AFTER DEAD「最後の帰路」

ハンドアイランド

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終わりのための旅

出発

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翌朝、荷物を詰め込み準備を終えた。
ナイフや懐中電灯。それに少ない食料など。
必要なものは道中で揃えば良い。

扉の前に立つと、少し寂しく感じる。
何年も生活していた住処だ。
子供の頃に父の仕事の都合で何度も引っ越しを経験した。
友達との別れは寂しいが、また会える。
だが家は違う。
次の住人が決まれば、その家に戻ることはできない。
永遠の別れを告げることになる。

今その感覚を思い出した。

扉を開けると外の熱気を感じる。
一歩踏み出そうとした時、なぜか足が止まった。

何かを忘れている気がする。
胸の奥がモヤモヤしている。

多分振り返って住処を見渡せばすぐに答えはわかるだろう。
けれどあえて俺は振り返らずに、このモヤモヤを解決したかった。
ドアノブを握って、一歩踏み出した状態で止まっていた。


「あー……」

思わず声が漏れた。
やらなきゃいけないことが分かった。

振り返らずともそれを感じる。
天井から垂れ下がる、あのロープだ。

ゆっくりと振り返り、そこに向かう。
ホコリをまとった縄は、思ったよりも重くじっとりとした感触だった。
天井から外し、固く結ばった結び目をナイフで切り裂いた。


このロープがさっきのままだと、いつまでもここに繋がっているように感じてしまう。
肉体は離れるが、魂はここへ戻ってくるのではないか。
そんな感覚だった。

だが不思議なことに、このロープにすら懐かしさを感じる自分もいた。
この数年間、年度もこのロープにすがりそうになった。
常に視界の端にぶら下がっていた存在。
俺の絶望を唯一見守ってきた同居人のようだった。

ロープを両手で持ち上げ、丁寧に机の上に置く。
まるで思い入れのあるものに感謝をするように。

心の中で、この住処への感謝を告げる。
数え切れない朝を迎えさせてくれた場所。

たとえ暗く孤独で死を考えさせる場であったが、確かに俺の命を繋いでくれた。

改めて扉の前に立ち、ドアノブを握る。
外に出て、音を立てないようにゆっくりと扉を閉める。


背を向け、一歩一歩と進む。
ふと振り返る。


そして、歩き出した。


俺は足を止め、地図を広げた。

「ここから東へ」


俺は歩きながら、あの日々を思い返していた。
やつらが溢れ出し、街が崩壊した。
俺は逃げることに精一杯だった。

道に乗り捨てられ、まだ動く車を見つけては走らせた。
東西南北に振り回されながら、気づけば古い神社と近代的なビルが混ざり合う街にたどり着いた。

そのとき耳にしたのが「海上自衛隊の基地から国外に逃げれるらしい」という噂だった。
誰が言ったのかも定かではないが、その噂が当時の俺には唯一の希望だった。

もし海を超えられれば、まだ人間らしい生活が残っているかもしれない。


そうして基地を目指し、たどり着いた。
だが、そこで待っていたのは惨劇の後だった。

波打ち際に漂う遺体、無人で乗り捨てられた軍艦。

人の声はどきにもなく、聞こえるのは風と海鳥の鳴き声のみだった。

「やつらは日本だけではなく、海外にも広がっている」
追い打ちをかけるようだった。

俺は国外に出ることを諦め、この街に一旦留まることにした。
結局、身動きを取ることができなくなりこの街を拠点にすることにした。

ただ時間を過ごすだけの日々。
その日々が今日、終りを迎えた。
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