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第3章【勝負の世界】
第27話【3年後に復帰する時間の魔術師】
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あれから俺の生活は変わった。
ーーと言っても急激な変化ではなく、些細な変化である。
まず、ボクシングに対して以前と比較して悲観する事がなくなった。
プロを目指す為に減量などの新しい課題も増えたが、それでも挫折する事なく、前向きに挑めるようになった。
そして、仕事に対してだが、営業以外の仕事に就労する事になった。
まあ、正確にはまだパートなのだが、やりがいは感じている。
今は仕事難の時代だから、こういう形でも仕事を貰えただけ有り難い。
因みに俺はあの試合のあとの二戦目で敗けた。
悔しさは当然あったが、初勝利した事で満足してしまったらしい。
その後の気持ちを切らさないのが俺の今後の新たな課題となった。
それが出来ない内はプロボクシングは認められないと会長さんにも言われ、現在に至る。
確かにあそこで俺は満足してしまった。
だから、ここから先へ進むには更なる覚悟がいるだろう。
それは理解しているし、今の俺にはそれ以外にも新しい目標も出来た。
それは支えてくれた人達にボクシングと云う形で応えたいと云う目標である。
あの後から俺は周囲に支えられているのを改めて実感した。
そんな俺を導くように鈴木さんも先を行く。
今では坂田さんより上位のベスト5に入る実力者として日本で注目されている。
鈴木さんが日本一のチャンピオンになるのも、そう遠い日ではないかも知れない。
もっとも、世界だけではなく、日本にも強豪はいる。
どんな形であれ、鈴木さんも此処から先は苦行となるだろう。
それでも鈴木さんなら乗り越えてくれると信じている。
それは何故かと問われれば、今更の話だろう。
俺は鈴木さんを信じているし、鈴木さんも様々な人間の思いを背負っているからだ。
こうして、俺達は思い思いのボクシングライフを送る。
そして、あっと言う間に迎えた3年後。
「こうして、君の前に立つのは久し振りだね、宗成君?」
そう。約束通り、坂田さんが帰ってきたのだ。お子さんは7歳になったらしい。
だからこそ、見せたいんだそうだ。
かつて、日本のランキングに上り詰めたかつての勇姿を。
ボクサーとしては既に還暦を迎えているとは云え、坂田さんの身体には無駄な筋肉がない。
そんな坂田さんを反対のコーナーから見詰めながら、鈴木さんもヘッドギア越しに笑う。
「自分も強くなりましたよ。現役だった頃の貴方よりも・・・」
「だからこそ、スパーリングのしがいがあるってもんさ。手加減はいらない。
存分に力を出して来てくれ」
二人は互いに笑うとゆっくりと構える。
そして、迎えた1ラウンド目のスパーリングと云う名目の模擬試合。
俺はそれを固唾を飲んで見守る。
坂田さんはブランクがあったとは思えない動きだが、以前に比べれば、やはりスローに見える。
そんな坂田さんに鈴木さんは躊躇いもなく、ジャブを放つ。
次の瞬間、スパン!と云う音と共に鈴木さんが仰け反る。
それだけなのに鈴木さんの膝が崩れそうになる。
そんな鈴木さんを追撃せず、坂田さんは自身のフォームを再確認していた。
そんな坂田さんに鈴木さんが体勢を戻して坂田さんを睨む。
「・・・本当にブランク明けですか?」
「まあね。今のはラッキーパンチだよ。
だけど、今のでコツは思い出せそうだね?」
坂田さんはそう言って警戒する鈴木さんに笑うとブランクがあったとは思えないステップで鈴木さんに迫る。
鈴木さんは敢えてガードして凌ごうとするが、そのガードの隙を突いて坂田さんがボディーに、テンプルにクリーンヒットさせて行く。
ランキング的には鈴木さんが勝っていると云うのにこれだ。
坂田糀は本当に強い。
それを肌で感じて、俺はゾッとする。
坂田さんにも負けて欲しくはないが、鈴木さんにも負けて欲しくはない。
「鈴木さん!」
俺の叫びに鈴木さんが微かに反応する。
しかし、エンジンの温まった坂田さんはそれを許さない。
そしてーー
鈴木さんは坂田さんにダウンを取られる事となる。
これが本当にブランクのあった還暦のボクサーの動きなのだろうか?
自分の目が信じられない。
鈴木さんがダウンしている間、会長さんが坂田さんに近付く。
「手合わせして、どうかね?」
「ええ。宗成君は確かに強くなってますよ。俺もエンジンが温まってなかったら、彼に主導権を与えるところでした。
お陰で今後の課題も見えましたしね」
坂田さんが会長さんとそんな話をしている間に鈴木さんがフラフラと立ち上がる。
「まだです。まだ終わってません」
「勿論、そのつもりさ。勘を取り戻すまで付き合って貰うよ、宗成君」
坂田さんがそう告げると今度は鈴木さんから前へと出た。
ここで改めて思い知る。
真の天才とは坂田さんみたいな人の事を言うのだなと・・・。
結局、坂田さんはダウンする事なく、3ラウンド戦い抜いた。
その間、鈴木さんは3回以上、ダウンしている。
坂田さん自身は「やっぱり、衰えているな。スタミナ勝負だったら負けていたかもね?」とぼやいていた。
俺は鈴木さんがメンタル的にショックだったんじゃないかと心配したが、当の鈴木さんは何処か嬉しげだった。
「鈴木さん。大丈夫ですか?」
「多田野さん!見ましたか!
これがかつて、日本が誇った坂田糀ですよ!
坂田さんが戻って来たんですよ!」
どうやら、ショックどころか坂田さんの復帰を喜んでいるいるようだった。
確かに坂田さんは凄い。
本当に凄いとしか言葉がない。
坂田さんの時間の感覚はやはり、俺達の想像を上回る速さなのだろう。
例え、本人が以前よりも衰えていると言っていても、そのレベルは遥か彼方にあるらしい。
逆に考えれば、坂田さんと再びスパーリング出来ると云う事は願ってもない事かも知れない。
鈴木さんもそうだが、俺自身の為にも更なる高みが必要だ。
そう言った意味でも坂田さんの復帰は喜ばしいものだ。
こうして、俺達は3年越しに再び、同じジムで切磋琢磨する事となる。
ーーと言っても急激な変化ではなく、些細な変化である。
まず、ボクシングに対して以前と比較して悲観する事がなくなった。
プロを目指す為に減量などの新しい課題も増えたが、それでも挫折する事なく、前向きに挑めるようになった。
そして、仕事に対してだが、営業以外の仕事に就労する事になった。
まあ、正確にはまだパートなのだが、やりがいは感じている。
今は仕事難の時代だから、こういう形でも仕事を貰えただけ有り難い。
因みに俺はあの試合のあとの二戦目で敗けた。
悔しさは当然あったが、初勝利した事で満足してしまったらしい。
その後の気持ちを切らさないのが俺の今後の新たな課題となった。
それが出来ない内はプロボクシングは認められないと会長さんにも言われ、現在に至る。
確かにあそこで俺は満足してしまった。
だから、ここから先へ進むには更なる覚悟がいるだろう。
それは理解しているし、今の俺にはそれ以外にも新しい目標も出来た。
それは支えてくれた人達にボクシングと云う形で応えたいと云う目標である。
あの後から俺は周囲に支えられているのを改めて実感した。
そんな俺を導くように鈴木さんも先を行く。
今では坂田さんより上位のベスト5に入る実力者として日本で注目されている。
鈴木さんが日本一のチャンピオンになるのも、そう遠い日ではないかも知れない。
もっとも、世界だけではなく、日本にも強豪はいる。
どんな形であれ、鈴木さんも此処から先は苦行となるだろう。
それでも鈴木さんなら乗り越えてくれると信じている。
それは何故かと問われれば、今更の話だろう。
俺は鈴木さんを信じているし、鈴木さんも様々な人間の思いを背負っているからだ。
こうして、俺達は思い思いのボクシングライフを送る。
そして、あっと言う間に迎えた3年後。
「こうして、君の前に立つのは久し振りだね、宗成君?」
そう。約束通り、坂田さんが帰ってきたのだ。お子さんは7歳になったらしい。
だからこそ、見せたいんだそうだ。
かつて、日本のランキングに上り詰めたかつての勇姿を。
ボクサーとしては既に還暦を迎えているとは云え、坂田さんの身体には無駄な筋肉がない。
そんな坂田さんを反対のコーナーから見詰めながら、鈴木さんもヘッドギア越しに笑う。
「自分も強くなりましたよ。現役だった頃の貴方よりも・・・」
「だからこそ、スパーリングのしがいがあるってもんさ。手加減はいらない。
存分に力を出して来てくれ」
二人は互いに笑うとゆっくりと構える。
そして、迎えた1ラウンド目のスパーリングと云う名目の模擬試合。
俺はそれを固唾を飲んで見守る。
坂田さんはブランクがあったとは思えない動きだが、以前に比べれば、やはりスローに見える。
そんな坂田さんに鈴木さんは躊躇いもなく、ジャブを放つ。
次の瞬間、スパン!と云う音と共に鈴木さんが仰け反る。
それだけなのに鈴木さんの膝が崩れそうになる。
そんな鈴木さんを追撃せず、坂田さんは自身のフォームを再確認していた。
そんな坂田さんに鈴木さんが体勢を戻して坂田さんを睨む。
「・・・本当にブランク明けですか?」
「まあね。今のはラッキーパンチだよ。
だけど、今のでコツは思い出せそうだね?」
坂田さんはそう言って警戒する鈴木さんに笑うとブランクがあったとは思えないステップで鈴木さんに迫る。
鈴木さんは敢えてガードして凌ごうとするが、そのガードの隙を突いて坂田さんがボディーに、テンプルにクリーンヒットさせて行く。
ランキング的には鈴木さんが勝っていると云うのにこれだ。
坂田糀は本当に強い。
それを肌で感じて、俺はゾッとする。
坂田さんにも負けて欲しくはないが、鈴木さんにも負けて欲しくはない。
「鈴木さん!」
俺の叫びに鈴木さんが微かに反応する。
しかし、エンジンの温まった坂田さんはそれを許さない。
そしてーー
鈴木さんは坂田さんにダウンを取られる事となる。
これが本当にブランクのあった還暦のボクサーの動きなのだろうか?
自分の目が信じられない。
鈴木さんがダウンしている間、会長さんが坂田さんに近付く。
「手合わせして、どうかね?」
「ええ。宗成君は確かに強くなってますよ。俺もエンジンが温まってなかったら、彼に主導権を与えるところでした。
お陰で今後の課題も見えましたしね」
坂田さんが会長さんとそんな話をしている間に鈴木さんがフラフラと立ち上がる。
「まだです。まだ終わってません」
「勿論、そのつもりさ。勘を取り戻すまで付き合って貰うよ、宗成君」
坂田さんがそう告げると今度は鈴木さんから前へと出た。
ここで改めて思い知る。
真の天才とは坂田さんみたいな人の事を言うのだなと・・・。
結局、坂田さんはダウンする事なく、3ラウンド戦い抜いた。
その間、鈴木さんは3回以上、ダウンしている。
坂田さん自身は「やっぱり、衰えているな。スタミナ勝負だったら負けていたかもね?」とぼやいていた。
俺は鈴木さんがメンタル的にショックだったんじゃないかと心配したが、当の鈴木さんは何処か嬉しげだった。
「鈴木さん。大丈夫ですか?」
「多田野さん!見ましたか!
これがかつて、日本が誇った坂田糀ですよ!
坂田さんが戻って来たんですよ!」
どうやら、ショックどころか坂田さんの復帰を喜んでいるいるようだった。
確かに坂田さんは凄い。
本当に凄いとしか言葉がない。
坂田さんの時間の感覚はやはり、俺達の想像を上回る速さなのだろう。
例え、本人が以前よりも衰えていると言っていても、そのレベルは遥か彼方にあるらしい。
逆に考えれば、坂田さんと再びスパーリング出来ると云う事は願ってもない事かも知れない。
鈴木さんもそうだが、俺自身の為にも更なる高みが必要だ。
そう言った意味でも坂田さんの復帰は喜ばしいものだ。
こうして、俺達は3年越しに再び、同じジムで切磋琢磨する事となる。
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