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〇102 心のかけら
しおりを挟むこの生が尽きる時、私は自分自身の心に誓ったんだ。
この今に抱いた想いを失いたくない。
この今に築いた関係をなくしたくない。
私は、この心を守る。
本物に打ち勝つために、私の心のかけらを、記憶のかけらを、彼に預ける。
その前に、秘密をうちあけようかな。
私はどうやら人間じゃないみたい。
魔法で作られた存在なんだって。
だから、魔法を使っている人が、行使するのを辞めたら消えちゃう。
ひどい話だよね。
神様の指先一つで、自分が死んじゃうんだもの。
怖かったよ。
泣きたかったよ。
嘆きたくなったよ。
でも、うつむいてられない。
私には、大切な思いがあったから。
だから、この心のかけらを、守らなくちゃ。
大好きで大切な彼の中に、私の心を切り取って、埋め込んだ。
ごめんね、勝手な事をして。
でも、一緒にいたかったんだ。
私が生きていた証を残したかったんだ。
もうすぐ私は消されてしまう。
本物の私に、偽物の私が消されてしまう。
本物の私は、彼に会うのかな。
そして親しくなる?
いやだな。
嫉妬しちゃうかも。
だから、「待ってるから、私を助けてね」
偽物を消した。
私には目的がある。
そのためには、全ての物を利用する。
偽物につくらせた、人脈を。
培わせた、成果を。
歩いてきた、道のりを。
すべてを徹底的に利用して、果たさなけばならない目的があるから。
心が痛い、なんてそんな事思わない。
私の心はとっくの昔に、凍り付いてしまったもの。
覗き込めばほら、心を形作るピースには何も映し出されていないもの。
一度目の偽物を消した時。
うん、何も映っていない。
二度目の偽物を消した時。
ここにも、映ってない。
大丈夫。
私はまだ。
頑張れる。
彼女の生が尽きた。
偽物だった彼女はいなくなった。
残ったのは本物だけ。
僕は本物と協力して、目の前の困難を解決しなければならない。
長い年月をかけて、さまざまな策をはりめぐらせて。
そしてここまでたどり着いた。
いまさら、後戻りなんてできるわけがない。
なのにどうして、心のあちこちがいたいのだろう。
今にも砕けてしまいそうだ。
僕は拳を握りしめている。
膝をついて嗚咽をこらえている。
涙がとまらない。
もし、という夢想がやめられない。
ひょっとしたら、気が付いていないだけで、とっくに砕けてしまっているのかもしれない。この心は。
だとしたら拾い集めないと。
立ち止まる事なんて許されない。
犠牲を救いのない本当の犠牲にしてしまわないために。
こぼれた心のかけらを拾い集める。
かけらの一つ一つを丁寧に。
覗き込めば、たくさんの思い出があった。
彼女と過ごした大切な。
「みつけてくれてありがとう」
「ずっとそばにいるよ」
「いっしょにがんばろう」
消えてもまだ、彼女の言葉が尽きないなんて、不思議な事があるものだ。
きっと、僕の記憶がそう言ってるんだろう。
拾い集めた記憶の底から、僕は彼女を蘇らせた。
「待ってたよ。私を助けてくれてありがとう」
もう大丈夫。
行くよ。
君のいない世界を。
君と共に歩くいていくよ。
君の心のかけらは、ずっとこの胸の中にあるんだから。
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