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〇59 あなたに婚約破棄されたおかげで胸をはって生きられるようになりました。どうもありがとう
しおりを挟むこれは、負け惜しみとかではないですよ。
今の私があるのは、あなたのおかげです。
今、私は平民として働いています。
町の中の小さな花屋です。
このお店、「儲かっている」とはとても言いにくい経済状態ですけれど、お客さんは良い人ばかりですから、毎日が楽しいです。
けれど数か月前、あなたに婚約破棄された時は本当にどうしようかと思いました。
国の王子であるあなたの機嫌を損ねるような、とんでもない何かをしてしまったのではないかと思い、毎日自分を責めていました。
貴族という身分をはく奪されて、平民になった日は頭が真っ白で何も考えられなくなったほどです。
でも今の雇い主さんが、彼が私を拾ってくれたので、何とか生活できるようになりました。
働くって大変なんですね。
やはり、あの時王子をたしなめたのは、間違いではなかったのでしょう。
あなたは自分より立場の弱い者を見下していました。
見えない場所でゴミをまとめていたり、後片付けをしていたりする人達の事をよく鼻で笑っていましたよね。
しかも、そんな人達に権力をふりかざして、自分の言う事を聞かせようとしていましたね。
それだけでなく、私の使用人を部屋につれこんで、彼女の同意も得ずに乱暴を働こうとしていましたね。
「汗水流して働く事しかできない平民は、貴族に仕えるのが正しい」、なんてあなたは言っていましたけれど。
あなたがした事は、到底許される事ではありません。
例えどうなろうとも、あの時あなたをたしなめていて正解でした。
上に立つ者として、いいえ人間として譲れないものを失わずにすんだのですから。
あなたは自分が誰に支えられているのか理解すべきなのです。
思わば、かつての私はあなたの顔色をうかがってばかりで、言いたい事が言えない人間でした。
でもあの出来事をきっかけに、自分の気持ちを伝えられるようになったのですよ。
そうそう、平民になるといったらあの使用人も一緒についてきました。
あなたがひどい事をしかけたあの使用人です。
私の立場が変わってしまった事で一時はふさぎ込んでいましたが、今ではすっかり元気になりました。
彼女のおかげで、貴族と平民の違いについては、早々に理解できそうです。
だから、どうもありがとう。
日々の生活は大変だけど、私は胸を張って生活しています。
どうしたんですか、馬車でこの店の前を偶然通りかかっただけなんでしょう?
そんな悔しそうな顔をしないでください。
私は毎日の仕事である水やりを終えて、彼に報告する。
ジョウロを置こうとしたら、店主である彼が「僕がやっておくよ」なんて言って、私の手と重なった。
「あっ、ごめん!」
「いっ、いいえ。こちらこそごめんなさい」
むずかゆい瞬間だ。
けれど嫌ではない。
先ほどの再会に少しだけ衝撃を受けていたが、でもすぐに今のやり取りのおかげで。頭の中から消えていった。
「水やり終わりましたわ。ではなくて、終わりましたよ、店主さん」
「うん、ご苦労さん」
「あの、差し出がましい事かもしれませんけど、あんな目立たない場所に花を置いといて大丈夫なんですか。お客さんが気付かないんじゃ」
「ああ、あの花は日陰に置いておいた方が良い品種なんだよ」
「そうだったんですか。私のような新米が言う事ではなかったみたいですね」
「そんな事ないよ。気が付いたら、どんどん意見をいってくれ。新人の目線でどんどん発言してくれると助かるよ」
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