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大柄なヒーロー
川路と紅林の過去
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救助作戦は、翌朝決行となった。
夜に川路が皆を集め、五階の部屋で作戦の説明をした。
誰も口を挟まない。
不満も反対もない。
ーーただ、一人を除いて。
英花だ。
腕を組み、明らかに不機嫌な顔をしている。
視線はずっと私に向けられている。
作戦が終わり、解散となる。
それぞれが部屋を出ていく中、英花が近づいてきた。
「どうして?!」
鬼の形相。
だがその目の奥にあるのは、怒りだけじゃない。
私は静かに説明する。
だが、英花の表情は歪んだ。
「、、、だから?」
声が震えている。
「私とパパは、いつも二人で乗り越えてきたでしょう??」
怒鳴り声じゃない。
それは信じてもらえない、そんな悲しさだった。
私は何も言えなかった。
無言の私を見て、英花は全てを悟ったように視線を落とす。
「もういい」
その声は、驚くほど小さかった。
目に、うっすらと涙を浮かべたまま、足早に部屋を出ていく。
私はただ、その小さな背中を見つめていた。
私は明日の救助作戦のため、早めに休もうとした。
その前に、雄太の様子を見に行った。
雄太はベットの上で眠っていた。
呼吸は安定し、顔色も悪くない。
確実なことは言えない。
だが、その寝顔を見る限りーー多分、大丈夫だ。
「本当に、ありがとうございました」
雄太の母親だ。
「英花ちゃんは、私が責任を持って守ります」
私はその言葉に、ただ無言で会釈をして部屋を出る。
廊下を進み、自分の部屋へ向かう途中。
ふと、足が止まる。
英花の部屋の前だ。
扉の前に立ち、何かを言おうとして、
口を開きかけて、やめた。
私はその場を離れ、自分の部屋に向かう。
が、数歩進んだところで、また足が止まる。
いや、
それも、やめた。
自分の部屋に入り、ベットに横になる。
何かを間違えた気がする。
何かを後悔しそうで、胸が落ち着かなかった。
翌朝が来た。
川路、紅林、そして私。
三人で住処のマンションを出た。
入口には、グループのメンバーが並んでいる。
私たち三人を見送ってくれている。
だが、その中に英花の姿はない。
私は無意識のうちに、立ち止まっていた。
少し長めにマンションの入口を眺める。
けれど、誰も出てこなかった。
視線を前に戻し、川路と紅林の後を追った。
武装集団は、この近くの廃校を一時的な拠点にしているらしい。
前回襲撃された際に、紅林が後を追い、突き止めたらしい。
しばらく歩いた時、
「ちょっと、ションベンしてきます」
紅林が川路に声をかけ、住処の方向へ小走りでかけていく。
私は思わず、クスッと笑ってしまった。
あの無表情で、ロボットのような男が用を足すために小走りになる。
そのギャップが、妙にツボに刺さった。
それを見て、川路が口を開く。
「実は、私と紅林は同じ施設で育ちました」
「まあ、施設育ちってことで、かなり酷い扱いを受けましたよ」
川路は、紅林の背中を見ながら淡々と話した。
「小学校でも、中学でも。
今思い返しても、よくあそこまでやられたなって思います」
表情が曇る。
「正直、私たちは腐りかけました。
道を誤りかけたのも、一度や二度じゃない」
だが、すぐに口元を緩めた。
「ただ、このまま腐ってはいけないと思ったんです」
「親がいないから。恵まれていないから。
だからって、何かを諦める理由にはならないって」
その笑顔は、作り笑いではない。
「紅林を警察官に誘ったのは、私なんですよ」
「人のためになる仕事をしよう、って」
その言葉を聞いて、少し胸が痛くなる。
紅林に違和感を覚えていた自分が、恥ずかしくなる。
私は紅林が戻るまで、川路の話に耳を傾けた。
「お待たせしました」
紅林が戻ってきた。
いつも通りの無表情。
私は思い切り声を張った。
「よし!! 行きましょうか!」
気合を込めて、紅林に声をかけた。
以前、表情が変わらない紅林。
三人は再び歩き出した。
夜に川路が皆を集め、五階の部屋で作戦の説明をした。
誰も口を挟まない。
不満も反対もない。
ーーただ、一人を除いて。
英花だ。
腕を組み、明らかに不機嫌な顔をしている。
視線はずっと私に向けられている。
作戦が終わり、解散となる。
それぞれが部屋を出ていく中、英花が近づいてきた。
「どうして?!」
鬼の形相。
だがその目の奥にあるのは、怒りだけじゃない。
私は静かに説明する。
だが、英花の表情は歪んだ。
「、、、だから?」
声が震えている。
「私とパパは、いつも二人で乗り越えてきたでしょう??」
怒鳴り声じゃない。
それは信じてもらえない、そんな悲しさだった。
私は何も言えなかった。
無言の私を見て、英花は全てを悟ったように視線を落とす。
「もういい」
その声は、驚くほど小さかった。
目に、うっすらと涙を浮かべたまま、足早に部屋を出ていく。
私はただ、その小さな背中を見つめていた。
私は明日の救助作戦のため、早めに休もうとした。
その前に、雄太の様子を見に行った。
雄太はベットの上で眠っていた。
呼吸は安定し、顔色も悪くない。
確実なことは言えない。
だが、その寝顔を見る限りーー多分、大丈夫だ。
「本当に、ありがとうございました」
雄太の母親だ。
「英花ちゃんは、私が責任を持って守ります」
私はその言葉に、ただ無言で会釈をして部屋を出る。
廊下を進み、自分の部屋へ向かう途中。
ふと、足が止まる。
英花の部屋の前だ。
扉の前に立ち、何かを言おうとして、
口を開きかけて、やめた。
私はその場を離れ、自分の部屋に向かう。
が、数歩進んだところで、また足が止まる。
いや、
それも、やめた。
自分の部屋に入り、ベットに横になる。
何かを間違えた気がする。
何かを後悔しそうで、胸が落ち着かなかった。
翌朝が来た。
川路、紅林、そして私。
三人で住処のマンションを出た。
入口には、グループのメンバーが並んでいる。
私たち三人を見送ってくれている。
だが、その中に英花の姿はない。
私は無意識のうちに、立ち止まっていた。
少し長めにマンションの入口を眺める。
けれど、誰も出てこなかった。
視線を前に戻し、川路と紅林の後を追った。
武装集団は、この近くの廃校を一時的な拠点にしているらしい。
前回襲撃された際に、紅林が後を追い、突き止めたらしい。
しばらく歩いた時、
「ちょっと、ションベンしてきます」
紅林が川路に声をかけ、住処の方向へ小走りでかけていく。
私は思わず、クスッと笑ってしまった。
あの無表情で、ロボットのような男が用を足すために小走りになる。
そのギャップが、妙にツボに刺さった。
それを見て、川路が口を開く。
「実は、私と紅林は同じ施設で育ちました」
「まあ、施設育ちってことで、かなり酷い扱いを受けましたよ」
川路は、紅林の背中を見ながら淡々と話した。
「小学校でも、中学でも。
今思い返しても、よくあそこまでやられたなって思います」
表情が曇る。
「正直、私たちは腐りかけました。
道を誤りかけたのも、一度や二度じゃない」
だが、すぐに口元を緩めた。
「ただ、このまま腐ってはいけないと思ったんです」
「親がいないから。恵まれていないから。
だからって、何かを諦める理由にはならないって」
その笑顔は、作り笑いではない。
「紅林を警察官に誘ったのは、私なんですよ」
「人のためになる仕事をしよう、って」
その言葉を聞いて、少し胸が痛くなる。
紅林に違和感を覚えていた自分が、恥ずかしくなる。
私は紅林が戻るまで、川路の話に耳を傾けた。
「お待たせしました」
紅林が戻ってきた。
いつも通りの無表情。
私は思い切り声を張った。
「よし!! 行きましょうか!」
気合を込めて、紅林に声をかけた。
以前、表情が変わらない紅林。
三人は再び歩き出した。
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