桃子と睦月

ぱや

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新しい一歩

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 今年の冬は寒すぎた。
 今はいくらか寒さも和らぎ、春の気配がすぐそこまで来ている。

 ハロウィンは何もしなかったけれど、クリスマスはケーキを食べて、大みそかに紅白を見て、そばを食べて正月を迎えた。
 年賀状で短大時代の友人に子供が生まれたことを知った。
 母親からも年賀状が来た。そういえば以前の会社ではちょくちょくストレス発散も兼ねて、帰っていた。今の会社に入ってからは、夏に帰っていたけど、睦月と一緒に暮らすようになってからは一切帰ってないので、三年は帰ってないことになる。たまに電話をするぐらいだ。
 そろそろ実家に顔を見せに行かなければと思うものの、睦月を一人置いておくわけにもいかないし、連れて行くわけにもいかない。
 まぁ、あとで考えよう。そうに思って、三か月経っている。

 『お仕置きの日』というのは名前を変えて、『お部屋の日』と呼ぶようになった。
 何も思い浮かばなかったものの、お仕置きの日というよりはこの呼び方の方がいいと思ってる。
 電話口でも伝えられるし。どういう意味ですか?って聞かれても、お部屋を掃除する日だよって言える。
 お部屋の日の事は、名前を変えてもやることは変わらず。
 睦月とキスして、睦月を手でイカせて終わる。いい子にしているのでお仕置きはしていないし、おもちゃも使ってない。キスと手ですることが、一番睦月が安心するっぽい。
 一月は二回お部屋の日があった。正月と一月の終わり。
 ……正直に話せば、正月は私が睦月を触りたくて仕方なかった。
 睦月の気持ちよくなっている声を聞きたい、火照る体をみたい。うるんだ瞳で見つめられたい、キスをしたい。それは繋がらなくてもいい。善がっている睦月を見たい。
 私の開かれた扉は閉じることはなさそうだ。

 新年会の時は仕事が忙しくて、睡眠をあまりとれずに参加したので悪酔いしてしまった。睡眠不足、空腹にお酒……悪酔いする条件がそろっている。
 この悪い酔いしたのは数人いて、後で聞いたら、菊野ちゃんも悪酔いして絡んでいたらしい。私は絡み酒ではないので、悪酔いしている感じはなかったと言われた。
 家にたどり着いてすぐに寝堕ちたけど、その日エッチな夢を見た。睦月の陰茎で奥をつかれている夢だ。私も溜まっているらしい。
 翌日、目を覚ましてからすぐにおもちゃを取り、お風呂に急行して自分を慰めた。
 これからは定期的に自分を慰めようと思った。ためるの良くないね!
 前の会社ではストレス発散のためにお酒を飲んでは悪酔いをかなりして、元カレに迷惑をかけていた。
 悪酔いをしないようにお酒をたしなむ程度で控えてたのだが、女子会は楽しくてついつい飲み過ぎてしまった。今回のみずぎたのは、体調のせいもあるけど、睦月も落ち着いてきて安心してしまったのかもしれない。家では飲まないので、こういう時にしか飲めないし。
 お酒はほどほどにしようと思う。

 仕事はといえば、十二月に入って製造課のほうがやらかしてしまい、そのせいで忙しかった。どうにか年内に収めることができて良かった。製造課はゾンビになっている人が多くいた。
 この職派は定期的にゾンビが出来上がる。事務はまだゾンビになってないが、いつ自分たちもゾンビになるのか戦々恐々としている。
 正月休みは四日。十二月三十一日から一月三日まで。ことは短い。いつもは十二月二十八日からなのだが仕方ない。
 一月は十二月に落ち着いたの者、後始末のため、通常より忙しかった。
 二月はバレンタインで忙しかったが、三月に入り今は落ち着いている。

 睦月とはどうなのかというと、睦月は大分安定してきた。
 内科と精神科の先生にもよくなってきていると言われてる。
 内科の方は二月に行って、次は半年後。体的には体力も筋肉もついてきたし、内臓の方も問題はなくなった。睦月と住み始めた時は小食すぎたけど、今は普通の量を食べれている。
 精神科の方も落ち着いてきていると言われた。
 
 マンションと病院だけだった行動範囲も、近くの公園に散歩に行くようになったり、スーパーに買い出しも一人で行けるようになった。人の少ない時間にを見計らって行ってるが。
 最初から「外で体を売る以外の仕事ができるようになってほしい」と伝えていた。
 一月の終わりに、睦月の方から「どこか短時間で働けたりすることってできる?」と聞いてきたので、私は喜んだ。精神科の先生とも相談し、困った時の蒼さんと柚木さんにも相談して、四月から蒼さんの知り合いのお店で週三回、五時間働くことになっている。

 一月に睦月がまじめな顔で「どこかで短時間で働けることってできる?」と言ってきたときはうれしかった。
 しかし、その後、私にお願いがあると言ってきた。睦月からのお願いはかなり貴重なのでかなえられることなら叶えると言って話を聞いた。
 睦月のお願いは「消えない傷を僕の体に作ってほしい」ということだった。
 何を言っているのかわからなくて、詳しい話をしてもらう。
 睦月は過去に「あなたは自分の物だからその印をつける」と言われて体に傷を負わせた人が数人いる。最初の一人がつけると、次の人はこの傷は何だと聞き、話すと「では自分もつけなければな」と体に印をつけられたのだという。
 私につけられた傷はない。だから、今いるここは夢なのではないかと不安に思ってしまう。どこでもいいし、包丁で切ったのでも、火であぶるのでも何でもいいから、消えない傷が欲しい。
 そうに言ってきた。私はその人たちに怒りが沸いた。
 過去は変えることはできない。なかったことにすることもできない。
 睦月のお願いはかなえてあげたいが、その願いはかなえたくない。
 悩みに悩んで、耳にピアスを開けてもらうことにした。あれも一種の傷だ。

 しかし、その辺で売ってるやつで、バチンってするの怖すぎる。嫌すぎる。
 私はピアスあけない派です。絶対やだ。怖い。なので、病院に行って左耳に一つ、あけてもらう。
 睦月的には私があけないのがふに落ちないようだったけど、下手したら化膿するとか、目が見えなくなるとかそんな話を聞いたことがあるので、余計怖くてできない。 
 その代わり、お風呂上りのピアスホールの消毒は私がした。最初はちょっと痛そうだったけど、一カ月もたつとピアスホールは安定したっぽい。
 念のため二ヶ月はそのままにした。

 睦月の仕事探しだが、一月に言われて、決まったのが三月の終わり。
 条件が厳しすぎたのかもしれない。睦月と話し、蒼さんと柚木さんとも話した。
 レジ打ちやウエイターなど、人前に出る仕事はだめだ。あとは半そでなどになるところもダメ。傷が見えてしまう。かといって、オペレーターも睦月には務まらないだろう。その他にも、中卒なこともあり、蒼さんと柚木さんが睦月を見てこういうのはだめだと思うと言ってくれた。
 また、睦月を拾った付近は避けたい。

 蒼さんと柚木さんはすごく親身になってくれた。
 なぜこんなに親身になってくれるのかはわからない。特に柚木さんが睦月に対して親身だ。
 私は少し睦月に対して過保護すぎるかもしれないと思っているのだが、柚木さん曰く「睦月君がそれを望んでいるのだら問題ないよ」「それに、桃子ちゃんが睦月君の支えになってるのだから、それでいいんだよ」と慰めてくれた。
 蒼さんも「あいつには過保護ぐらいがちょうどいいと思う」と言ってくれたが、続けて「今まで愛情を与えられずに来て、あそこまで素直なのは逆におかしいしな……」と呟いた。その呟きの後すぐに柚木さんが蒼さんのおなかに肘を入れたので、むせていたが。

 二人にはいくつか知り合いのお店を紹介してもらい、一緒に雰囲気を確認してもらった。
 立地条件などを考えて、一つのお店に決める。
 二階建ての建物は年季が入っているが、店内はきれいだ。昼間はカフェとしてランチを提供している。
 朝は十時からラストオーダーは二時。夜は六時から深夜二時までバーとなる。地下には会員制のバーがあるらしい。
 仕事内容は厨房の洗い物。厨房から外に出ることはない。
 店内の雰囲気もいい。店主さんも蒼さんと柚木さんが信頼のおける人。
 後は、睦月が面接をして、店主さんに決めてもらう。
 睦月は私、蒼さん、柚木さんが紹介したお店なら断らない。
 店主さんの方には柚木さんの方から簡単に説明をしておいてもらった。

 睦月が面接の日、店先まで一緒に行き、私は近くの喫茶店で待っていた。
 面接は一時間ぐらいかかった。
 職場の説明も一緒に受けていたらしい。
 面接の結果、雇ってもらえることになった。
 帰りにジュエリーショップに寄って、ピアスを買った。
 桃色の小さな石のピアス。ピンクではなく、桃色。これは睦月のこだわりで、ピンクというと桃色だよと言い直される。桃子の桃色なんだそうだ。

 来週から睦月も仕事を始める。
 家を出るとき、目的地に着いたとき、家に帰った時と連絡を入れるのはこれからも続けることにした。
 睦月が新しい一歩を踏み出して、私たちの三年目が終わった。
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