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〇06 人形姫の物語

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 とある国に人形でできたお姫様がいました。

 それは孤独な王女様が、亡くなった娘を模して作った人形です。

 お姫様だけど人形なので、自分ではどこかに移動する事もできません。

 口が動かないので喋る事もできませんし、表情が動かないので笑う事も、悲しむ事もできません。

 人形姫はただ、国民の目を楽しませるだけの存在でした。

 しかし、人形姫には心がありました。

 どこかに行きたいと願い。

 何かを喋りたいと思い。

 笑ったり、悲しんだりしたいという望みがありました。

 糸を付けられて、舞台を用意されて、豪華な服を着せられて、踊ったりする事はあります。

 人々はそれを見て、歓声を上げ、たのしんでくれます。

 しかし、人形姫の心は満足しません。

 そのうち人形姫の元に、魔女がやってきました。

 その魔女は言います。

 貴方に自由な体を与えましょう。
 その代わり、それはたった一日だけ。
 それでも良いというのなら、願いを思いを望みをかなえてあげましょう。

 人形姫は、ためらうことなく頷きました。

 するとたちまち、魔女のおかげによって人形の体が動くようになりました。

 人形姫は思い通りになった体で、思いっきり楽しみます。

 しかし期限はたった一日。

 その後は、再び元のような日々の繰り返しでした。

 人形暇は、以前と同じ日々に戻ります。

 けれど、たったそれだけだというのに、人形姫の心は壊れてしまいました。

 人形姫は分かってしまったのです。

 心のままに動ける幸せを。

 一度知ってしまったからこそ、これから絶望が続く事に耐え切れなくなってしまったのでしょう。


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