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〇148 理解できない動機
しおりを挟むなんなのあのおかしな人は。
取調室で取り調べを終えた私は、さぞ先輩になさけない顔をさらしていただろう。
「理解できないですよ先輩」
「お前はまだ新人だからな」
先ほど話をした人間の様子を思い起こす。
その相手は、殺人容疑がかかった男性だった。
つきあっていた彼女の部屋で犯行に及び、鍵をかけ忘れたドアのせいでマンションの管理人に目撃された人間。
計画性はなくて、犯行は衝動的に行ったものとみられる。
取り調べで、色々な事を聞いたけれど、理解できなかったのは動機だ(動機はなすならもうこいつ犯人では?)。
その犯人は、愛しているからと言った。
愛しているから愛しただけだと。
殺した、とは一言も言わない所に狂気を感じた。
不幸にしたとか、罪をおかしたなんて感じてなさそうなところがやばかった。
初めて出会った犯人タイプだ。
彼にとって、なんだろう。
殺人とは愛する事なのだろうか。
意味が分からない理解できない。
考えすぎて、思考がかきみだれてきた。
頭を抱えていると、先輩が近づいてきた。
そして混乱する私の頭を撫でた。
先輩優しい、先輩すき。
でもそれ誰にでもやるくせなのよね。
まったく罪つくりなんだから。
話がそれた。
「理解できない方がいい。理解できたらそれだけ頭がおかしくなっちまってるって事だろうからな」
「ですけど。なんか消化できなくて気持ち悪いです」
「世の中ぜんぶ、理解できる事ばっかじゃないんだ。そういうのは割り切れよ」
けれど私は、分かりたいと思っている。
分からない事をできるだけなくしたいと思っている。
身内から罪をおかした人間が出た時、分かってあげたいと思って、警察官になったのだ。
だって、その人は私の家族だから。
分かってあげないと可哀そうな気がして。
そんな志望動機があったから、日常の中でこういう事があった時、過剰に気になってしまうのだろう。
「はぁ、十何年も警察やってる先輩が分からないなら、私にわかるわけないのかな」
落ち込みながら、自分のやるべき事へと戻っていく。
けれど、あれ。
落とし物したかもしれない。
どこで落としたのか分からないけれど、先輩からもらったハンカチがない。
取調室で犯人が泣いてたから、反射的に取り出そうとしてたんだっけ。
罪の意識もひどい事した意識もないのに、彼女にもう会えない事が辛いとか言って。泣いてたんだよね。
うん、思考がまったく分からない。
とりあえずどこで落としたか分からないけど、なくしたくない。
私は急いできた道を戻っていった。
けれどその先で、先輩が女性上司と話をしていた。
その顔は、私には向けないような顔だった。
とても嬉しそうで、幸せそう。
あの顔を永遠に自分に向けてもらえないなら、あの犯人みたいにして自分なりの方法で愛してしまう?
愛しているから愛した。
愛しているから、か。
かつて同じ家に暮らしていたあの人も、愛しているからといって母の首をしめた。
浮気をしていたのが許せないって。
家族はよく似るって聞くけど。
私もいつかそういう事、気になるのだろうか。
私は首を振って否定した。
ミイラ取りがミイラになってはいけない。
私は先輩と女性上司の事を見なかった事にして、仕事に戻っていった。
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