宇宙漂流した星軍下士官は魔法と魔物が存在する辺境惑星で建国を目指す!

生名 成 (いきな せい)

文字の大きさ
7 / 61

森の調査

しおりを挟む
   東門から街を出たレンヌはアルテミス1に指示を出す。
「アルテミス1、この街の周辺の森で生命反応が多い場所を教えてくれ」
「艦長、静止衛星のサーモグラフィで探索するので暫くお待ちください」
   数分後、アルテミス1からマップが送られてきた。マップにはたくさんの赤い点が集まった場所があった。しかし、その場所は現在地から遠く離れていた。
「艦長、山脈の近くにある広大な森に多くの生命反応が有ります。距離があるので探査車での移動が必要です。探査車を街の近くまで向かわせるので合流してください」
「了解」
   街の近くでも使えるように探査車にもステルス機能を実装しました、とアルテミス1から連絡を受けていたので人目を気にする必要はなかった。
   合流地点で探査車に乗り込み目的地の森に向かう。

   目的地に到着したレンヌは、探査車に搭載してある調査機器を使って探索を始める事にした。
「先ずは、この森と周辺のマップ作成からだな」
 レンヌは探査車のコンピューターに指示を出そうとして、ふと気づく。
「アルテミス1、探査車両のAIにコードネーム(識別名称)は有るのか?」
「初めまして、レンヌ艦長。探査車両の制御を担当するAI『ヴェガ』です。よろしくお願いします」
 いきなり聞こえた十代の女の子を連想させるような声に、レンヌは意表をつかれてたじろいだ。
「お、おう! ヴェガ、よろしく頼む」

 挨拶のあとにヴェガが説明する。
「戦艦アルテミスに搭載してある全てのコンピューター端末はメインコンピューター『アルテミス1』とリンクしています。全ての情報をデータベースで共有しているので、どの端末と交信されても即時お答え出来ます」

 そのとき、アルテミス1からレンヌのインカムに連絡が入った。
「艦長。小型ドローンに搭載しているサーモグラフィシステム(非接触式温度画像化装置)を使用すれば生命体の体温を調べることが可能です」
「わかった。有効範囲を教えてくれ」
「小型ドローンのサーモグラフィシステムの有効範囲は半径200mです」

「アストロン1から4。シールドを展開」
 探査車を降りたレンヌは、アストロンに指示を出しシールドを張る。
 それから、アルテミス1の指示に従って探索を開始した。
   現在、小型ドローンの1から4は街中で情報収集をしているために使えない。新たに降ろした三機を加えた小型ドローン5号機から8号機を使って探索する。
「アルテミス1、小型ドローン四機のサーモグラフィシステムを作動」
「了解。システムを作動します」
「艦長。ゴーグルに画像を出します」
 アルテミス1を経由してレンヌのゴーグルにデータが送られてきた。レンヌが装着しているゴーグルに複数の赤い点が現れた。近場に三点、離れた場所に二点あった。
「あの赤い点が生物か?」
「そうです、艦長。温度で色分けしています。モニターの右端に色別の温度を表示しています」
 アルテミス1に聞いた通りにゴーグルの画面の右端を見た。
「そうか、赤は35~40℃だな。これは人間の体温域とほぼ同じじゃないか?」
「その通りです、艦長。近くまで行けば生物の姿が色で表示されます。ただし、水の中に潜む水棲生物は表示できないので注意してください」

 レンヌはシールドを張ったままアストロンと一緒に森の中に入った。
「ずいぶんと幹が太くて背が高い木だな。俺の田舎でも、こんな大木は無かったぞ」
   暫く木を見上げていたレンヌだったが、自分がやるべき事に気づき命令を出す。
「アルテミス1。武装大型ドローン二機をステルス状態で空中に展開してくれ」
    探査車の後部浮上口が上がり大型ドローンが浮き上がった。
「艦長。大型ドローンの展開を完了しました」
「それでは森の中を調査する。主目的は赤い点が集まっている場所の確認だ」
「アルテミス1、了解しました。ドローン5~8の調査を開始します」
 レンヌは慎重に森の中を進んで行く。

 レンヌの腰にあるベルト型ホルダーの右側のホルスターには生物を麻痺させるパラライザー、左側のホルスターには殺傷力がある熱戦ブラスターを装備している。
   他にも両方の武器に互換性を持つ交換用のエネルギーパックが四個差し込んであった。
   また、右手にはレーザーサーベルを持っている。これは、探索時に邪魔な木の枝や背が高い草を打ち払うためのものだ。普段は太もものホルダーに収納している。
   密集する大木の上を武装大型ドローンが護衛のために音も無く移動する。
 ゴーグルのモニターを見ながらレンヌはゆっくり進んだ。未知の惑星なので、警戒しながら移動するので速度は遅い。10分かけて200メートルを移動し、さっきの赤い点の近くまできた。近づくにつれて赤い点が徐々に兎の形に変化していく。

「さっきの赤い点かな?」レンヌは呟いた。
「最初の位置と同じ場所にいることから同一の生命体と推測します」
   アルテミス1がレンヌの呟きに反応して捕捉する。
「ドローン5号機、確認しろ」
 ステルス状態で姿を消している小型ドローンが無音で目標に向かう。目標地点に到着したドローン5号機からカメラの映像が送られてきた。そこには、以前に見た角がある兎がいた。
「アルテミス1、生命体を確認した。目的のゴブリンではない。兎に似たやつだ。捕獲に関して、何か問題はないか?」
「艦長。ストラスブール王国法には遭難時の緊急措置特例があります。それによると生命維持のための生命体の捕獲や護身のための生命体への攻撃は認められています」
「了解した。学術的にはどうだ?」
「学術的見地から言えばサンプルの捕獲は欲しいところですが、本星と連絡が着かない状態なので生命体の捕獲についてはグレーゾーンです」
「わかった。捕獲しないと食用可能か判断できないからサンプルの捕獲は可能と判断する」
「了解しました。艦長の判断を肯定します。最低でも、小型ドローンに細胞組織の断片と血液のサンプルを採取させてください」
「わかった。それから名前が無いと不便なので件《くだん》の生命体を『角兎』の仮名称で呼ぶ」
「了解しました。データベースに仮名称『角兎』をサンプル画像と共に入力しました」

 レンヌは慎重に獲物まで近寄って行ったが、角兎に気づかれた。それまで草を喰《は》んでいた角兎が上半身を起こしてレンヌの方に顔を向けた。そして、盛んに長い耳を動かしている。
『どうやら、気づかれたみたいだな。逃げられるかも知れない』
「アルテミス1に指示。生命体が逃走したらドローンに追尾させて逃走先の位置を確定しろ」
 しかし、レンヌの予想は外れた。角兎から10メートルの距離まで近寄ったが、角兎は逃走しなかった。いや、逆にレンヌの方に体を向けた。
 レンヌはゴーグルの画像を通して角兎を見ていたが、その行動が理解できなかった。
「何故?   逃げないんだろう。これがストラスブール星の兎なら別の生き物に気づいた時点で、文字通り『脱兎の如く』逃げるのだが?」

 そのとき、レンヌの体に悪寒が走った。角兎の目が赤く光ったのだ。そして、背筋がゾクリとした。
  角兎の周りの景色が陽炎のように歪んだ次の瞬間、いきなりレンヌ目掛けて突進してきた。10メートルの距離を一瞬で詰められて、レンヌは驚きのあまり思考が停止して動きを止めてしまった。
 レンヌの腹めがけて角を突き出し、弾丸のように加速した勢いのまま角兎はレンヌに衝突した。しかし、アストロンのシールドに阻まれて角が折れ、体は弾き返される。そして、そのまま失神した。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...