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〇79 乙女ゲームの世界に転生した攻略対象達の手で、ずっと騙されて生きてきました。だからヒロインと仕返していこうと思います。
しおりを挟む攻略対象である彼らは、転生した人間らしい。
乙女ゲームという女性を対象にした玩具?げーむ?がある世界から、この世界の住人に生まれ変わったようだ。
そんな彼らは、ヒロインに攻略される事を恐れた。
彼らはみな名前のある立場、(貴族や国の要人の息子、剣聖)などであったが、ゲームの中では、ヒロインと一緒になるためにその立場を捨てていたのだ。
なぜならそれは、ヒロインが世界の敵となる邪神を身に宿しているためだ。彼女と共に生きる為には、ひっそりと暮らすしかないらしい。
けれど、それを嫌がった攻略対象は、貴族令嬢である私に取り入る事にしたらしい。
邪神を滅する力をその身に宿した私に。
彼らは私が子供だった頃から、私のご機嫌を取る事に必死になっていた。
「ねぇ! ねぇってば! ねーえ! お話してよ!」
「はいはい、お嬢様。分かったよ」
「おとぎ話、教えて!」
面倒見の良いお兄さんのような男性。
私は彼の事が好きだった。
肉親に向ける親愛のような感情だったけれど。
本当の兄のように、家族の様に信頼していた。
私に兄がいたら、こんな感じなんだろうと思っていた。
「これくらてきとーで良いじゃないっ!」
「立派なレディーになるためには、マナーをしっかりと覚えないといけませんよ」
「こまかいのやーっ!」
「こら、わがままを言うんじゃありません」
小言がつきない小姑みたいな男性。
その人は、家庭教師として、私に近づいてきた。
いつも口うるさいから、けっこうひどい事を言ってしまったけれど、本心では尊敬していた。
だって、私のためを思って色々な事を教えてくれていたから。
幼いころの自分は、彼の厳しさの裏には優しさがあるのだと思っていた。
「もーっ、おーなーかーすいたーっ!」
「もうちょっと待っててねぇ。大丈夫、人間はそう簡単にお腹と背中がくっついたりしないからぁ」
「でも、機嫌は悪くなるのっ」
「まったくねぇ。もうちょっと静かにして待ってほしいなぁ」
お母さんみたいな男性。
おっとしりした口調で、のんびり屋さん。
でも抜けてるところがあるから、たまに私が助けてあげないといけない。
その人は、そんな男性だった。
(国の政治にかかわる仕事をしている)両親に連れて行かれて王宮に遊びに行くと、美味しいおやつをくれる人だ。
退屈していると遊び相手にもなってくれた。
体力があって、どれだけ走り回ってもばてない。
みんな、みんな私を愛してくれた。
私もみんなを愛していた。
けどそれは利用するためだったのだ。
お世話を焼いてくれるお兄さんの様な貴族の男性。
小うるさい家庭教師、要人の男性。
おっとりしながらも遊び相手になってくれる、剣聖の男性。
貴族令嬢だから、私は婚約者をえらばなければならない。
だから成長した私がえらんだのは、小うるさい家庭教師の男性だった。
傍にいるとうるさい事この上ないが、彼の助言は貴族令嬢として生きていくために、重要だった。
でも、それだけではない。厳しいだけでなく、できない所を根気よく付き合ってくれるところが優しかったし、勉強で詰まったところがあると私用にノートをまとめてくれるところも嬉しかった。
だから、好意に繋がったのだ。
「先生と婚約を結ぶなんて変な感じですね」
「そうでもありませんよ。私はずっと、この瞬間を望んでいましたから」
「もう、真顔で恥ずかしい事言わないでよ」
その時は、幸せになれると思っていた。
彼らの思惑を知るまでは。
偶然、彼等三人が集まって入るところを見つけて、耳を傾けてしまうまでは。
「婚約おめでとう」
「よくやったねぇ。もう少し時間がかかるかと思っていたけれど」
「ああ、ありがとう。これで彼女を利用できる。ヒロインとぶつけて、邪神の力を滅してもらおう。そうすれば、俺達はこの立場を失う事はないだろう」
そこで判明したのは、彼らの前世について。
そして彼らの目的も。
彼等は、運命の力を恐れていた。
子供の頃に、どんなに頑張っても原作そっくりの出来事が起きたとか言って、それで心が折れてしまったらしい。
そんな彼等が言うには、私の体の中に、どうやら邪神を滅する力が宿っているらしい。
それは、邪神とは対極に位置にある、女神の力だ。
だから彼らは、私に目を付けて、いざという時の保険を手元に置いておこうとしたのだ。
人の心を弄んだ彼らが許せなかった。
だから私は、原作開始の時期に乙女ゲームの舞台となるらしい学園に入学し、ヒロインとされている女性に泣きついたのだ。
演技として、だけれど。
もしかしたら、半分は本心だったのかもしれない。
演技としてはやや過剰にたっぷり一時間も泣きわめいて、これ以上ないくらい強烈にヒロインを困らせてしまったのだから。
けれど、苦労をしたかいがあった。
「そんな事のために女性を利用する人がいるなんて。許せません! 分かりました。私達でこらしめましょう!」
ヒロインは、仕返しに協力してくれるようだった。
まず手を付けたのは、貴族の男性。
お兄さんぶって、偽りの世話焼きをしていた彼を困らせるために、凄腕の悩み相談役として有名人にしてあげた。
時々無茶な相談も彼の元に寄せるように誘導した。
たくさんの人が押しかけたため、彼は寄せられる悩みごとをさばききれなくなったらしい。
悩みごとで解決できない事があると、たちまち彼のせいにされた。
評判をあげてから落とすのは、一定の効果があったようだ。
次に手を付けたのは、要人の息子である男性。
彼は他の攻略対象とは違って、学生ではなく学校の先生として、学園で働いている。
だから、他の先生を持ちあげて、良いところを生徒達に見せる事によって、教師としての評価を落とした。
彼は自分より頭の悪い人を見下す癖がある。なので、そういった人達が人気になり、生徒達に頼られるのを見るのは苦痛そうだった。
自分より頭が悪いのに、なんであんなに生徒に人気があるのだか、と婚約者である私に愚痴っていた。
その後、手を付けたのは、おっとりとした剣聖の男性だ。
弱点らしい弱点が見つからなくて困ったが、学園生活中に女性に弱いという事が分かった。
そのため、剣聖を愛でる会なんてものを作って、たくさんの女性達に魅力を伝えていった。
たちまち人気者になって女性に囲まれるようにななっため、彼は毎日うろたえるようになった。
女性から逃げ回る日々を続けている。
私と一緒にいる時は、そんな様子微塵もなかったのに。
私は女性扱いされてなかったというのが分かって、かなりむっとした。
それからも、こまごまとした仕返しは続けた。
ヒロイン考案なだけあって、容赦した内容のものが多かったが、それでも私を利用していた男性たちがうろたえるのは愉快だった。
やがて原作終了の時期がやってくる。
彼らが話していたストーリーでは、ここでヒロインが攻略対象の誰かに告白するらしい。
それで、選ばれた攻略対象は、ヒロインの秘密……邪神の事を打ち明けられて、立場を捨てる。
エンディングでは、二人でどこかでひっそりと暮らすことになるのだが。
ヒロインは「それについては、邪神の力を抑える方法が見つかったので大丈夫です」との事だ。
私と関係を持ったからなのか、ヒロインは邪神の力に関するリスクを克服したようだった。
「毎日たくさんいろんな場所で嫌がらせしてたら、宝探しが得意になったんですよ」と言っているので、身近な場所で邪神の力を封印する道具でもみつけたのかもしれない。
私を騙した男性たちは、運命の力を恐れていた。
ヒロインと出会ったら、どんなに嫌だと思っていても、惚れてしまうのではないかと。
今、自分達が大事にしている立場を、どうやったらそう簡単に放り捨てる事になるのが、理解できなかったのだろう。
だから、過剰に恐れた。
恐れずに立ち向かっていれば、ヒロインが原作になかった行動をとったように、運命が開けたかもしれないのに。
卒業式が終わった後、ヒロインは攻略対象である三人を一人ずつ呼び出して告白していった。
もちろん、偽の告白だが。
すると、彼等はやはりあの頃から変わっていなかったのだろう。
「俺はゲームの様にはならないっ!」「やはり運命の通りになってしまうのかっ!」「剣聖の立場をすてるわけにはいかないんだっ!」
という三人同じような反応になって、ヒロインを害そうとしてきた。
一刻も早く、彼女という存在を消しさらなければ、自分の意思が運命によって強制的に変えられてしまうと信じこんで。
そんな彼らの恐れは、いっそ狂気ともいえるものだった。
だから、陰から見守っていた私が、ふいをついて彼らをそれぞれ殴ったり、ビンタしたり、つきとばしたりしたあと、ヒロインと協力して拘束していったのだ。
他人への暴行は立派な犯罪だ。
証人役として、今までの学園生活で知り合った友人達に遠くから見ていてもらっているので、言い逃れはできないはず。
私は、婚約者である一人に「貴方の企みはとっくにばれていたんです。好きでもないのに、よくも婚約なんて事してくれましたわね。貴方と添い遂げる事はできませんわ」と婚約破棄を言い渡した。
それで、私の先生だった元婚約者は、うなだれて抵抗する気力をなくしたようだった。
しかし、他の二人はまだあきらめていなかったようだ。
ヒロインすら消してしまえば、運命の影響力から逃れられると思っているらしい。
拘束された状態でも、諦め悪くもがいていた。
その努力をどうして別の方向に生かせなかったのか。
しかし、そんな彼らに対してはヒロインがとどめをさしたようだ。
目の前で、邪神の力の一部を操って見せたのだ。
「運命は乗り越えられます。恐れて逃げずに、協力して立ち向かえば何かが違っていたかもしれないのに!」
それで、もがいていた二人はようやく諦めたらしい。
のちに警備兵に突き出された三人は、ヒロインの慈悲によって、刑罰を科せられることはなかった。
が、数か月ほどそれぞれの家で軟禁されたり、目撃者の話によって暴行未遂の件が広まってしまったため、名誉を汚すことになってしまった。
彼らがどうしてあんなに過剰に運命を恐れるようになったのか詳しい事は知らないが、理由を知ったところでそう簡単には許す気にはなれないだろう。
私がされた事の罪がなくなるわけではないのだから。
だから、彼等が反省するまでこれからもチクチク虐めていこうと思う。
新しい婚約者が見つけにくくなるかもしれないが、被害者である私が彼らの傍にいる事で、それだけで彼らの立場は悪くなるのだから。
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