H.E.A.V.E.N.~素早さを極振りしたら、エラい事になった~

陰猫(改)

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第3話【小学生のPKキャラ】

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 様々な試行錯誤の末、俺の職業は拳闘士になった。
 プレイヤーネームはランダムにして適当なネーム【クレハ】にした。

『拳闘士か。文字通り、拳で戦うファイターさ』
「強いんですか?」
『あんたのステータスは力が7、精神力が5、素早さ9って所かね?』
「え?ちょっと待って!?防御力は!?」
『そんなもんある訳ないだろう?
 一応、鎧や兜は売ってるから購入出来れば、強度が増すよ。
 ただ、このH.E.A.V.E.N.は現実に最も近いゲームだからね?
 防御力なんて物はほとんど飾りだよ』
「じ、じゃあ、どうすれば?」

 俺が問うと船長はにかっと笑う。

『そいつはお前さん次第さ。力を追求してインファイターになるも良し、素早さを上げてアウトボクサーになるも良しさ。
 ああ。精神力は拳闘士にはあんまり関係無いステータスだから、どちらかを上げる事を勧めるよ』

 そんな話をしていると扉を蹴って金色の鎧に身を包む金髪碧眼の美青年が現れる。
 その手には鎖に繋がれ、下着姿の赤いロングヘアーの美少女が恥ずかしげに引っ張られていた。

『おっと、丁度良くH.E.A.V.E.N.の猛者が来たよ。
 あいつはPK、つまりはプレイヤーキルでのしあがったプレイヤーさ』
「その、隣の女の子は?」
『ん?あいつの奴隷だよ』
「ど、奴隷!?」

 驚く俺に船長は真剣な表情で語る。

『此処はそう言う所さ、クレハ。
 無法者の天国ーーそれがこのH.E.A.V.E.N.と言うゲームだよ。
 FPSなんかのゲームでも同じだろう?
 ゲームで強ければ、何をしても良いのさ。
 このゲームは欲望を叶えるある種の願望器なんだよ』

 船長の意外な説明に俺は思わず、息を飲む。
 強ければ何をしても良いなんて間違えている。
 俺は奴隷の女の子を椅子代わりにして酒を飲む金色の鎧の青年に一歩踏み込もうとする。
 そんな俺の肩を船長が掴んで止めた。

『喧嘩を売るなら止めときな。
 相手はトップランクの実力の持ち主さ。
 今のあんたじゃあ、返り討ちに合うよ』
「……貴女、本当にNPCなんですか?」

 俺の問いに船長は再びにかっと笑う。

『そいつは秘密さ。もしかしたら、運営の一人かも知れないし、人工知能かも知れない。
 まあ、どちらであっても、いきなり初心者がトップランクの実力者に挑むのは止めるけどね?』

「ガイル!」

 その叫びと共に再び扉が開かれ、茶髪の美青年が現れる。
 その装備は鉄の鎧と大剣だ。

「てめえ、よくも俺の女に手を出したな!」
「弱い奴がギャーギャー五月蝿いな。
 それに此処では犯罪にならないでしょ?」
「ふざけるなよ!小学生のくせに!」

 え?小学生?

 俺が目を丸くして船長に振り返ると彼女は肩を竦めて見せる。

『まあ、そう言う事だよ』
「小学生がどうやって、あの死の体験を?」
『さあね。恐らく、家族か誰かのプレイデータを使っているかもね?』

 ガイルと呼ばれた青年はゆっくりと立ち上がり、ドラゴンの彫られた装飾の鞘から剣を抜く。

「殺しても良い人って言うのは、こう言う世界で遊ぶ人の事なんでしょう?
 なら、僕が殺しても問題ないじゃない?」

 小学生らしい物騒な物言いだ。
 しかもそれに輪を掛けて、強いと来ている。
 これでは暴君だ。

「大人を舐めるなよ!このガキが!」
「よっと」

 突っ込む男を左に回避するとガイルは男の首を無造作に跳ねる。
 それも何の躊躇いもなくだ。

「お兄さんも死んじゃ駄目な人じゃなかったね。ご苦労様」

 そう告げるとガイルは再び奴隷にしている女の子の上に座る。
 そんな彼に反論する者は最早、いなかった。

『本当に子供は怖いねえ。
 死の体験をしてないからか、それともそんな価値観を元から持ってないのか……兎も角、あの子が今、一番波に乗っているプレイヤーさ』
「彼に勝つにはどうすれば?」
『言ったろう?……それはあんた次第さ』

 船長はそう言うと扉の方へと向かう。

『まあ、あんたがどんな物語を紡ぐのか、見させて貰うよ、拳闘士のクレハ』

 それだけ言って、船長はその場を後にする。
 俺に出来る事……まずはゲームに慣れる事から進めよう。
 俺はそう思って、酒場を後にした。
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