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第4章【プロへの道】
第32話【獅童甲斐】
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プロテストの結果から言ってしまおう。
ーー俺はテストに落ちた。
勿論、実技で落ちた訳でも筆記で落ちた訳でもない。
完全な遅刻が故の事である。
ただし、それには幾つか理由があるのだ。
1つ目の理由は道の混雑である。
しかもただの混雑ではなく、まるで大物俳優でもいるかのように女性やマスコミが密集して通路を塞いでいたのだ。
はじめは目的地であるスタジアムから流れてくるのかと思ったが、俺はどんどんと密集する人々に流され、寧ろ目的地から更に遠ざけられてしまう。
あまりの密集具合に流れに逆らう事も困難であった。
結局、人混みに流されてしまい、俺はその流れの中心にいる人物と遭遇する。
それが2つ目の理由である。
パッと見た感じ、アメリカの映画にでも出てきそうな俳優と思えるイケメンだった。
どうやら、みんな、彼が目的らしいが・・・はて、俺もなんとなく、何処かで見た記憶があるんだが、思い出せない。
「君も僕のファンかい?いや、ファンの子の彼氏さんかな?」
「え?あ、いや・・・」
よくは解らないが、金髪のイケメン俳優らしき人物は俺をファンの一人と勘違いしているようだ。
まあ、この人混みに紛れてしまえば、それすらも確かに解らないだろうとは思うが・・・。
「申し訳ないけど、サインはお断りしているんだよ。彼女さんには謝っておいてね?」
「いえ。俺はーー」
「多田野さん!どこですか!」
困っている俺の様子を見に来たのか、鈴木さんが人混みを掻き分けて現れる。
ーーその瞬間、時が止まった。
「・・・まさか、こんな形で顔を合わせるとは思いませんでしたよ、鈴木宗成さん?」
「自分も同感ですよ、獅童甲斐さん」
「え?しどう・・・かい!?」
二人のやり取りを聞いて、俺はこのイケメン俳優のような人物が誰であるかにようやく気付く。
そんな俺を見て、甲斐選手は微笑む。
「これは失敬。貴方は宗成さんの御友人か何かでしたか?」
「あ、いえ・・・」
思っていたよりも紳士な対応に俺は困惑しつつ、鈴木さんの背後に隠れるように後方へと下がる。
そんな鈴木さんと甲斐選手は互いを見据えて動かない。
「・・・いい試合が出来そうですね?」
「ええ。お互い、順調に仕上がっているようですかね?」
鈴木さんと甲斐選手はお互いを褒めるとどちらからともなく、間近まで迫る。
睨んでいる訳でもない。ただ、お互いを見ているだけなのに誰もなにも発しない。
ただ、シャッター音とフラッシュだけが木霊する。
そんな中、先に口を開いたのは鈴木さんであった。
「いきなり、自分に挑んで来るものですから、色々と考えさせられましたよ」
「お互い様ですね。僕も敢えて世界への足掛かりにする為に選んだ人がこんな紳士な方だとは思いませんでしたから」
「世界?それはまた随分と大きく出ましたね?」
「男に産まれたからには誰でも一度は憧れるでしょう、世界最強の座を?」
「確かにそうですね。ですが、その道は順風満帆とは行きませんよ?」
「それは貴方がいるからですか?」
「それもありますが、まずは未だに日本ライト級チャンピオンに君臨するあの人を倒さねばなりませんね?」
「如月(きさらぎ)瞳(ひとみ)ですか・・・確かにそうかも知れませんね?」
二人はそう言って他愛もない雑談をするように会話しているが、お互いに隙を探り合っているのが素人目にもはっきりと解る。
俺はーー俺達はそれを固唾を飲んで見守るしかなかった。
ーーと不意に甲斐選手が白いスーツの下から覗く腕時計を見る。
「時間、大丈夫ですか?」
「・・・時間?」
「そうですよ、宗成さんの御友人の方。
貴方達もプロテストが目的で来たんじゃないですか?」
「え?・・・あっ!」
俺もそれでスマホの時間を確認すると時間は既に開始時刻を30分も過ぎていた。
「その人が今回の本命なのでしょう?完全に遅刻ですよ?」
「・・・ははっ・・・そうですね?」
甲斐選手の言葉に俺は乾いた笑いしか起こらなかった。
そんな俺に鈴木さんが振り返り、此方に戻ってくる。
「申し訳ありません、多田野さん。今回は予期せぬイレギュラーが発生してしまいました。会長達には自分から報告して置きます」
「あとで僕の方からも謝って置きますよ。でないと三国君に叱られてしまいますので・・・」
「三国!?」
その言葉に俺が反応すると甲斐選手はうっすらと笑みを浮かべたまま、此方を見ている。
「本当は多田野と言う名前でピンと来ていたんですけれどね。
まだ会わせたら、いけないなと思ったんで口には出さずにいましたよ。
まあ、三国君がどうしても貴方に会いたがっている様子でしたが」
「・・・三国とはどう言う関係ですか?
所属ジムとか違うでしょう?」
「大した事じゃありませんよ。彼とは学生時代の先輩と後輩と言う関係なだけです。彼も狙っているんですよ、世界をね?」
そう告げると甲斐選手は踵を返して歩き出す。
それについて行くように女性やマスコミなどが続いて歩いていく。
俺達はそれを見送ってから、会長達の待つ受け付け前へと向かうが、結局、間に合わなかった。
ただ、俺の事など容易くなるようなーーとてつもない遅刻の理由であった事は間違いないだろう。
ーー俺はテストに落ちた。
勿論、実技で落ちた訳でも筆記で落ちた訳でもない。
完全な遅刻が故の事である。
ただし、それには幾つか理由があるのだ。
1つ目の理由は道の混雑である。
しかもただの混雑ではなく、まるで大物俳優でもいるかのように女性やマスコミが密集して通路を塞いでいたのだ。
はじめは目的地であるスタジアムから流れてくるのかと思ったが、俺はどんどんと密集する人々に流され、寧ろ目的地から更に遠ざけられてしまう。
あまりの密集具合に流れに逆らう事も困難であった。
結局、人混みに流されてしまい、俺はその流れの中心にいる人物と遭遇する。
それが2つ目の理由である。
パッと見た感じ、アメリカの映画にでも出てきそうな俳優と思えるイケメンだった。
どうやら、みんな、彼が目的らしいが・・・はて、俺もなんとなく、何処かで見た記憶があるんだが、思い出せない。
「君も僕のファンかい?いや、ファンの子の彼氏さんかな?」
「え?あ、いや・・・」
よくは解らないが、金髪のイケメン俳優らしき人物は俺をファンの一人と勘違いしているようだ。
まあ、この人混みに紛れてしまえば、それすらも確かに解らないだろうとは思うが・・・。
「申し訳ないけど、サインはお断りしているんだよ。彼女さんには謝っておいてね?」
「いえ。俺はーー」
「多田野さん!どこですか!」
困っている俺の様子を見に来たのか、鈴木さんが人混みを掻き分けて現れる。
ーーその瞬間、時が止まった。
「・・・まさか、こんな形で顔を合わせるとは思いませんでしたよ、鈴木宗成さん?」
「自分も同感ですよ、獅童甲斐さん」
「え?しどう・・・かい!?」
二人のやり取りを聞いて、俺はこのイケメン俳優のような人物が誰であるかにようやく気付く。
そんな俺を見て、甲斐選手は微笑む。
「これは失敬。貴方は宗成さんの御友人か何かでしたか?」
「あ、いえ・・・」
思っていたよりも紳士な対応に俺は困惑しつつ、鈴木さんの背後に隠れるように後方へと下がる。
そんな鈴木さんと甲斐選手は互いを見据えて動かない。
「・・・いい試合が出来そうですね?」
「ええ。お互い、順調に仕上がっているようですかね?」
鈴木さんと甲斐選手はお互いを褒めるとどちらからともなく、間近まで迫る。
睨んでいる訳でもない。ただ、お互いを見ているだけなのに誰もなにも発しない。
ただ、シャッター音とフラッシュだけが木霊する。
そんな中、先に口を開いたのは鈴木さんであった。
「いきなり、自分に挑んで来るものですから、色々と考えさせられましたよ」
「お互い様ですね。僕も敢えて世界への足掛かりにする為に選んだ人がこんな紳士な方だとは思いませんでしたから」
「世界?それはまた随分と大きく出ましたね?」
「男に産まれたからには誰でも一度は憧れるでしょう、世界最強の座を?」
「確かにそうですね。ですが、その道は順風満帆とは行きませんよ?」
「それは貴方がいるからですか?」
「それもありますが、まずは未だに日本ライト級チャンピオンに君臨するあの人を倒さねばなりませんね?」
「如月(きさらぎ)瞳(ひとみ)ですか・・・確かにそうかも知れませんね?」
二人はそう言って他愛もない雑談をするように会話しているが、お互いに隙を探り合っているのが素人目にもはっきりと解る。
俺はーー俺達はそれを固唾を飲んで見守るしかなかった。
ーーと不意に甲斐選手が白いスーツの下から覗く腕時計を見る。
「時間、大丈夫ですか?」
「・・・時間?」
「そうですよ、宗成さんの御友人の方。
貴方達もプロテストが目的で来たんじゃないですか?」
「え?・・・あっ!」
俺もそれでスマホの時間を確認すると時間は既に開始時刻を30分も過ぎていた。
「その人が今回の本命なのでしょう?完全に遅刻ですよ?」
「・・・ははっ・・・そうですね?」
甲斐選手の言葉に俺は乾いた笑いしか起こらなかった。
そんな俺に鈴木さんが振り返り、此方に戻ってくる。
「申し訳ありません、多田野さん。今回は予期せぬイレギュラーが発生してしまいました。会長達には自分から報告して置きます」
「あとで僕の方からも謝って置きますよ。でないと三国君に叱られてしまいますので・・・」
「三国!?」
その言葉に俺が反応すると甲斐選手はうっすらと笑みを浮かべたまま、此方を見ている。
「本当は多田野と言う名前でピンと来ていたんですけれどね。
まだ会わせたら、いけないなと思ったんで口には出さずにいましたよ。
まあ、三国君がどうしても貴方に会いたがっている様子でしたが」
「・・・三国とはどう言う関係ですか?
所属ジムとか違うでしょう?」
「大した事じゃありませんよ。彼とは学生時代の先輩と後輩と言う関係なだけです。彼も狙っているんですよ、世界をね?」
そう告げると甲斐選手は踵を返して歩き出す。
それについて行くように女性やマスコミなどが続いて歩いていく。
俺達はそれを見送ってから、会長達の待つ受け付け前へと向かうが、結局、間に合わなかった。
ただ、俺の事など容易くなるようなーーとてつもない遅刻の理由であった事は間違いないだろう。
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