陽炎

ねこじた

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陽炎

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 ケンカなのか?これ、もしかすると。
 綾は、やっと気づいた。
 そんなのを思うと、なんか可笑しくもあった。
 マジか。耕作なんかとよ。
 もし、今度の転校なんてなかったら、どうしたのか。ケンカも、継続かな。 
 高校二年の時よ。どっちもバレー部なんで、一度あった、男女での練習試合、たしか、初めはそんな。
 結局、同じクラスとかもなく、時たま、会ったりすれば、なんか楽しくもあったな。
 だから、なのか。
 なにも耕作がどうの、なんて訳もなかったが、まあ、学校側にも言ってた。夏休みになったら、転校なので、とくに、クラスの報告とか、なくて構わないと。
 口止め込みだが、仲の良い女子だけも、やはり、知ってはいたが。
 そんな、諸々、であった。
 なぜなのか、あたってしまった。
 それが、耕作だったな。


 二学期、まず初日。
 耕作は、机の中。なんだか手紙があって、どうにか、気づくのだ。
 楽しかったのよ、ケンカも。でも、さよならだわ。
 名前は、綾となってた。            


 数年後。
 なにも頑張る気になってなど、別に、ある訳がなかった。
 綾は、ちょっと職場での健康診断があって、指定病院とかで受診なんかする。
 わざと、人気のカフェなどに寄ったが、むしろ、そのついでかな。
 あの時は、そんな感覚。
 再検診なんて、全力の予想外だった。
 再検診の結果。
 もう、あのカフェで新商品、マンゴーのなんとか、馬鹿じゃないのか、私は。
 そんな状況であった。
 どうなるのか。でも、迂回しますわ。とか出来ないのだ。
 まあね。立ち直ってもないが、この辺の道かな。
 どうも、通るしかなく。
 幸い、私はなんにもしてないが、周囲で専門の病院なんてのを、どうにか発見してくれ、気づくと、週末、本格派のかな、検査入院なんです。
 スマホは、便利なもんで。
 色々、教えてもくれた。
 見てもないが、そのテレビは、天気予報とかをやってた。
 もはや、無意味な情報なのだが。
 予報士のおじさん、明日は、降水確率二十パーセント。ま、雨は降らないとは思います。
 なんて、愛想もよかった。
 素敵なお姉さん、本当ですか?
 なんて余計な発言だな。
「この確率なら、雨は降らないかな。まあ、たぶん」
 予報士のおじさん、あれは、愛想笑いなんだろうか。
 スマホの画面だが。説明の途中、この病気での、生還率は、十八から、二十九パーセント。
 とかあった。
 綾は、なんとか無表情だ。
 明日の天気は、やはり、雨は降らないらしい。
 確率も、二十パーセントだと。
 なんだ、晴れんのね。笑うわ。


 病院の廊下。
 耕作は、ベテランの女医、夏子に捕まってた。
「急でね、手術なの。あの鈴木さん。だから、検査の患者さんがね、ひとつ、あったんだけどさ。手配はしてんのよ。あと、後日、私からも、説明するって、伝えといたわ。だから、今日の分だけも、頼めるかな。確かなんだけど、耕作君と、同い年ぐらいかな。まあ、可能性なんだけど。本人、自覚ないのよ、でも社内検診の数値かな。あれだとね、良くないかもなのよ。だから、分かるよね」
 と、念を押された。


 同年代、この病気か。
 病室では、今、トイレなんですよ。とか、お母さん。
 カルテ、同じ名前を知ってた。
 まさか。
「時間なら、平気なんで」
 耕作は、そんな風で返すのだ。
 女の子が、慌てながらも、戻ってくると。
「トイレ、探したわ」
 綾は、ジーパンとかで、手を拭いてしまってる。
 お互い、やっと、目が合った。


「だって、全部、見られんの。もう、胸とか」
 綾は、どうする?なんて詰めよって。
 耕作は、そんな診察ではないと、さすがに分かる。
「あ、心配なの?そっか、じゃ、治療やめて、あげるか」
「あの先生、女性なんだぞ」
「ふん、やるじゃないの」
「あんな、上司みたいなもんだわ」
 耕作は、呆れてしまった。
 そんなのは、楽しかった。


 こんな話もあんのか、考えたこともなく、ある種、新鮮であったが、なんて感じ。
 看護師の花菜さん、耕作を狙ってるとか、そんな噂話。
 綾は、どうなの?なんてノリなんだが、面倒もあって聞いてしまう。
 同世代なのもあった。
「なんか駄目?ま、どうせ、バレてもよ」
 花菜さん、意外と、白状なのだ。
 聞いといて、動揺でもしたか。
 だって、病気でもあるし、その辺、どう出るのかも、まったく、分かんないから。
 花菜さん、みたいな。堂々と?もう、そんな反応なんか、出来はしない。
 そっか。
 私なら、どんな対応、するのかな。
 花菜は、なにか気づいたらしくて。
 看護師、その立場もあったが。
「なにがあっても。お互い、気持ちとか、あったらよ。駄目なの?」
 ちょっと、間があって。
「だって。だと、だよ」
 心配もする、花菜さんだが。
 綾は、どうにか笑顔になった。
 なんでもないって、そんな意味で、伝わったかな。


 耕作は、夜勤もあけてしまえば、いつもなら帰宅だけ、六秒でも、はやく自宅だ。
 やはり、病室が気になった。
 綾は、ベットの上なんだが、あぐらをかいてた。
 もう、すぐに目も合ってる。
「なあに?」
 綾は、なんだか笑う。見られたわ、そんな感じ。
「なんとか、調べたんだよ。この病院、あの病気は、わりに有名なんだよ、出来ることは、もうやってる。なんか、ごめん。俺、何か、出来んのかな」
 耕作は、なんの愚痴だか。もう弱音であった。
 そんなでも、レジ袋とかを、綾に渡すのだ。
 ビタミンたっぷりか、ペットボトルと栄養補助食品とかで。
「ビタミンなんかは、飲み合わせ、平気だから。一応、許可も取った」
 なんせ、全部、コンビニで売ってる。
「なんか、いけそう。ありがと。こんなのが、なんか、ありかも。だから、逆にね。ほんとで、辛いかな」


 その夜。綾は、なんだか眠れなくって、あのレジ袋、なんとなく遊んでしまう。
 キャップの所だ。あの新薬とも、大丈夫なんで。とか、付箋が貼ってもある。
 綾は、それを剥がすと、つい笑う。
 なんか気も抜けた。だけど、現実と言うか。やはり、戻ってしまった。あの新薬が、もし合わないと。
 なんてね。
 知り合ったのが、高二なのだが。
 翌年には転校。
 いつも、耕作とか、呼んでたな。
 結局は、主治医でもないし、勤務中なんかで、意外と見かけもしない。ほんとうに、医者なのか。
 ひとつの、疑問だ。
 耕作が。
 あの頃から、呼ぶのなら、なんか普通であった。
 ずっと、クラスも違って。
 あいつの苗字よ、なんだっけか?
 今さら、なんて聞くわけ。
 綾は、そこを、意外と悩んでる。
 まあ、逝っちゃうか?


 夏子は、じっと、耕作を見てくんのだ。なので耕作は、若干だが、慌てもすると。
「効いてるわ、あの薬」
 なんでか笑ってた。
 合間をみて、綾の病室へと行ってしまう。
 綾は、顔のとこ、白いタオル。
「まったく、何してんの」
 耕作は、呆れもあったが、つい言ってた。
 綾は、黙って、タオルを取るが。
「なんか、用なの?」
「新薬、効いてんだよ」
「うん、看護師さん。さっき、来たわ」
 また、タオルを被ってしまう。
「ありがと」
 なんか間もあった。綾が聞くのだ。
「あのさ、苗字、あんの?」
「なんだよ。あんだろ」
「なんだっけ、聞いてないもん」
「そうだっけ?」
 耕作も、そんな顔であった。記憶だって辿るが、えっと、判別も不能。
「苗字だろ、陽炎だけど」
 さらに、間もあったが、だけど、タオルも取らず。
「え、本気?」
「どういう、意味だよ」
 陽炎は、困惑だ。

          完。
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