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田中ライコフ

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最悪の気分

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 夢中で自身の秘所を攻めながら、空いた片手を性器に絡ませる。その瞬間、それまで達せられなかった性器から弾け出るように精液が噴き出す。
「は、ぁ……」
 いつまでもトロトロとこぼれ出る精液は溜まっていたとはいえかなりの量だ。
 秘所から指を抜いた叶真は、指をティッシュで拭いながら力なくうな垂れた。
「やっちまった……」
 熱で暴走する身体を鎮めると、途端に冷静になってくる。今の叶真は自己嫌悪の塊だった。バリタチと称し、今まで散々男を啼かせてきた叶真が抱けなくなったどころか、普通のオナニーですらイけない身体になっている。アナニーしなければイけない身体だと気付くのならば、勃起不全のほうがマシだとすら思えた。
 意気消沈する叶真の耳に、今の気分とは似ても似つかない明るい音楽が飛び込んでくる。その流行の歌は叶真の携帯が着信を知らせている音だった。
「誰だよ、こんな最悪な気分のときに」
 乱暴に携帯を手にした叶真が見たのは更に気分を悪くさせる男の名前だった。
 キョウスケ。携帯の画面には確かにそう表示されている。電話番号を無断で登録したとは言っていたが、かかってくるまでそれは半信半疑だった。だがこうして表示されているのを見てようやく本当だったのかと認識する。
 電話に出るべきか迷った。ただでさえ最悪の気分だ。キョウスケの声など聞きたくもない。
 だが散々迷った挙句、叶真は通話ボタンを押した。キョウスケに逃げたと思われるのは癪に触る。
「……何の用だよ」
 出来るだけ冷静に、だが若干の苛立ちを込めて叶真は一声を出す。
『遅い。俺が電話をかけたらすぐに出ろ』
 電話の向こうから低い声が響いた。電話越しに聞くキョウスケの声は以前よりも低く感じたが、その声は間違いなく憎らしい男のものだ。横柄な態度もまるで変わらない。
「こっちにだって都合があるんだよ。世界はてめぇ中心じゃないんだぞ」
『お前の都合なんてたいしたこともないだろう』
 当然のように自分を優先にしろと言うキョウスケに、叶真はどこまで唯我独尊なのだと呆れ返った。
 やはり電話に出るべきではなかった。早々に後悔した叶真は電話を切りたいと、キョウスケに用件を尋ねる。そんな叶真に今度はキョウスケが呆れたような声を出した。
『抱いてやるって言っただろう。それ以外になんの用件がある』
 当たり前のようにそう言ったキョウスケに叶真の最悪な気分はこれ以上ないまで沈んでいく。
「あいにくだが間に合ってる。てめぇなんかに用はない」
『へぇ……?』
「俺はバリタチなんだよ。どうしても俺とヤりたいってならケツ洗って来い」
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