて、船が出航して、暗い海の中を中を疾走する。

 あたりに街の灯りは見えない。

 陸地の明かりも見えない。

 まるで孤独な私の心の様だった。








 けれど、先生を見つけた瞬間にトラブルが発生した。

 突然大きな衝撃が船を襲って、船の明かりが非常灯に切り替わった。

 そして、どんどん船が傾きだしたのだ。

 人々は、口々に悲鳴をあげて避難していく。

 私は、近くにいた顔も知らない誰かの生徒におびえてしがみつかれて、へたに動けなくなってしまった。

 船の上に出ると、救命ボートが降ろされていくところだった。

 幸いにも人数分はある。

 あれにのれば生き残れるだろう。

 あれに。

 のれば。

 私は、自分にしがみついていた生徒を引きはがして、船の中に戻った。

 生き残っても意味がない。

 私は、もう希望がないのだから。

 ここで一人寂しく朽ちた方がマシだと思っていた。







 けれど、どうしてだろう。

 そこに先生が追いかけてきた。

 どうして。

 優しくするんだろう?

 先生はきっと、私が思うほど優しい人じゃないのに。

 先生は先生だからきっと、仕方なく私のような生徒の面倒を見ていたにすぎないのに。

 こんな生徒にまとわりつかれて、迷惑していたはずなのに。

 私、狂っていたけれど知ってるんですよ。

 何度か先生が「迷惑だ」「まとわりつくな」「いい加減にしてくれ」って言っていたのを。

 聞こえないふりをして、分からないふりをしていたけれど、ちゃんと理解しているんですよ。

 先生は、先生なんですよね。

 前世の先生と同じなんですよね。

 だから、私を避けていたんですよね。

「そうだ」

 先生は「でも」と続けた。

「お前に迷惑していたのは事実だ。けど、俺が余計な期待をもたせたから、お前を余計に苦しませたのも事実だ」

 どうしてこんな時だけ優しくするんだろう。

 どうして今になって、本当に優しくするんだろう、

 先生は優しくない。

 とてもひどい人だ。

「だから、帰るぞ」

 先生に手を引かれて、船の上に戻る。

 ちょうど最後のボートが降ろされる時だった。

 先生は私の手を引いて、そのボートに後込もうとしたけれど、私はその手を振り払って、先生を突き飛ばした。

「なっ、お前」
「今まで、ごめんなさい。先生ありがとうございました」

 私、分かっちゃったんです。

 愛は、見返りを求めるようなものじゃない。

 ただ、与えるものだった。

「おい、まて」

 背後で、他の人が先生を押さえつけている。

 ボートが見えなくなった。

 私はほっとした。

 これでよかった。

 今が一番幸せだから、これでよかった。

 私はたくさん人を〇してしまった。

 とても許されない事をしてしまった。

 きっと先生とは一緒に生きてはいけない人間だから。

 私は、離れていくボートを見送って、涙をこぼした。

 さようなら、先生。

 大丈夫、今の私は「私の人生は、一体何だったんだろう」なんて思っていないから。

 わずかでも、本物の優しさと愛をもらえた今は。

 先生のおかげで。幸せになれたから。


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