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リボンとエプロン
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「沢山作って来た。遠慮なく食べなさい」
休日になりすっかり忘れて借りっぱなしになっていた本を返しに行こうとし、寮から出てすぐ捕まった。
制服ではなく、ラフな格好をした騎士様は片手に大荷物を持ち、私を小脇に抱えるとすたすた学園内にある落ち着いた場所に連れてきた。
良くこんな場所を知っていたなと思う人目につかない木立に私をおろし、敷布を敷き、いそいそお弁当を広げた。
ぼんやりと返すはずだった本を抱え見ていると、何故か騎士様はエプロンをし、頭に大きなリボンを付けて先程の言葉を言ったのだ。
…騎士様のお母さん像なのだろうか。
「あ、いや…そのう…」
視界から入ってくる情報の処理が追いつかない。
呆然と佇む私をやれやれといった感じで横抱きをし、お弁当の前に座った。…何故か私を膝に乗せて。
「あの騎士…」
「お母さんだ」
「いえですから、騎…」
「お母さんだ」
淡々と告げられ言葉が続かない。そんなにお母さんと呼ばせたいのだろうか。
とにかく下ろしてほしい。膝から降りようともがくが、ガッチリと抱え込まれてびくともしない。
「アトリアが何が好きか分からないないから沢山用意した。これは美味いぞ」
口に突っ込まれたものは鶏肉を揚げたものだろうか。塩が効いていて噛むと肉汁とハーブの匂いが広がる。美味しい…のだと思う。それどころじゃなくて良くわからないが。
「サンドイッチだ。大きいと色々食べられないだろうから小さめにした」
口の中のお肉が無くなった頃にまたサンドイッチを詰め込まれた。
あれもこれもと口に運ばれてお腹が苦しい。
また食べ物を入れようとされた時に必死で首を横に振った。
「もういいのか?アトリアは小食なんだな」
そう言ってつむじにキスを落とされた。
「何をするんです!」
「アトリアを可愛がっている。お母さんだからな」
それを理由にこんな事をするなんて間違っていると思うのに、こうも表情を動かさずに言い切られてしまうと騎士様の言い分は間違っていないように思えてしまうから不思議だ。
いや、この美丈夫がお母さんだと言い切る所も、頭にリボンを付けてエプロンをしている事も間違ってはいるのだけども。
「そもそもが間違っていますから!いいですか、ふぐぅ!?」
「そういえばデザートは別腹だと聞く。常温でも美味しい紅茶を用意した。口の中がさっぱりするぞ」
無意識に抱え込んでいた本をギュッとし、絶対に言い聞かせるんだ!と意気込んだのにデザートを突っ込まれてあえなく撃沈した。
本当に困った…。
もくもくと口の中のデザートを咀嚼しながら遠くを見つめる他なかった。
次の週も、その次の週も何故か寮から出た瞬間に捕獲されてしまい、あの場所まで強制ピクニックが行われる。
そうだ前の日に外出する用事がある場合は済ませてしまえばいい。そう思って休日は引きこもり作戦をしてみた。それでも他の方に名前を伏せて呼び出されたりして無視等出来ず、下手に他の方に迷惑をかけるぐらいならと最近は諦めた。
そんな無茶苦茶な騎士様をじっと見つめる。
とても不思議だった。騎士様と強制ピクニックの回数を重ねるたびにリボンとエプロンに装飾が増えている事が。
初めての時にはリボンもエプロンも濃いピンクの無地だったのに、刺繍が施されどんどん可愛らしくなっていってるのだ。
「まさかその刺繍自分で刺しているとかでは…」
「違う」
それ以上は口にしなかったので良くはわからなかった。
刺繍をしてくださる方が身内なのかは知らないが、誰も周りは理由を聞いたりしないのかな…。
毎回手の込んだ料理を用意し、手ずから食べさせてくれる。
お腹がいっぱいだと伝えるともう良いのかと頭を優しく撫でられ、ゴソゴソと小包みを開け中から深い青色の綺麗なリボンを取り出して髪を結んでくれたり、小さな青い宝石のついた花の髪留めを付けてくれたりと断っても「お母さんだから甘やかしている」「可愛がっている」と言い、私の言葉は全て却下される。
表情はあいも変わらずピクリとも動きはしていないけれど、目元を緩ませ頑張り過ぎるなと気を配ってくれて…。
家族以外の異性と2人きりで、しかもこんなに密着するだなんてはしたないと思うのにそっと触れられる事を心地良く思ってしまう。
何故かむずむずしてじんわり心に温かいものが広がっていく気がする。
だって私の話は聞いてくれないんだもの。
私もまた騎士様が自称する『お母さん』を言い訳にしてしまっている。
休日になりすっかり忘れて借りっぱなしになっていた本を返しに行こうとし、寮から出てすぐ捕まった。
制服ではなく、ラフな格好をした騎士様は片手に大荷物を持ち、私を小脇に抱えるとすたすた学園内にある落ち着いた場所に連れてきた。
良くこんな場所を知っていたなと思う人目につかない木立に私をおろし、敷布を敷き、いそいそお弁当を広げた。
ぼんやりと返すはずだった本を抱え見ていると、何故か騎士様はエプロンをし、頭に大きなリボンを付けて先程の言葉を言ったのだ。
…騎士様のお母さん像なのだろうか。
「あ、いや…そのう…」
視界から入ってくる情報の処理が追いつかない。
呆然と佇む私をやれやれといった感じで横抱きをし、お弁当の前に座った。…何故か私を膝に乗せて。
「あの騎士…」
「お母さんだ」
「いえですから、騎…」
「お母さんだ」
淡々と告げられ言葉が続かない。そんなにお母さんと呼ばせたいのだろうか。
とにかく下ろしてほしい。膝から降りようともがくが、ガッチリと抱え込まれてびくともしない。
「アトリアが何が好きか分からないないから沢山用意した。これは美味いぞ」
口に突っ込まれたものは鶏肉を揚げたものだろうか。塩が効いていて噛むと肉汁とハーブの匂いが広がる。美味しい…のだと思う。それどころじゃなくて良くわからないが。
「サンドイッチだ。大きいと色々食べられないだろうから小さめにした」
口の中のお肉が無くなった頃にまたサンドイッチを詰め込まれた。
あれもこれもと口に運ばれてお腹が苦しい。
また食べ物を入れようとされた時に必死で首を横に振った。
「もういいのか?アトリアは小食なんだな」
そう言ってつむじにキスを落とされた。
「何をするんです!」
「アトリアを可愛がっている。お母さんだからな」
それを理由にこんな事をするなんて間違っていると思うのに、こうも表情を動かさずに言い切られてしまうと騎士様の言い分は間違っていないように思えてしまうから不思議だ。
いや、この美丈夫がお母さんだと言い切る所も、頭にリボンを付けてエプロンをしている事も間違ってはいるのだけども。
「そもそもが間違っていますから!いいですか、ふぐぅ!?」
「そういえばデザートは別腹だと聞く。常温でも美味しい紅茶を用意した。口の中がさっぱりするぞ」
無意識に抱え込んでいた本をギュッとし、絶対に言い聞かせるんだ!と意気込んだのにデザートを突っ込まれてあえなく撃沈した。
本当に困った…。
もくもくと口の中のデザートを咀嚼しながら遠くを見つめる他なかった。
次の週も、その次の週も何故か寮から出た瞬間に捕獲されてしまい、あの場所まで強制ピクニックが行われる。
そうだ前の日に外出する用事がある場合は済ませてしまえばいい。そう思って休日は引きこもり作戦をしてみた。それでも他の方に名前を伏せて呼び出されたりして無視等出来ず、下手に他の方に迷惑をかけるぐらいならと最近は諦めた。
そんな無茶苦茶な騎士様をじっと見つめる。
とても不思議だった。騎士様と強制ピクニックの回数を重ねるたびにリボンとエプロンに装飾が増えている事が。
初めての時にはリボンもエプロンも濃いピンクの無地だったのに、刺繍が施されどんどん可愛らしくなっていってるのだ。
「まさかその刺繍自分で刺しているとかでは…」
「違う」
それ以上は口にしなかったので良くはわからなかった。
刺繍をしてくださる方が身内なのかは知らないが、誰も周りは理由を聞いたりしないのかな…。
毎回手の込んだ料理を用意し、手ずから食べさせてくれる。
お腹がいっぱいだと伝えるともう良いのかと頭を優しく撫でられ、ゴソゴソと小包みを開け中から深い青色の綺麗なリボンを取り出して髪を結んでくれたり、小さな青い宝石のついた花の髪留めを付けてくれたりと断っても「お母さんだから甘やかしている」「可愛がっている」と言い、私の言葉は全て却下される。
表情はあいも変わらずピクリとも動きはしていないけれど、目元を緩ませ頑張り過ぎるなと気を配ってくれて…。
家族以外の異性と2人きりで、しかもこんなに密着するだなんてはしたないと思うのにそっと触れられる事を心地良く思ってしまう。
何故かむずむずしてじんわり心に温かいものが広がっていく気がする。
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