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大柄なヒーロー
孤独な道
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屋上に敷いた布団の上に、英花をそっと寝かせる。
布団に、ライターオイルを撒いた。
英花に直接かけることはできない。
マッチを擦る。
小さな火が揺れる。
火を布団に近づけるが、手が震える。
どうしても、火を落とせない。
後ろで見ていた、雄太の母親に振り返った。
「申し訳ございませんが、、、代わりに、お願いできませんか?」
声は、情けないほど震えていた。
母親は一瞬だけ戸惑い、それでもすぐにこちらの気持ちを察してくれたのか、静かに頷いた。
「かわりました」
マッチを受け取り、布団に近づける。
「ちょっと待ってください!!」
思わず声が出た。
驚いた顔で、母親がこちらを見る。
「申し訳ない、、、少し、、、待ってもらえますか?」
母親は何も言わずに、ただ、頷いてくれた。
私は、英花の顔を見つめた。
この姿を、忘れたくなかった。
英花の頬に、そっと触れる。
そして、最後にもう一度、強く抱きしめた。
そして、ゆっくりと布団の上に戻す。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です」
母親は何も言わずに頷き、布団の端に火を落とした。
じわり、と炎が広がる。
近くでは、見ていられない。
だが、目を逸らすこともできなかった。
最後まで見守りたい。
しばらくして、雄太の母親は階段を降りていった。
火が小さくなり、やがて煙だけになる。
最後に残った遺灰を、そっと集める。
それを布に包み、抱えた。
こんなにも、軽くなってしまった。
自分の部屋に戻り、枕の横にゆっくり置いた。
そして、気絶するように眠りについた。
ーー翌朝。
目が覚める。
視線を横に動かすと、布に包まれた遺灰。
ゆっくりと手を伸ばし、触れる。
「おはよう」
静かに、声をかけた。
しばらく、ベッドに腰掛けたまま、俯いていた。
まるで抜け殻のように動けない。
コンコン、と控えめなノックの音。
顔を上げると、雄太が扉の隙間からこちらを見ていた。
「おじさん、、、あ、ありがとうございました」
小さな声だった。
私は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「無事で、良かった」
そう伝えると、雄太はトコトコと小走りで駆けていった。
静けさが戻る。
ゆっくりと立ち上がり、部屋を出て、マンションの外に出た。
外は昨日と変わらない光景。
そして、その上には昨日と同じ快晴の空。
私は空を見上げた。
眩しいほどに青い。
しばらく見つめた後、無理やり口角を持ち上げた。
「、、、、よし」
小さく、そう呟いた。
意思が固まった。
雄太の母親は、四階の廊下で片付けをしていた。
その母親に、私は声をかけた。
「私は、ここを出ます」
母親は手を止め、振り返る。
「そ、そうですか、、、」
それ以上は、何も言わない。
やつらが動かなくなったこと。
謎の武装集団の存在。
紅林の裏切りの理由。
不安要素は、山ほどある。
だが、ここには残れない。
英花は、もういない。
それでも、この変わり果てた世界で自分の人生は続く。
正直、ここで命を絶つことも考えた。
だがーー。
その選択だけは、どうしても選べなかった。
ヒーローになる。
その夢を理由に、英花を危険な場所に連れてきた。
その夢を理由に、英花を置いて救助に向かった。
その夢を理由に、英花を見殺しにした。
ーーならば、
この道を途中でやめるわけにはいかない。
ここで立ち止まれば、あの世で英花に顔向けができない。
――パパ、私……は……?
最後の言葉が、頭から離れない。
その続きはなんだったのか?
その答えは、もうわからない。
正直、捻くれた考えかもしれない。
自分を正当化しているだけかもしれない。
だが、今は何かにすがらないと立っていられなかった。
私は人助けに、この身を捧げる。
ヒーローとして生きる。
それだけが、今の自分を支えられると思った。
布団に、ライターオイルを撒いた。
英花に直接かけることはできない。
マッチを擦る。
小さな火が揺れる。
火を布団に近づけるが、手が震える。
どうしても、火を落とせない。
後ろで見ていた、雄太の母親に振り返った。
「申し訳ございませんが、、、代わりに、お願いできませんか?」
声は、情けないほど震えていた。
母親は一瞬だけ戸惑い、それでもすぐにこちらの気持ちを察してくれたのか、静かに頷いた。
「かわりました」
マッチを受け取り、布団に近づける。
「ちょっと待ってください!!」
思わず声が出た。
驚いた顔で、母親がこちらを見る。
「申し訳ない、、、少し、、、待ってもらえますか?」
母親は何も言わずに、ただ、頷いてくれた。
私は、英花の顔を見つめた。
この姿を、忘れたくなかった。
英花の頬に、そっと触れる。
そして、最後にもう一度、強く抱きしめた。
そして、ゆっくりと布団の上に戻す。
「ありがとうございます。もう、大丈夫です」
母親は何も言わずに頷き、布団の端に火を落とした。
じわり、と炎が広がる。
近くでは、見ていられない。
だが、目を逸らすこともできなかった。
最後まで見守りたい。
しばらくして、雄太の母親は階段を降りていった。
火が小さくなり、やがて煙だけになる。
最後に残った遺灰を、そっと集める。
それを布に包み、抱えた。
こんなにも、軽くなってしまった。
自分の部屋に戻り、枕の横にゆっくり置いた。
そして、気絶するように眠りについた。
ーー翌朝。
目が覚める。
視線を横に動かすと、布に包まれた遺灰。
ゆっくりと手を伸ばし、触れる。
「おはよう」
静かに、声をかけた。
しばらく、ベッドに腰掛けたまま、俯いていた。
まるで抜け殻のように動けない。
コンコン、と控えめなノックの音。
顔を上げると、雄太が扉の隙間からこちらを見ていた。
「おじさん、、、あ、ありがとうございました」
小さな声だった。
私は、ほんの少しだけ微笑んだ。
「無事で、良かった」
そう伝えると、雄太はトコトコと小走りで駆けていった。
静けさが戻る。
ゆっくりと立ち上がり、部屋を出て、マンションの外に出た。
外は昨日と変わらない光景。
そして、その上には昨日と同じ快晴の空。
私は空を見上げた。
眩しいほどに青い。
しばらく見つめた後、無理やり口角を持ち上げた。
「、、、、よし」
小さく、そう呟いた。
意思が固まった。
雄太の母親は、四階の廊下で片付けをしていた。
その母親に、私は声をかけた。
「私は、ここを出ます」
母親は手を止め、振り返る。
「そ、そうですか、、、」
それ以上は、何も言わない。
やつらが動かなくなったこと。
謎の武装集団の存在。
紅林の裏切りの理由。
不安要素は、山ほどある。
だが、ここには残れない。
英花は、もういない。
それでも、この変わり果てた世界で自分の人生は続く。
正直、ここで命を絶つことも考えた。
だがーー。
その選択だけは、どうしても選べなかった。
ヒーローになる。
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ーーならば、
この道を途中でやめるわけにはいかない。
ここで立ち止まれば、あの世で英花に顔向けができない。
――パパ、私……は……?
最後の言葉が、頭から離れない。
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その答えは、もうわからない。
正直、捻くれた考えかもしれない。
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ヒーローとして生きる。
それだけが、今の自分を支えられると思った。
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