32 / 54
結婚式3
しおりを挟む
リングピローの上で二つの指輪が光を反射して輝いている。
「手を出して」
そっと左手を差し出しすとシアンが小ぶりな方の指輪を手に取り、ゆっくりとルースレアの薬指へと通していく。
ぴったりと収まった指輪に胸が幸せな気持ちで満たされ、自然と笑みがこぼれた。
「僕にもお願いね……」
今度はシアンが左手を差し出した。
少し震える手で彼の手袋をすりと外し、残った指輪を手に取る。薬指にゆっくりとはめると、彼が嬉しそうに微笑む。
「ふふ……とても、いい気分だね」
言葉に同意するように頷く。
自分と彼の指にはまる指輪が眩しいくらいに輝いて見えた。
「さあ、あと少しだよ」
ゆっくりと家族の方を向き二人で左手を掲げると、一斉に拍手と祝福の言葉が送られる。
そして祝福の中、シアンとルースレアは幸せそうに微笑み合いながら退場したのだった。
◇
結婚式が無事に執り行われ、シアンとともに屋敷へとやってきたのは日が暮れてからだった。
ネイアスとダリアから本日よりシアンが領主の地位を継ぐ説明を事前に受けている。それに伴い義両親たちは別邸へと引っ越したらしい。
広い屋敷に足を踏み入れると、ずらりと並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。
「この度はご結婚おめでとうございます」
きっちり揃った言葉に少し驚きながらも、ルースレアはおっとりとした笑みを浮かべる。
隣に立つシアンは軽く手を上げて応えていた。
「部屋の準備は?」
「と、整っております」
主人の問いかけに答えたのはメイリーだ。
「ご苦労様。メイリーとフラン、ミューラ以外はもう下がっていい」
ルースレアの侍女たちを残し使用人たちは深く頭を下げて、自分の仕事に戻っていった。
「……メイリーは部屋へ案内を。フランは軽食をお願い。ミューラは一緒に来て」
「は、はい」
「承知いたしました。ご用意でき次第お持ちいたします」
「かしこまりました」
シアンの指示に素早く返事をしてそれぞれが動き出す。
メイリーに案内された部屋は質のいい調度品でまとめられおり、落ち着いた雰囲気だ。
「こ、こちらが奥さまの部屋になります」
「うん、指示通りだね。どう? 気に入ったかな?」
何度も頷いて肯定を示す。それから中を見てまわる。
自分の屋敷から持ってきた荷物はすでに片付けられており、衣装部屋には何着かドレスがかかっていた。
「旦那様、軽食をお持ちしました」
「ん。……お腹すいたでしょう、少し食べよう」
フランが持ってきた軽食のいい匂いがルースレアの鼻を掠め、思わず尻尾をぶんぶんと振る。丁度お腹が空いていたところだ。
シアンと向き合って食事を済ませると、彼はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、また後で……」
ルースレアの手を取りちゅっと指輪に口づけを落としたシアンが部屋を後にする。
予想外のことに固まっているとミューラが近づいてきた。
「さあ、準備をなさいましょう」
「お風呂に参りましょうか」
「つ、爪の先までピカピカにしましょう!」
気合の入った侍女たちにあっという間に連れて行かれ、爪の先まで綺麗に磨かれる。
さらに湯上がりにいい香りのする香油を肌に丁寧に塗り込まれ、髪や耳、尻尾にいたるまでいつも以上に念入りに手入れされた。
「お肌もつるつる、毛並みも完璧。文句無しの出来栄えになりましたわね、ミューラ」
「ええ、フラン。メイリーの用意してくれた寝間着も品があっていいですね」
「あ、ありがとうございます」
いつの間に仲良くなったのか、三人の侍女は主人の出来栄えに満足そうに頷きあっている。
ルースレアはなんとも言えない恥ずかしさに、ゆるゆると尻尾を振ることしかできない。
「さあ、ルースレア様。こちらの扉からシアン様のところへ向かってください」
部屋にいくつかある扉の一つを指さしてミューラが言う。
どうやら夫婦の寝室に繋がっているようだ。
ルースレアはごくりと唾を飲み込み、侍女たちに見送られながらそっと扉を開いて中に入る。
「……ん?」
仕事でもしていたのかベッドの上で書類を見ていたシアンが顔を上げた。
美しいオッドアイと目が合い思わず固まっていると、彼が立ち上がって近づいてくる。
「……緊張してるの?」
目の前まできたシアンの言葉に頷く。
「僕も、緊張してるんだよ」
そっと手を取られ引き寄せられる。手のひらがシアンの胸に触れ、力強く早い鼓動が伝わってきた。
「ね?」
彼も自分と同じ。そう思ったら少しだけ緊張が解れる。
そのまま手を引かれ、二人はベッドに腰かけた。
「ルースレア」
ふと静かな声で名前を呼ばれる。思わず顔を上げると近くにシアンの顔があった。彼の手がそっと頬に触れる。
「……とてもきれいだよ」
頬から顎へとするりと手が滑り、ゆっくりと触れるだけの口づけが落とされた。ドキドキとうるさいくらい高鳴る胸に、ルースレアは呼吸が止まってしまいそうだ。
「……僕を選んでくれてありがとう。一緒に幸せになろうね」
優しく囁かれた言葉に頷いて、ルースレアがシアンの手を握るとすぐに握り返される。ただつないだだけの手はやがて互いの指を絡ませ、触れるだけの口づけは触れるたびに深くなっていった。
そして、優しい夜はゆっくりと過ぎていく――……
「手を出して」
そっと左手を差し出しすとシアンが小ぶりな方の指輪を手に取り、ゆっくりとルースレアの薬指へと通していく。
ぴったりと収まった指輪に胸が幸せな気持ちで満たされ、自然と笑みがこぼれた。
「僕にもお願いね……」
今度はシアンが左手を差し出した。
少し震える手で彼の手袋をすりと外し、残った指輪を手に取る。薬指にゆっくりとはめると、彼が嬉しそうに微笑む。
「ふふ……とても、いい気分だね」
言葉に同意するように頷く。
自分と彼の指にはまる指輪が眩しいくらいに輝いて見えた。
「さあ、あと少しだよ」
ゆっくりと家族の方を向き二人で左手を掲げると、一斉に拍手と祝福の言葉が送られる。
そして祝福の中、シアンとルースレアは幸せそうに微笑み合いながら退場したのだった。
◇
結婚式が無事に執り行われ、シアンとともに屋敷へとやってきたのは日が暮れてからだった。
ネイアスとダリアから本日よりシアンが領主の地位を継ぐ説明を事前に受けている。それに伴い義両親たちは別邸へと引っ越したらしい。
広い屋敷に足を踏み入れると、ずらりと並んでいた使用人たちが一斉に頭を下げた。
「この度はご結婚おめでとうございます」
きっちり揃った言葉に少し驚きながらも、ルースレアはおっとりとした笑みを浮かべる。
隣に立つシアンは軽く手を上げて応えていた。
「部屋の準備は?」
「と、整っております」
主人の問いかけに答えたのはメイリーだ。
「ご苦労様。メイリーとフラン、ミューラ以外はもう下がっていい」
ルースレアの侍女たちを残し使用人たちは深く頭を下げて、自分の仕事に戻っていった。
「……メイリーは部屋へ案内を。フランは軽食をお願い。ミューラは一緒に来て」
「は、はい」
「承知いたしました。ご用意でき次第お持ちいたします」
「かしこまりました」
シアンの指示に素早く返事をしてそれぞれが動き出す。
メイリーに案内された部屋は質のいい調度品でまとめられおり、落ち着いた雰囲気だ。
「こ、こちらが奥さまの部屋になります」
「うん、指示通りだね。どう? 気に入ったかな?」
何度も頷いて肯定を示す。それから中を見てまわる。
自分の屋敷から持ってきた荷物はすでに片付けられており、衣装部屋には何着かドレスがかかっていた。
「旦那様、軽食をお持ちしました」
「ん。……お腹すいたでしょう、少し食べよう」
フランが持ってきた軽食のいい匂いがルースレアの鼻を掠め、思わず尻尾をぶんぶんと振る。丁度お腹が空いていたところだ。
シアンと向き合って食事を済ませると、彼はゆっくりと立ち上がった。
「それじゃあ、また後で……」
ルースレアの手を取りちゅっと指輪に口づけを落としたシアンが部屋を後にする。
予想外のことに固まっているとミューラが近づいてきた。
「さあ、準備をなさいましょう」
「お風呂に参りましょうか」
「つ、爪の先までピカピカにしましょう!」
気合の入った侍女たちにあっという間に連れて行かれ、爪の先まで綺麗に磨かれる。
さらに湯上がりにいい香りのする香油を肌に丁寧に塗り込まれ、髪や耳、尻尾にいたるまでいつも以上に念入りに手入れされた。
「お肌もつるつる、毛並みも完璧。文句無しの出来栄えになりましたわね、ミューラ」
「ええ、フラン。メイリーの用意してくれた寝間着も品があっていいですね」
「あ、ありがとうございます」
いつの間に仲良くなったのか、三人の侍女は主人の出来栄えに満足そうに頷きあっている。
ルースレアはなんとも言えない恥ずかしさに、ゆるゆると尻尾を振ることしかできない。
「さあ、ルースレア様。こちらの扉からシアン様のところへ向かってください」
部屋にいくつかある扉の一つを指さしてミューラが言う。
どうやら夫婦の寝室に繋がっているようだ。
ルースレアはごくりと唾を飲み込み、侍女たちに見送られながらそっと扉を開いて中に入る。
「……ん?」
仕事でもしていたのかベッドの上で書類を見ていたシアンが顔を上げた。
美しいオッドアイと目が合い思わず固まっていると、彼が立ち上がって近づいてくる。
「……緊張してるの?」
目の前まできたシアンの言葉に頷く。
「僕も、緊張してるんだよ」
そっと手を取られ引き寄せられる。手のひらがシアンの胸に触れ、力強く早い鼓動が伝わってきた。
「ね?」
彼も自分と同じ。そう思ったら少しだけ緊張が解れる。
そのまま手を引かれ、二人はベッドに腰かけた。
「ルースレア」
ふと静かな声で名前を呼ばれる。思わず顔を上げると近くにシアンの顔があった。彼の手がそっと頬に触れる。
「……とてもきれいだよ」
頬から顎へとするりと手が滑り、ゆっくりと触れるだけの口づけが落とされた。ドキドキとうるさいくらい高鳴る胸に、ルースレアは呼吸が止まってしまいそうだ。
「……僕を選んでくれてありがとう。一緒に幸せになろうね」
優しく囁かれた言葉に頷いて、ルースレアがシアンの手を握るとすぐに握り返される。ただつないだだけの手はやがて互いの指を絡ませ、触れるだけの口づけは触れるたびに深くなっていった。
そして、優しい夜はゆっくりと過ぎていく――……
3
あなたにおすすめの小説
【完結】契約結婚のはずが、冷酷な公爵の独占欲が強すぎる!?
22時完結
恋愛
失われた信頼を取り戻し、心の壁を崩していく二人の関係。彼の過去に迫る秘密と、激しく交錯する感情の中で、愛を信じられなくなった彼は、徐々にエリーナに心を開いていく。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
獣人族の彼にマタタビを渡したところ、キャラが崩壊しました。
piyo
恋愛
人間族のルル・クーガーは文化祭の景品でマタタビを手に入れる。使い所が無いそれを、同じクラスの獣人族グエン・イエルが偶然にも摂取してしまい、その後のイエルの態度が急変する。
ええと、あなたは本当にあのイエル君ですか?
獣人族の彼が、好きな子にニャンニャンする話です。
※他サイトにも投稿
男装獣師と妖獣ノエル ~騎士団で紅一点!? 幼馴染の副隊長が過保護です~
百門一新
恋愛
幼い頃に両親を失ったラビィは、男装の獣師だ。実は、動物と話せる能力を持っている。この能力と、他の人間には見えない『黒大狼のノエル』という友達がいることは秘密だ。
放っておかないしむしろ意識してもらいたいのに幼馴染枠、の彼女を守りたいし溺愛したい副団長のセドリックに頼まれて、彼の想いに気付かないまま、ラビは渋々「少年」として獣師の仕事で騎士団に協力することに。そうしたところ『依頼』は予想外な存在に結び付き――えっ、ノエルは妖獣と呼ばれるモノだった!?
大切にしたすぎてどう手を出していいか分からない幼馴染の副団長とチビ獣師のラブ。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ」「カクヨム」にも掲載しています。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
【完】麗しの桃は攫われる〜狼獣人の番は甘い溺愛に翻弄される〜
こころ ゆい
恋愛
※完結しました!皆様のおかげです!ありがとうございました!
※既に完結しておりますが、番外編②加筆しました!(2025/10/17)
狼獣人、リードネストの番(つがい)として隣国から攫われてきたモモネリア。
突然知らない場所に連れてこられた彼女は、ある事情で生きる気力も失っていた。
だが、リードネストの献身的な愛が、傷付いたモモネリアを包み込み、徐々に二人は心を通わせていく。
そんなとき、二人で訪れた旅先で小さなドワーフ、ローネルに出会う。
共に行くことになったローネルだが、何か秘密があるようで?
自分に向けられる、獣人の深い愛情に翻弄される番を描いた、とろ甘溺愛ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる