努力が必ず報われる世界って本当ですか?

嗄声逸毅

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第一章① 『地獄の地編』

第一章①-裏3   『怒れる来訪者』

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――ザーファ=ペリッシュ視点

 ……おかしい。もし奴があそこにいないのなら、一体どこに姿を隠したというのだ?
 奴はまだ生きている――確信がある。そして、奴だけは決して許さぬ。鬼丸優作……!



――ペリッシュ自邸

 ――コンコン。

 「なんだ、入れ」

 控えめなノックの後、警備兵が静かに扉を開けた。

 「失礼いたします。カラルナの街でパン屋を営む“ジャン”と名乗る男が、ペリッシュ王子に謁見を願っております」

 「……構わん。通せ」

 その瞬間だった。

 「邪魔だァッ!」

 怒声とともに扉が激しく開き、兵士を突き飛ばしてズカズカ踏み込んできたのは――ジャンだった。

 「てめぇ、ザーフッ! 一体、何の真似だ!」

 「……やれやれ。まさかお前が来るとはな。人に顔を見せるなと言いながらなんだそれは、つまらん」

 ザーファは椅子から立ち上がりもせず、余裕の笑みを浮かべながらジャンを見下ろした。

 「お前の通報のせいで、うちのフラッカが捕まったんだぞ!」

 「……フラッカ? ああ、あの娘か。そうか、だが通報したのは私じゃない」

 「とぼけやがって……!」

 怒りに我を忘れたジャンが拳を振り上げた、その刹那――。

 「下がれ!」

 ザーファの傍に控えていた護衛・シヅカが、光の矢を生成し即座に放った。

 蒼白い光が雷鳴のように走り、ジャンの顔面に直撃。彼の身体が宙に浮き、壁に叩きつけられる。

 「哀れなものだ。俺の能力が効かないからと無防備な」

 ザーファは感情を感じさせない声で告げた。

 「どうなさいますか、ペリッシュ様。牢へ放り込みましょうか」

 「いや。外にでも放り出しておけ。ゴミは、ゴミらしくな」

 だが――。

 「ぐっ……まだだ……!」

 血を滲ませながら、ジャンはうめき声と共に立ち上がった。

 「ふざけんなよ……俺は、ただのパン屋だがよ……!」

 ザーファが目を細める。

 「今日だけは違う。今日の俺は――フラッカのために、絶対に退かねぇッ!」

 再び矢が放たれる。今度は、ジャンが素手でその光の矢を掴み、そのまま逆投げする。

「お返しだ……!」

 シュッ、と閃いた矢が、シヅカの頬を浅く切った。

 「私の矢を……!? この男、何者……!」

 「何者かだと? 聞いて驚けよ、ただのパン屋だよ。だが今日は――!」

 そのとき、無言のままもう一人の護衛・カタナが動いた。両拳に包帯を巻いた異様な男。腰にある剣には手をかけず、無言でジャンに接近する。

 ガンッ!

 男は無言のまま、ジャンの拳を肘で受け止める。

 「なんだお前……動けたのか? 動かねーから人形かと思ったぜ。……まあ、いい。素手勝負なら、望むところだ!」
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