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第2章【勝負への葛藤】
第11話【それぞれの向かう先】
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着替えを終えた坂田さんが出てくるのを待つと坂田さんは「よっ!」と言って此方に軽く手を上げる。
「応援に来てくれて、ありがとう」
「坂田さんがあんなに凄いなんて知りませんでしたよ」
「そうですね。自分も負けていられませんよ」
「そう言って貰えたのなら、俺がいなくなったあとも任せられそうだね?」
「「えっ?」」
坂田さんの言葉に俺と鈴木さんの声が重なった。
だって、そうだろう。
あれだけ凄い勝ち方をしている人があまりにも突発的に引退を考えている事を言い出すなんて誰が信じられるだろうか?
それは俺だけでなく、鈴木さんにもショックな内容だったらしい。
「・・・訳を教えて下さい」
「そうだな。約束がもう果たせなくなったから、かな?
まあ、宗成君達に理解してくれなんて言わないよ。ただ、もう決めた事なんだ」
坂田さんはそう告げると俺達の肩に触れる。
「まあ、すぐに辞める訳じゃないさ。
俺の後任が決まったら、あとを任せるつもりさ」
「そんなの身勝手過ぎます!」
鈴木さんは坂田さんの手を払いのけ、坂田さんの肩を揺さぶる。
当たり前だ。憧れの人が突然、その道から外れようとしているのだから。
俺だって鈴木さんがいきなり、ボクシングを辞めると言い出したら、帰って来て欲しいに決まっている。
「冗談だと言って下さい!坂田さん!じゃないと俺・・・」
「すまないね、宗成君。だが、これが現実だよ」
その言葉に鈴木さんはこの世の終わりでも見たかのような表情で坂田さんから手を離し、呆然と立ち尽くす。
「さっきも言ったようにすぐ辞める訳じゃないよ。まだ考えているってだけさ」
「・・・どうしても辞めてしまうんですか?」
ショックで何も言えない鈴木さんの代わりに俺が問うと坂田さんは頷いた。
「子持ちだし、ボクシング一筋で食べていける程、裕福な訳でもない。
だから、ここら辺が俺の区切りだろうと考えている。引退したら、前にやっていた会社にでも戻ろうと思っている」
随分、具体的だ。まるで最初から、そのつもりだったかのように・・・。
「会長さんは良いんですか?
坂田さんが辞めてしまっても?」
「良くはないが、無理強いは出来ん。
彼には大きな借りがあるし、彩菜のーー娘の事もあるから、これも運命と思うしかないだろう」
「運命?そんな言葉で片付けてしまっていいんですか?」
「彼は元々、根がボクサーではないんだ。
彼はあくまでもゲームのついでにボクシングを習っている程度の男だったのさ」
ゲームのついで?なんだよ、それ?
そんなふざけた理由でやっていたのかよ?
俺がそんな風に憤っていると坂田さんがポツリと呟く。
「前に話したH.E.A.V.E.N.の事は覚えているかい?」
「え?・・・ええ」
「俺は元々、そのVRゲームから友人を助ける為にボクシングを始めたんだ。約束ってのは、それさ。
H.E.A.V.E.N.ってデスゲーム擬きから友人を助ける為に俺は身体を鍛えた。
そして、彩菜ーーつまり、会長さんの娘さんと知り合って、俺はボクシングを始めた。
その時、俺は二つの約束をしたんだ」
「二つの約束?」
俺の問いに坂田さんは頷くと真剣な表情で真っ直ぐに俺を見詰める。
その眼差しは本当にゲームの為だけにボクシングをしていたとは思えない瞳だった。
「小学生のPKから友人を救う事、それから彩菜を幸せにする事さ」
そう言うと坂田さんは自身の手を見詰める。
「一つは果たせず終いになってしまったが、もう一つの約束は必ず果たすつもりだ。彩菜は必ず、幸せにする。
その為にボクシングに見切りをつけるつもりだ」
俺は坂田さんが眩しく感じた。
この人はただのゲーマーじゃない。
自身の約束を果たすと言う信念の元に行動しているんだ。
そして、その先の未来も見据えて、引退を考えているのか・・・。
筋は通っている。通っているからなおの事、坂田さんを引き留める事が出来ないんだと思い知らされる。この人も形は違えども挑戦者なんだ。
俺はそれを思い知らされ、ただ何も言えず、鈴木さんを見る。
鈴木さんはショック過ぎて言葉を詰まらせていたが、目尻に浮かぶ涙を拭い、改めて坂田さんに口を開く。
「なら、俺も約束させて下さい。
いつの日か、また坂田糀はリングに上がり、チャンピオンになると・・・」
鈴木さんがそう言うと坂田さんは笑った。
「難しい約束だな?」
「やっぱり、そうですよね?」
再び項垂れる鈴木さんに坂田さんはコツンと拳を当てるとこう答えた。
「だが、約束は約束だ。必ず、俺は戻ってきて、宗成君の認めるチャンピオンになるよ」
その言葉を聞いて、鈴木さんは一瞬、何を言われたのか分からない表情をした後に堪えきれずに号泣した。
俺もそんな二人を見て、感動を覚えた。
世の中には決して知らされないそれぞれの人生がある。
それがどんなに困難で他人から理解をされないような道のりでも覚悟を決めて進む人がいるのだ。
それを思い知らされつつ、俺は坂田さん達と共に家路へと向かう。
「応援に来てくれて、ありがとう」
「坂田さんがあんなに凄いなんて知りませんでしたよ」
「そうですね。自分も負けていられませんよ」
「そう言って貰えたのなら、俺がいなくなったあとも任せられそうだね?」
「「えっ?」」
坂田さんの言葉に俺と鈴木さんの声が重なった。
だって、そうだろう。
あれだけ凄い勝ち方をしている人があまりにも突発的に引退を考えている事を言い出すなんて誰が信じられるだろうか?
それは俺だけでなく、鈴木さんにもショックな内容だったらしい。
「・・・訳を教えて下さい」
「そうだな。約束がもう果たせなくなったから、かな?
まあ、宗成君達に理解してくれなんて言わないよ。ただ、もう決めた事なんだ」
坂田さんはそう告げると俺達の肩に触れる。
「まあ、すぐに辞める訳じゃないさ。
俺の後任が決まったら、あとを任せるつもりさ」
「そんなの身勝手過ぎます!」
鈴木さんは坂田さんの手を払いのけ、坂田さんの肩を揺さぶる。
当たり前だ。憧れの人が突然、その道から外れようとしているのだから。
俺だって鈴木さんがいきなり、ボクシングを辞めると言い出したら、帰って来て欲しいに決まっている。
「冗談だと言って下さい!坂田さん!じゃないと俺・・・」
「すまないね、宗成君。だが、これが現実だよ」
その言葉に鈴木さんはこの世の終わりでも見たかのような表情で坂田さんから手を離し、呆然と立ち尽くす。
「さっきも言ったようにすぐ辞める訳じゃないよ。まだ考えているってだけさ」
「・・・どうしても辞めてしまうんですか?」
ショックで何も言えない鈴木さんの代わりに俺が問うと坂田さんは頷いた。
「子持ちだし、ボクシング一筋で食べていける程、裕福な訳でもない。
だから、ここら辺が俺の区切りだろうと考えている。引退したら、前にやっていた会社にでも戻ろうと思っている」
随分、具体的だ。まるで最初から、そのつもりだったかのように・・・。
「会長さんは良いんですか?
坂田さんが辞めてしまっても?」
「良くはないが、無理強いは出来ん。
彼には大きな借りがあるし、彩菜のーー娘の事もあるから、これも運命と思うしかないだろう」
「運命?そんな言葉で片付けてしまっていいんですか?」
「彼は元々、根がボクサーではないんだ。
彼はあくまでもゲームのついでにボクシングを習っている程度の男だったのさ」
ゲームのついで?なんだよ、それ?
そんなふざけた理由でやっていたのかよ?
俺がそんな風に憤っていると坂田さんがポツリと呟く。
「前に話したH.E.A.V.E.N.の事は覚えているかい?」
「え?・・・ええ」
「俺は元々、そのVRゲームから友人を助ける為にボクシングを始めたんだ。約束ってのは、それさ。
H.E.A.V.E.N.ってデスゲーム擬きから友人を助ける為に俺は身体を鍛えた。
そして、彩菜ーーつまり、会長さんの娘さんと知り合って、俺はボクシングを始めた。
その時、俺は二つの約束をしたんだ」
「二つの約束?」
俺の問いに坂田さんは頷くと真剣な表情で真っ直ぐに俺を見詰める。
その眼差しは本当にゲームの為だけにボクシングをしていたとは思えない瞳だった。
「小学生のPKから友人を救う事、それから彩菜を幸せにする事さ」
そう言うと坂田さんは自身の手を見詰める。
「一つは果たせず終いになってしまったが、もう一つの約束は必ず果たすつもりだ。彩菜は必ず、幸せにする。
その為にボクシングに見切りをつけるつもりだ」
俺は坂田さんが眩しく感じた。
この人はただのゲーマーじゃない。
自身の約束を果たすと言う信念の元に行動しているんだ。
そして、その先の未来も見据えて、引退を考えているのか・・・。
筋は通っている。通っているからなおの事、坂田さんを引き留める事が出来ないんだと思い知らされる。この人も形は違えども挑戦者なんだ。
俺はそれを思い知らされ、ただ何も言えず、鈴木さんを見る。
鈴木さんはショック過ぎて言葉を詰まらせていたが、目尻に浮かぶ涙を拭い、改めて坂田さんに口を開く。
「なら、俺も約束させて下さい。
いつの日か、また坂田糀はリングに上がり、チャンピオンになると・・・」
鈴木さんがそう言うと坂田さんは笑った。
「難しい約束だな?」
「やっぱり、そうですよね?」
再び項垂れる鈴木さんに坂田さんはコツンと拳を当てるとこう答えた。
「だが、約束は約束だ。必ず、俺は戻ってきて、宗成君の認めるチャンピオンになるよ」
その言葉を聞いて、鈴木さんは一瞬、何を言われたのか分からない表情をした後に堪えきれずに号泣した。
俺もそんな二人を見て、感動を覚えた。
世の中には決して知らされないそれぞれの人生がある。
それがどんなに困難で他人から理解をされないような道のりでも覚悟を決めて進む人がいるのだ。
それを思い知らされつつ、俺は坂田さん達と共に家路へと向かう。
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