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〇10 俺の友人の王子は想い人の事しか見えていないらしい

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 恋っていいもんだよな。

 つい夢中になっちゃうのも分かる。

 恋人の事を考えるのはいい事だ。

 好きな奴の事を優先するのは当然だ。

 けれど、恋人の事しか見えていないってのはどうなんだ?

 もっと他の人間の事も考えてくれよ。






 ある日、盲目な恋に夢中になる馬鹿、いや王子はこういった。

「俺の姫が本を読みたいと言った!だから、城の中に図書館をつくる事にした!」

 俺は友人の頭をしばき倒して「いくらかかると思ってるんだ。この財政難の時に」とつっこんだ。

 これだ。

 きっとこの王子は、馬鹿に違いない。

 俺はそう思った。

 今、王子のいる国は財政難だ。

 度重なる自然の猛威によって国民の税を免除しているため、本来富める者達である王族達も贅沢ができない。

 そんな時に、図書館なんて作れるわけがないだろうに。

 けれど、王子の馬鹿はそれでおさまらなかった。

 定期的に馬鹿をやりたがる。

 王子
 性格:馬鹿
 習性:馬鹿をやりたがる

 って、感じなのか?
 そうなのか。

 もっと王子なら王子らしくふるまってくれ!





 ある日。

「俺の姫が犬が怖いといった、この国からすべての犬を駆除しようと思う」

 とか言い出した。

 俺は、手短に会った用紙を折りたたんで、即席のハリセンをつくった。

 そして、友人の頭をはたき倒して「生態系なめんな。他の動物にも悪影響でるだろうが」と説教した。

 あと、それ国中の犬好きを敵に回しかねない発言だぞ。

 富裕層では、ペットブームなんてものがあるのに何を考えているのだろう。

 贅沢ができなくなってもみんな、必死にペットの分までお世話してるんだから、そんな気持ちを無駄にしてやるなよ。

 おまえの親戚の女の子だって、犬のエリザベスちゃんに餌をやってるだろうが。

 あと、ペット販売所の人達が、それで生活のための金を得てるってのに、生きていけなくなってしまうだろうが。

 でも、そんなのまだかわいい方だった。

 まだ先があった。

 修正してやろうかお前の情報。

 王子
 性格:超馬鹿
 習性:すごい馬鹿をやりたがる

 って具合に。






 
 極めつけには。

 またまた、ある日。

「俺の姫が隣の国の王座に座ってみたいと言っていた、戦争しよう」

 俺は拳をならして、思いっきり片方をふりかぶった。

 そして友人の体をどつきまわして「あほか。いくら将来妻にする人間だっていっても、ほいほいいう事をきいてるんじゃない」と怒鳴った。

 おかしい。

 さすがに俺はおかしいと思った。

 友人は馬鹿だ。

 思いついたことをすぐやってしまうあほな癖もある。

 けれど、人に迷惑をかけるような事は今までしたことがない。

 恋をするまでは、比較的まともだったはずだ。

 それに、そんな馬鹿は自分が馬鹿な事を自覚しているから、そのブレーキ役として俺を相談役にしたのだ。

 馬鹿だけど、ちょっとは救いようがある、比較的賢い部分もある平和な馬鹿だったのだ。

 それなのに、一体どうしてというのか。

 こんな突拍子もない事を立て続けに、それも本気で言いだすのはおかしかった。

 図書館の建設も犬の排除も、戦争開始も俺がとめなかったら、本気でやっていたような雰囲気があった。

 実際に、指示を出そうとしていた所もあったしな。




 !俺の友人が盲目な恋で乱心した!




 文字に起こせばそれまでだけど、裏があるように思えてならない。

 俺は、何が原因なのか調査する事にした。

 すると、友人の恋人からあやしい情報がでてくるでてくる。

 友人が「俺の姫」「世界一可愛い俺の姫」とかいってくる女は、ヤバい奴だった。

 町で一目ぼれして城につれてきた、とか馬鹿がいって紹介してきた女性はとんでもねぇヤツだ。

 友人の恋愛にごちゃごちゃ口出ししたくなかったから、調査を控えめにしたのがまずかったな。

 俺の責任だ。

 その女には、過去の情報の中であやしい点があったのだ。

 幼少期の時に闇組織に売り飛ばされたとか言う過去を。

 その後、犯罪組織をとりしまっていた騎士団に見つかって、保護されたらしいが。

 ときどき、ガラの悪い人間と一緒にいるのを見かけるとか。

 とてもあやしい。

 俺はその少女の事を徹底的に調べる事にした。






 調査はかなり手間取ったが。

 彼女が黒だという証拠がゴロゴロ出てきた。

 兵士達で少女を囲んで問いただしたら、逃げようとしたので捕まえて牢屋で尋問。

 すると、王子に催眠術をかけて操ろうとしていた事がわかった。

 あっけなく有罪確定だ。

 恋人をうしなった王子は目に見えてうなだれていた。

「そうか、恋は盲目じゃなかったのか」
「そっちに傷つくのかよ」
「だって、可愛かったんだもん。こんなに可愛かったら何でも言う事きいてやりたくなるよなって思ってたんだもん」

 馬鹿の王子はしょんぼりした顔で、うなだれる。

 次の恋愛にトラウマを残しそうな感じだ。

 変な女を見過ごしてしまった手前、俺も強く言いたくはないが、跡継ぎはいないと困る。
 
 だから、今度は厳重に調査したうえで、お見合い写真の手配をすることにした。

 あと、身分はきちんと貴族から。

 へたに平民とかから選ばれると、後が面倒だ。
 調査が手間かかるし、時間かかるし、メンドウだし。

「あーあ、自由恋愛に憧れてたのになぁ。腹の中に一物ありそうな貴族とかとお見合いしてたって楽しくないのにな」
「王子なんだから、そこは我慢しろよ。これで懲りただろ」

 まあ、この馬鹿王子の気持ちも分からなくはない。

 子どもの頃から遊び相手としてずっとそばにいたから。

 男だけど恋愛小説好きだった馬鹿は、ずっと運命の相手とやらに夢を見ていた。

 それは制約の多い生活への不満があったゆえなのだろう。

 出来る事なら、俺も応援してやりたいがこればかりは険しいし、応援したところでどうにかできるものでもない。

 割り切れ、と肩を叩いて慰めた。





 しかし数日後。

「おい、聞いてくれ、視察で辺境の村にいったんだけどそこにいる女の子が偶然俺に話しかけてきてさ」

 俺は嫌な予感がしたのですぐに耳をふさぎたくなった。

 だが立場が立場なのでそんな事できるわけもない。

「その子俺の事知らずに話しかけてて、最後に『王子様だったなんて知りませんでしたわ』だって。何か変わってるよな、興味わいてきちゃかもしれない!」

 うきうきした様子でその女の事の出会いを語る王子をみて、げんなりする事になった。

「かんべんしてくれよ」


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