ブタ令嬢の試練~最低最悪と呼ばれる従魔を召喚してしまった令嬢の話~

イノセス

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22話~へっ?消えた?~

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 大人になった。
 怒らなかった理由をケント君に聞かれた時、私はそう答えた。
 それは嘘ではない。嘘では無いのだが…。

「腹立たしい事には、変わりはありませんわ!」
【ブフ。ブフ】

 部屋で腹立たしさを口にすると、ブーちゃんが何度も頷く。
 そうですわよね?ブーちゃんも怒っていますよね?ブタのお世話とか言われたら、そりゃ腹立たしいでしょう。
 私も全く同じ感情よ。あの時はブーちゃんが気を紛らわせてくれたから良かったものの、今思い出すと腹立たしい事この上ないわ。下民、下民って。人を見下す貴女が下種げすじゃない。

「と、言うことで。明日からはまた、ハイドの森に行きますわよ」
【ブッハー!】

 明日から連休だ。トレジャーハントをする目的もあるけれど、今回はそれに、憂さ晴らしも追加される。今の気分的には後者がメインかもしれない。

「私も、覚えた魔法をぶっ放しますわよ!ブーちゃん。しっかり見ていて下さいまし!」
【ブッ?ブーブーブー】

 ブーちゃんが宥めるジェスチャーをする。
 うーん、確かに。あまり魔力を使い過ぎると、いざと言う時に困るかも。ブーちゃんの召喚は驚くほど魔力を使わないけれど、流石に無くなっちゃったら召喚を維持できない。それは、私の命に直結する大事。

「分かったわ。1発だけ、1発だけ盛大に打ち上げてみせますわ!」
【ブッハー!】

 うんうん。明日が楽しみですわね。

 
 そうして迎えた週末。私達は朝早くから出掛けた。
 別に、楽しみ過ぎて寝付けなかった訳ではない。
 勿論それもあるけど、人目に付きたくなかったからだ。エリカさんが凄く興味を持っていたみたいだったし、サロメ達が嗅ぎ回っている可能性もある。そして、一番の理由が私の隣を歩く人物にあった。
 その人物が、大きな欠伸あくびをする。

【ブハァァ~…】

 そう、ブーちゃんである。
 彼は今、大きなマントで体を隠し、背中に大きなリュックを背負っていた。色々と準備していたら、凄い量になってしまったのである。とても1人で運ぶのは無理だったので、こうしてブーちゃんにも持ってもらっていた。
 
「ブーちゃん。許可証は首から下げておいてね」
【ブフ】

 深くかぶったフードの中から、ブーちゃんの声と共に鈍色のロケットがポロリと零れる。そのロケットには、王冠と盾の紋章が描かれていた。
 ロゼリア学園の紋章だ。この鈍色のロケットを持っていれば、学校外でもファミリアを出しっぱなしにしておくことが出来る。
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 アクロイド先生だったら、こんな約束をしなくてもくれたかも知れないのだけど、彼とは会えなかった。
 彼は先生達の中でも特に忙しいみたい。何をしているんだろう?
 
 私達がゆっくり歩いていると、前の馬車群から大声が響いた。

「おーい!リーチモンド、商業都市リーチモンド行きの馬車は、もうすぐ出るぞー!乗りたい奴は急げー!」

 ええっ!もう?まだ出発の時刻になってないわよ?
 前回の折り返し馬車といい、馭者ってせっかちなのね。

「乗りますわ!お待ちになって!」

 私が声を上げて駆け出すと、丸々と太った馭者はビクリッと体を震わせる。私を見て、両手を擦り始めた。

「へ、へぇ。こいつは乗り合い馬車でっせ、お嬢さん。個人馬車は、表で受け付けしてまさぁ」
「こっちで良いのよ。特別待遇も要らないわ。ハイドの森までお願い」

 馭者は私を、貴族だって見抜いたみたい。貴族だから、過剰に接客しているみたいね。それだけ貴族わたし達が怖いみたい。
 そう見えない様にって、態々古いマントを着てきたのに…何処で貴族だってバレたのかしら?

「へ、へぇ。でしたら、2人で大銅貨2枚と銅貨4枚(2400円)でさぁ」
「私1人よ。お釣りは取っておいて頂戴」

 私は大銅貨2枚を馭者に握らせて、ブーちゃんに荷物を乗せて貰う。それが終わったら、一旦彼の召喚を解除する。
 お疲れ様。

「へっ?消えた?」

 ブーちゃんが背負っていた荷物を端に寄せていると、馬車に乗っていた人達が目を丸くする。
 冒険者風の出で立ちをした男性が2名。その内の痩せた青年が声を漏らした人だ。
 召喚魔術は初めてかしら?学園にいると普通だけど、平民からしたらそうかもね。
 変に絡まれたりしないよう、私は雷魔術の魔石が嵌る指輪を握って、馬車の端の方に座る。
 
「なぁ、あんた。さっきのデカブツは魔法か何かなのか?」

 細身の青年が話しかけてきた。薄汚れているけれど、かなり若い。次兄くらいかしら?
 私が返答に迷っていると、青年の隣に座っていたもう1人の男性、短髪で立派な体格をした戦士が、青年の頭をゴツンと殴った。
 痛そう…。

「痛ってぇ…」
「気軽に話しかけるな、ルチャーノ。相手は貴族だ。髪肌の艶を見りゃ分かんだろ」

 あっ、そうか。そこでみんな、私を貴族と判断していたのね?

「それに、魔法はそいつの生命線だ。気軽に聞くもんじゃねぇ」

 そうなの?覚えてしまえば、色々な魔法を使えると思うけど?
 不思議に思っていると、短髪の戦士が私に向かってガバッと頭を下げた。

「無礼な物言いで済まねぇ。こいつはまだ、Dランクになったばかりの素人なんだ。遠出の依頼も初めてでな、ちっと舞い上がっちまってるんだ。勘弁してくれ」
「ええ。構いませんわ」

 Dランクと言うのは、確か冒険者の階級だ。私もこの前ギルドで登録したら、Eランクのタグを貰った。受付のお姉さんは、ランクとは依頼をこなした数やその仕事ぶり、依頼主の評価などが良ければ1つずつ上がっていくと説明していた。
 だから、Eの1つ上のDランクであれば、もう1人前の冒険者…なのかと思ったけど?

「おう、どうした?貴族の嬢ちゃん」
「あっ」

 ついつい戦士を見詰めてしまっていた。冒険者とこうしてお話する機会なんて、今までなかったから。

「えっと、貴方のランクは幾つなのかと思いまして」
「俺はCだ。万年Cランクのヨルダンとは俺の事さ。腕力と積み上げた実績はBランク並だと言われるんだけどよ。頭と態度が悪くて、昇格試験に受からねぇんだわ」

 ヨルダンさんは胸元から赤褐色のドッグタグを引っ張り出す。銅板だ。私もこの前の登録で貰ったけど、それは木製だった。ランクによって、タグの素材が変わるみたい。
 
「昇格試験なんてあるんですね…」

 私が呟くと、ヨルダンさんはタグを胸元に仕舞って、力無く首を振る。

「寧ろ、この試験が本番だ。体力・筋力・戦闘技術だけじゃなく、筆記や面接なんてのもBランク昇格試験にはありやがる。長年Cランクに居座ってる奴らは大抵、この試験に苦戦してんだ。冒険者なんて、手に職付けられなかった馬鹿共がなる職業だからよ、言葉遣いとかマナーとか言われても分かんねぇんだ」

 それはそうだ。平民で言葉遣いがしっかりしている人なんてそうそう居ない。商人や一部の馭者くらいじゃないかしら?
 だから、疑問に思った。

「何故、Bランクの冒険者にそのような試験を課すのかしら?」
「そりゃおめぇ、Bランクにもなると貴族との接点も増えるからだろうよ」

 あっ、そういうことなの。

「加えて、Bランクともなりゃ一流の冒険者っていう証だ。ギルドの顔とも言える奴が、ゴロツキ紛いの奴だったら堪らねぇってのが、ギルド上層部の考えなんだろうよ」
「Bランクで一流なんですね」
「おう。Eは駆け出し、Dは半人前。Cが一人前で、Bランクになって漸く周囲から期待される一流って認められる。だから、こいつなんてまだまだペーペーなんだよ」

 ヨルダンさんがルチャーノさんを突くと、彼は止めてくれとその手から逃れようとする。

「僕だって結構やれるんですよ?この前はホブゴブリンを1人で倒しましたし」
「はっ!そう言っている奴ほど、あっけなく死んじまうんだよ。いいか?ルチャーノ。Dランクってのが一番死にやすいランクなんだ。お前みたいに中途半端な自信を持った馬鹿が、身の丈に合わない魔物やクエストに挑んでバンバン死んでいく。だからお前らのランクは死のDeath階級rankなんて呼ばれてんだ」

 大変なのね、冒険者って。
 世の中の厳しさを垣間見た気がして、私は彼らを少し頼もしく思った。
 そんな時、馬車が大きく揺れた。あまりの揺れに、私は指輪を落としてしまった。

「おっと。大丈夫か?」

 それを、ヨルダンさんがナイスキャッチしてくれて、こっちに渡してくれた。

「あ、ありがとうございます」
「良いって事よ。それより、今の揺れはヤバいな」

 ヨルダンさんに連れられて、私も外を見る。すると、馬車が動いていなかった。

「しゅ、襲撃か!?」

 ルチャーノさんが慌てるので、私もギュッと手を握る。でも、ヨルダンさんは軽く手を振る。

「ちげーよ。それなら馬車が急加速すんだろ。こいつは溝にハマったんだ」

 ヨルダンさんが馬車から降りて、それにルチャーノさんも続く。1人になってしまったので、私も降りて彼らの背中を追った。すると、本当に馬車の車輪がハマっていた。それも、かなりの深さで。
 
 「済まんが、押すのを手伝ってくれ!」
 「しゃあねぇな。今夜は一杯奢れよ?」

 ヒーヒー言う御者の横で、ヨルダンさん達も馬車を押し始める。だけど、なかなか上手くいかない。周囲の道もぬかるんでいて、思うように力が入らないみたいだ。
 これは…私達の出番ね。
 私が腕まくりをすると、ヨルダンさんが眉を上げる。

「おいおい、嬢ちゃん。まさか一緒に押してくれようとしてんじゃねぇだろうな?やめとけ。泥だらけになっちまうぞ」
「ご心配なく。魔術でお手伝いするだけですので」
「マジか。おい、ぶっ放す系の奴はやめてくれよ。馬車が壊れたら意味がねぇからな」

 そんなことしませんわ。
 表情を強張らせるヨルダンさんに笑顔を向けてから、私は召喚魔術を行使する。
 さぁ、いでよ!

「ブーちゃん!」
【ブッハハァ!】
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