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兵藤の頼みごと3

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出来るだけ綺麗な所作を心掛けていたつもりだが、礼儀作法に自信はない。兵藤の祖父母にとっては孫にようやく出来た友人なのだ。招待されたからには悪い印象を残したくはなかった。
「何も問題ない。あんなに嬉しそうな二人を見たのは久しぶりだった」
「嬉しそうだった? じい様も?」
「ああ、孫の俺が言うんだ。間違いない。祖父は口数が少ないぶん分かりにくいが、今日はずいぶんと機嫌が良さそうだった」
 慶は兵藤とよく似た顔をもう一度思い出す。口数だけでなく表情の変化も乏しかった兵藤の祖父は、慶の目には少し不機嫌にも見えた。
「俺以外の若者と接する機会がないからな。どうしていいか分からなかったんだろう」
 そう言われると、そういえば兵藤と初めて会ったとき、兵藤も似たような顔をしてただ座っているだけだったなと慶は思い出す。血は争えないということか。
「血といえば」
 慶はふと思い出した。兵藤の口から祖父母の話題を聞くことはあっても、両親のことは一つも聞いたことがない。
 慶は言い淀む。訊いてみたい気持ちはあったが、家庭の事情をわざわざ訊くなど、下世話な気がした。兵藤とはよく一緒に過ごしているが、いきなり身体の関係からはじまったせいか、どこまで踏み込んでいいのか距離感が掴めないのも確かだった。
 兵藤は口籠る慶を見て、珍しく察したようだ。構わない、と兵藤は慶の疑問に応えるように口を開く。
「ここで共に暮らしているのは祖父母だけだが、両親も健在だ。別に仲が悪いわけでもない」
「そうなのか……」
「なんというか、あの人達は俺から見ても少々特殊でな。職業柄長く一箇所に滞在しないんだ」
 変わり者の兵藤に特殊だと言われるからには、それは相当特殊なのだろう。慶は好奇心がむくむく膨れていくのを感じた。
「兵藤のご両親って、なんの仕事してるんだ?」
「考古学者だ。二人揃ってな。新しい遺跡やらなんやらが見つかると、行かずにはいられない性分らしく、各国を飛び回っている」
「え、めっちゃカッコ良いじゃん」
 古風な大和男子である兵藤の両親が、国際派だとは夢にも思わなかった。素直にカッコ良いと思った慶だが、兵藤は苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そんな良いものじゃない。自由過ぎるんだ、あの人達は。長くて一年、短ければ一週間で滞在先を変えている。最後に連絡があった時はモルディブだと言っていたが、今はどこにいるのやら」
「連絡、あんまりとらないのか?」
「とらないな。繋がらないことの方が多い。なにせ未開の地やら海底遺跡やらが狙いらしいからな。最後に顔を見たのも俺が中学の頃だ」
 それは確かに自由過ぎる。
「教育を受けるには一箇所に滞在した方が良いと、俺はずっとここで暮らしている」
「なるほどね」
 慶は少し兵藤のことが分かった気がした。
 どこか古風で超がつくほど真面目なのは間違いなく祖父母の影響と教育の賜物だ。そして時に常人離れした行動をする自由奔放さは、両親から受け継いだものだろう。やはり極々普通の一般家庭ではない。
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