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透けてるブランディシュカ

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〇87 乙女ゲームの世界を平和に満喫するだけの話

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 乙女ゲーム「フォーチュン・ゲイザー」は神ゲーだ。

 キャラ・シナリオ・ミュージック・イラスト。

 どれも一級品のクオリティ。

 そんな「フォーチュン・ゲイザー」にはまった私は、すぐに夢中になって毎日のようにプレイしたけれど、どうやら夢中になりすぎてしまったらしい。

 学校のない長い休みを活用して、食事も忘れてぶっ続けでゲームをしてたら、心臓発作を起こしてぱったり昇天してしまった。

 次に気が付いた時は、何か神々しい場所に立っていて、転生手続きなるものをさせられていた。

 対面したのは、近所のおにーさん、みたいな気さくな神様。

「どこかご希望の世界は、あるっぽい?」

 と聞かれたのは、私は欲望のままにその世界の名前を口にした。

「あるっぽい! フォーチュン・ゲイザーにインさせてください!」





 そんな感じでその世界のご令嬢に転生した私は、「フォーチュン・ゲイザー」の世界で好きに生きた。

 小さい頃から記憶があったので、攻略対象を見つけ出して、理由をつけては絡みまくったり、イラストになった場所に聖地巡礼で足を運びまくっていたりした。また気分の良いときは人目もはばからずにどこでも神BGMを口ずさんだりも。

 原作改変とかどうでも良い!

 自分さえよければ!

 みたいな感じでそれはもう! 好きに活動した。

 で、設定資料集に書いてあったモブにも話しかける始末。道具を眺めまわす始末。

 攻略対象が話しかけた人とか、触った物とか、もはや名物でしょ!

 そんな事をやりまくったからか、年頃の娘になる頃にはすっかり変わり者扱いだ。

 町の中でも、通っている学校でもプチ有名人。

 でも良い。

 人生楽しんだもの勝ちだし。

 人目を気にして自分をおさえこむなんて、馬鹿らしいし!





 俺のクラスには、変わった女がいる。

 遠くからこっちを見てニヤニヤするだけの、変な女。

 はじめは、他の馬鹿な取り巻きと同じだと思っていたのだが、何か違う。

 俺はお金持ちの家の息子だから、おこぼれにあずかろうとして寄ってくる人間は多い。

 けれど、その女は俺から何かの施しを受けるでも、期待するでもなくただ見つめているだけなのだ。

 何かを言ってはニヤニヤ、動いてはニヤニヤ。

 何がそんなに面白い?

 得体の知れなさを感じて、何かちょっと怖くなった。

 おかげで普通の取り巻きたちに対するアレルギーがなくなったのは、不幸中の幸いだが。

 あれに比べれば、まだかわいいもんだ。

 誰かあの女が一体何なのか教えてほしい。





 僕のクラスの転校生のツンデレくんが、変わり者令嬢を気にしているらしい。

 彼、ちょっと前までは、とりまきの人達に囲まれてうんざりしてたんだけど、どうしてかその悩みをふっきったらしい。

 その理由は、変わり者令嬢だとか言ってたな。

 うーん、彼女って昔から不思議な所があるからそのせいかな。

 僕が一人ぼっちになってて、ちょっとした事で周りの人間から虐められていた時も、飽きもせず毎日会いに来てくれたし。

 今でこそ成り上がってるけど、あの当時の僕は、名もない家の子供だったんだ。どうして僕の事知ったのか、今でもよく分からないんだよね。

 でも、そこが魅力だと思ってるよ。

 一緒にいてて楽しいしね。







 あの変わりもの、また変なのになつかれてるな。
 ツンデレ転校生くんか、ふーん。

 あーあ、ナカヨクお話しちゃって。

 幼馴染くんはともかく、あんな美形まで虜にするとはな。

 天然って恐ろしいよな。

 夢も目標も失って、死んだ目をしていた昔の俺を連れまわしたあの女。

 あいつのおかげで、俺は自分の街の知らない所をたくさん知る事ができた。

 落ち込んでいた俺に、世界は広いんだってことを教えてくれた。

 できれば、恩返しがしたいけど、だからって恋愛の指南はしたくないな。

 常日頃から自衛しててくんないかな。

 ずっと天然でいてほしいけど、でもそれだと俺の気持ちにも気づかなさそうだし、困ったな。







 はぁー、人生楽しい。

 攻略対象はイケメンだし。

 校舎はイラスト通り、宮殿かってくらい綺麗で目の保養になるところばっかりだし。

 今日もあこがれの世界を満喫したなぁ。

 そういえば、鼻歌歌ってたら隠し攻略対象に話しかけられたな。

 なんでも気分転換にピアノが弾きたいけど、まったく曲が思いつかないとか。

 ふむふむ、なら私がおすすめの曲を提供しましょう!

 明日も幼馴染くんと遊ぶ約束してるし、ツンデレ転校生くんとはちょっと話すようになったし、街角王子とは放課後デートの約束してるし。

 乙女ゲーム転生の醍醐味といったら、やっぱりこうでなくっちゃ。

 私は次の一週間のスケジュールを頭に浮かべながら、気分良く微笑んだ。

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