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〇05 もたらされた答え

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――命に優劣も優先順位もありません。

――だから彼らはおそらく、自分の心に従ったのでしょう。

――あなたの事が好きだという、その心に。




 人類は滅亡した。

 今しがた、最後の一人であった人間が死んでしまったからだ。

 その人物の名前はヴィータ。

 食べる事が好きな男性だった。

 ヴィータは最後に「生きて欲しい」と言った。
 だが、その理由までは言えずに息を引き取った。

 そんな彼に手料理をよくふるまっていた少女がいる。

 その少女の名前はアイエス。

 しかし、少女アイエスは人間ではない。

 ロボットだった。

 だから、人類はしっかり絶滅している。

 一人も、生き残ってはいない。

 この場所。シェルターには、今にいたるまでに様々な事が起こった。

 外部から入り込んだ最近によって蔓延した病気や、突発的な事故、災害。

 奪いあいによる食料危機、機械の故障などで起きた環境変化などなど。

 最初は何万もいた人間だが、ひよわな体を持っていた彼らは、瞬く間に数を減らしていった。

 だから、彼等は何をしてでも生き残るべきだった。

 人類を滅亡させないために、元から丈夫だった機械を利用するべきだった。

 けれど、彼等の一部……アイエスの知り合いたちは、燃料にするためのオイルを残し、食料を作るための電気を残し、雨漏りの雫に濡れない場所にアイエスを移動させた。

 それが、アイエスには理解できなかった。

 しかし人類が絶滅したあとだから、もう誰も答えを教えてはくれない。





 それから長い月日が経った。

 アイエスの体は、徐々にさびて、朽ちていく。

 シェルターの中で一人ぼっちで過ごさなければならなかったアイエスは、しかし来訪者に出会う事となった。

「歴史的な新発見です。やはり旧人類はシェルターをつくりあげて、ひっそり生き延びていたようです!! ○○博士の仮設通りですね!!」

 かつての人類と同じ姿をしたひ弱な人間達がそこにやってきた。

 アイエスは、やっと彼等に理由を尋ねる事ができると知って安堵した。

 旧人類が滅ぶにいたった歴史を伝えた後、アイエスは問う。

 どんな理由があって彼らは機械を生き残らせたのか、と。

 過去の過ちを、誰かに伝えるためか。

 もしくはどこかに生き残っているかもしれない人間をシェルターに迎え入れて、保護させるためか。

 しかし、もたらされた答えは違っていた。




――命に優劣も優先順位もありません。

――だから彼らはおそらく、自分の心に従ったのでしょう。

――あなたの事が好きだという、その心に。



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