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〇69 ありふれた愛と悲劇の、その結末:欲
しおりを挟む始まりは欲望だった。
たくさんあった小国は、一つの大国の欲望にのまれ、吸収された。
そして、その次はその「のみこまれた小国」の隣にあった国が、餌食になった。
そうして大国はどんどん膨らんでいく。
けれど、他の国からは何も起きていないように見えていた。
人々の目には相変わらず、小国がたくさんあるなという風にしか見えなかった。
その大国の狡猾な所は、知らない間に国の中心部を攻めて、ふっかけた戦を電撃的に終わらせるところだった。
だから、人々はの目には、知らない間に王様が変わっていたというようにしか見えなかった。
それはとある国、紫の国も同じだった。
紫の国は、ある日突然王族達が消えて、王子とその婚約者が逃げ出した。
そういう事になっていた。
紫の国。この国には、隣国が五つくらいある。
それは、たくさんの国に囲まれているという事にもなる。
もしも、この五つの国が同時にせめてきたら、この国はもたないだろう。
だから、それが起こった時に誰もが危機感を抱いた。
それは統一された一つの意思であるかのように、全く同時に事を起こしたのだから。
平和協定が破棄され、五つの国と同時に戦が起きた。
そして、次の日には、国の内部だけに合同精鋭部隊が送り付けられた。
「王子! 姫様! お逃げ下さい!」
焼けた王宮の中、怪我をした兵士が私と王子の元にやってきた。
兵士を指揮する能力がないので、私達はずっと隠れていたのだ。
やってきたその兵士は沈痛な表情で「この国はもうもちません」と言って来た。
兵士達は、ここに残るそうだ。
この数時間の間に、驚くほどたくさんの者達が犠牲になった。
これ以上は、もう一人も犠牲になってほしくなかったけれど、そういうわけにはきっといかない。
私達はやむなく、国を脱出することに決めた。
王や王妃はとっくの昔になくなっている。
気が付いた時には、スパイによって殺されていたのだ。
そんな中では、私達こそが最後の希望になる。
いつの日かのっとられた紫の国を取り戻し、復興するためには、絶対に生き延びなければならない。
私達は逃避行を重ねた。
名もなき町や村に潜伏し、追手の目を欺く毎日を過ごさなければならなかった。
食べる物や泊まる所にも困る日々が続いた。
それは、王族という身分のものには辛い毎日だった。
けれど、散っていった者達の事を考えれば、我慢する事ができた。
しかし、そんな日々が一か月以上続いたある日、その逃避行はあっけなく終わった。
私は追手の者達に捕まってしまったのだ。
なんとか王子を逃がしたものの、私はそれだけで力尽きてしまったから。
私は他所から嫁いできた身だ。
だから最悪私が犠牲になっても王子が生き延びていればそれでいい。
だから必死で王子を説得した。
私の言葉を聞いた王子は、泣く泣く逃げていった。
一抹の寂しさはあった。
しかし仕方がない。
彼には、背負う者が多くあるのだから。
愛はそこに、確かにあった。
しかし、王子としての責務が彼の足を止めてはおけなかったのだろう。
私は捕虜として過ごす事になった。
けれど、王子をおびき寄せるための餌として、丁重に扱われることになった。
私は王子と婚約している婚約者だ。
しかし、敵国に攻められた際、その婚約は破棄されていたらしい。
私はその事を知らなかった。
私は、知らない間に王子に守られていたのだろう。
いざという時、王族の関係者だという事実で、私が危なくならないように。
しかし結果的に、私は王子の逃避行に同行する事になってしまったため、意味がなくなってしまったが。
けれど、そんな王子達の思惑は敵にはお見通しだったらしい。
敵国の者達は、私を見て「王子の弱み」になると考えていた。
しかし、状況は変わる。
どこかの国の王子の誰かが、私に惚れたのだろう。
拒否も同意も、そんな言葉は求められないまま、捕虜の立場ではなくなり、婚約を結ばされた。
私は好いた人間とは別の人間の妻になる事になってしまったのだ。
そして、花嫁となるまで必要な知識をつめこまれ、知りたくもない他の国の歴史を教えられた。
それが終わったら、結婚式の段取りが行われた。
花嫁衣装を着せられて、多くの者達の前で結婚式を挙げられてしまう。
それは滅びた紫の国の広場で行われたものだった。
けれど、表向きは国のないぶは平和そのものだったから。
民達は今までと何も変わらずに、日々を過ごしていた。
そんな国民達は、結婚式を挙げた私の事を、裏切り者だとなじった。
尻軽女、浮気者だとも言われた。
紫の国を占領した敵国の人間達は、哀れな花嫁だとあざ笑ってやまなかった。
私は、王子をおびき出すために、偽物の手紙を書かされることになった。
その内容は。
私は幸せです。
今はとても満足しています。
敵わぬ戦いを続けている愚かな王の元にいる事よりとても。
私が、人の物になってさぞかし悔しい思いをしているでしょうね。
あなたはこれから敵に捕まり、むごたらしく拷問を受けた後、一人寂しく死んでいかなければならない。
国の民だって、あなたの事を逃げた卑怯者だといっています。
くやしかったら、正義を証明してごらんなさい。
私が書き上げたその手紙はいたることろにばらまかれた。
どうせこれ以上生きていても、私は王子を傷つけるための道具にしかならないだろう。
ならば、いっそ死んだほうがましだ。
私は見張りの隙をついて、一人になれる時間に、紫の国の一番高い場所へと昇った。
皮肉な事にもそこは国の中心部、王宮だった。
そのてっぺんでは、王子と婚約をかわした思い出がある。
いつもそこで私は得意の踊りをみせて、彼が喜んでくれた。
他愛のない日々と、婚約と言う大事な思い出がある場所。
そこから私は、この世に別れを告げる事にした。
王子はおそらく私を助けに来ない。
個人的な我儘は、国の為にならないからだ。
だから彼は今まで、自分の想いを必死に押し込めて生きてきた。
そんな彼をできれば支えてやりたかった。
でも、もう無理だ。
私が、王子を困らせる存在であってはいけない。
最後に私は、人生で一番幸せだった時の思い出を脳裏によみがえらせた。
皮肉な事にもそれは、逃避行で私だけを相手してくれていた辛いはずの頃の事ばかりだった。
「さようなら、私の愛しい王子様」
「紫の国の女が? ふんどうでもいいな。もっと面白い話はないのか」
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「暇だな。また隣の国でも攻めるか。それとも、逃亡を続ける例の王子を見つけ出して、愛しの女の骸にでも対面させるか?」
退屈まじりに国を潰すその王の欲望は、とどまる事を知らない。
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