宇宙漂流した星軍下士官は魔法と魔物が存在する辺境惑星で建国を目指す!

生名 成 (いきな せい)

文字の大きさ
54 / 61

ケーキ騒動

しおりを挟む
『冒険者のレンヌが伯爵になって領地を賜り、一夜にして領都を作った』
   という報告をフロス宰相が、特殊諜報部隊のクライン隊長から受けたのは前日の事だった。そして、まだ独身との報告もあったので、姻戚関係を作ってはとスレイン王とフロス宰相は話し合った。
「一介の冒険者からいきなり伯爵位を叙爵するとは尋常ではない」
「それだけ、ロワール王国では、彼を必要としている訳ですな」
 スタンピードの終息にも関わっているという報告も受けていたので、なおさらレンヌと関係を築きたいと二人は考えていた。

「ましてや、一夜にしてこの王都に匹敵する街を築いたという能力」
「是非とも欲しい人材なのは間違いありません」
「残念なのはつい先日、長女のソフィアをタルマニア王国の第二王子と婚約させた事だ」
「しかし、いかに有能とは言え、第一王女を伯爵に降嫁させる訳にはいきませんぞ」
「それは承知しているが、第一王女ならこちらの誠意も伝わるというものだ」
『王家の姫は政略結婚の道具でしかない』
 という考えが、戦争に明け暮れるこの大陸の常識になっていた。



   レンヌとスレイン王が会談している時に、応接室のドアの外から従者が声を掛けた。
「第二王女シャルロッテ様、ご入室です」
「入れ」
   と言うスレイン王の言葉を聞き、部屋の中にいた別の従者がドアを開ける。

   長い金髪を縦ロールにした女の子が入ってきた。まだ、子供のあどけなさが抜けていない顔立ちをしている。
「こちらに来て挨拶をするのだ」
   スレイン王の言葉に従い王女はレンヌの前に立ち、ドレスの裾を摘まみ上げて軽く腰を落とした。
「リール王国第二王女シャルロッテでございます。宜しくお願い致します」
   レンヌは立ち上がる。
「ロワール王国ガーランド領主、レンヌ・ガーランド伯爵です。貴国の隣に領地を賜りましたので、ご挨拶に伺いました。宜しくお願いします」

   スレイン王が言う。
「二人とも座ってくれ」
   レンヌはそのまま腰を下ろしたが、シャルロッテはフロス宰相の勧めでレンヌの横の椅子に座った。

   レンヌの鼻を女性特有の甘い匂いが擽った。 
『どう見ても十代前半にしか見えない』とレンヌは思った。
「ところでレンヌ伯爵は幾つになられるのか?」
    宰相のフロスが尋ねた。
「二十五になりました」
「シャルロッテは今年で十五だったな」
   スレイン王が確認するように聞いた。
「はい、もうすぐ十五になります」

    年齢的には十八歳のソフィア王女の方が近いのだが既に婚約している。 そこで、第二王女のシャルロッテを、レンヌ伯爵に嫁がせようとスレイン王は考えていた。

「何やら甘い香りがします」
   さっきから甘い匂いがシャルロッテを誘惑しているのだ。シャルロッテは我慢できずに、つい思っている事を口にしてしまった。
「スレイン陛下、宜しければお早めに召し上がってください」
  レンヌは箱を開けて中を見せた。
   箱の中には、十種類のショートケーキが入っていた。モンブランとチーズケーキ、そして各種のフルーツのショートケーキと色とりどりだ。
「皆様が食べやすいようにと、小さなケーキを取り合わせてきました」

「いっぱい有るわ。迷ってしまう」
   シャルロッテの目はケーキに釘付けで、レンヌの事は頭から抜けているようだった。
「さっそく頂きたいわ、お父様」
「シャルロッテ、お客様の前だぞ」
   シャルロッテは小さな舌をペロッと出して言う。
「ごめんなさい!   だって、あまりにも美味しそうなんだもん」
「シャルロッテ、お母様にも教えてあげなさい」

「第二王女様、どうぞ、王妃様の所へお持ちください」
「えっ!   宜しいのですか、レンヌ伯爵」
「もちろん、構いませんよ。最初から女性の方へのお渡しするつもりでしたから」
「それでは、レンヌ伯爵。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう、第二王女様」
   シャルロッテはケーキの箱を持ってそそくさと部屋を後にした。

   暫くして、大きな歓声が聞こえた。
「きゃあああ!」
   それは、王妃と第一王女、そして第二王女とそれぞれの専属召し使いの声だった。
   スレイン王は両手で頭を押さえて嘆いた。
「やれやれ、まだまだ色気より食い気か」
『王妃の声も混じっておりましたぞ』
 と言いかけたフロス宰相だったが、王の面子を考えて心の内に留めた。

  お茶を淹れ直した召し使いはドアの近くで控えている。だが、外を気にしながらソワソワしていた。
   それに気づいたレンヌは思った。
『まさか、王城にいる全員分のケーキは用意できないぞ。いっそ、ケーキ屋でも開いて販売するか』

 それから一週間後、領都グリーンウッドにケーキ屋が新装開店した。
 中央タワーの中にオープンしたケーキ屋には毎日長蛇の列ができたので、エルフ族を含む女性陣から苦情が殺到した。レンヌはすぐに中央公園の東西南北の四ヵ所にケーキ屋を配置したが、それでも足りないと苦情が止まなかった。

 そのため、領都中に新たな出店計画を余儀なくされた。アルテミス1がケーキ専用の自動調理機を増産してくれていたので、必要なのは店舗と接客する店員だった。レンヌは店舗の確保と店員の接客指導に追われる事になった。
   
   噂を聞き付けたロワール王国の王妃と王女たちから、アイシス伯爵の妻アイリーンに苦情が寄せられたのは十日後の事だった。ロワール王国軍魔術師団長の執務室にいたアイリーンの所に王妃から使いがくる。

「お呼びですか、王妃様」
「アイリーンは、知っていたのでしょう?」
「何の事でしょう?」
「ガーランド伯爵領のグリーンウッドに出来たケーキ屋のことよ」
「いえ、初耳です」
「あら?   貴方も知らなかったの?」
「知っていれば転移魔方陣で飛んで行ってます」
「じゃあ、さっそくお願いするわ。でも、ちょっと待ってて、娘たちに声を掛けてくるから」

   アイリーンは法務院まで短距離転移して夫に詰め寄った。
「貴方!   グリーンウッドにケーキ屋が新装開店したって、何故黙ってたの?   場合によっては離婚よ」
「おいおい、何の事だよ?」
「あら?   貴方も知らなかったの?   ケーキ屋さんの事」
   アイシスは慌てて通信機を取り出した。それをアイリーンが奪い取る。

「アイシスか?   どうした?」
「レンヌ卿、アイリーンでございます」
   何故か殺気を感じて、レンヌは聞いた。
「アイリーンさん、何で怒ってるの?」
「ケーキ屋のことです」
   その時になって、レンヌはやっと思い出した。アイリーンがケーキを大好きだった事を。
「申し訳ない。思ったよりも大盛況で、苦情が殺到したので王都の事を忘れていたよ」
「レンヌうぅぅ」アイリーンの低い声が通信機から漏れる。
「レンヌ逃げろ、アイリーンが飛ぶぞ」
   通信機に向かってアイシスが叫んだ。しかし、その言葉の意味が分からないレンヌはその場に立っていた。

   突然、レンヌの部屋の床に魔方陣が現れた。
「何だ、コレは?」
「艦長、時空間干渉です。何者かがワープしてきます」
「人がワープするって、どの位のエネルギーを必要とするって思ってるんだ?」
「約10万ジュールです、艦長」
『いや、そう真面目に返されても』
   レンヌは、冗談を真顔で返された気分になった。

   バリバリと空間が裂ける音がして魔方陣の上に人が現れた。
  レンヌは驚いて動けなかった。
「レンヌ、よくも私に知らせなかったわね!」
「アイリーン!」
「分かった、すぐにケーキ屋に連れて行く」
  アイリーンは怒りを解いた。
「あらそう!   では、すぐに行きましょう」

   高速エレベーターで一階に下りる。ケーキ屋一号店は中央タワーの中に出店している。これは、アニエスとイネスの強い要望だった。

「今日もたくさん並んでいるな」
   外まで続く列を見てレンヌは呟いた。
   レンヌはオーナー権限で適当にショートケーキを箱に詰め,裏口から店を出てアイリーンに箱を渡した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした

茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。 貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。 母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。 バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。 しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。

『二流』と言われて婚約破棄されたので、ざまぁしてやります!

志熊みゅう
恋愛
「どうして君は何をやらせても『二流』なんだ!」  皇太子レイモン殿下に、公衆の面前で婚約破棄された侯爵令嬢ソフィ。皇妃の命で地味な装いに徹し、妃教育にすべてを捧げた五年間は、あっさり否定された。それでも、ソフィはくじけない。婚約破棄をきっかけに、学生生活を楽しむと決めた彼女は、一気にイメチェン、大好きだったヴァイオリンを再開し、成績も急上昇!気づけばファンクラブまでできて、学生たちの注目の的に。  そして、音楽を通して親しくなった隣国の留学生・ジョルジュの正体は、なんと……?  『二流』と蔑まれた令嬢が、“恋”と“努力”で見返す爽快逆転ストーリー!

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

処理中です...