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第5話 何よりも大切な人

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アニーシャの言葉にトムもロイドも気まずそうに顔を見合わせる。

「勇者ロイド・バルトは、一人で戻られた後王女との婚姻も叙勲も断り、再び旅立ったと言われています。噂では魔王城の近くに居を構え、聖女様の復活を待ちながら生涯独身を貫かれたとか」

「ロイド様……」

 思わず泣き出したアニーシャの手を、ロイドは優しく握りしめた。

「きっとロイド様も、アニーシャ様のことを愛してたんでしょうね」

 真っ赤な目でロイドを見つめるアニーシャ。ロイドもまた、勇者と同じ名前を持っていた。もっとも、勇者にあやかった名前を持つ男など、聖女の名前を持つ者以上に国中に溢れているが。しかし、

「ロイド様……どうして。ロイド様の、ロイド様の馬鹿っ!一人で死なせるために助けたんじゃないのに。ちゃんと幸せになって欲しかったのにっ」

 ロイドの手をしっかりと握りしめたままうわーんと泣き出したアニーシャを見て、トムはゴミを見る目でロイドを睨み付ける。

「おいテメェ、同じ名前だからって勇者様騙って聖女様誑かしてんじゃねぇよ」

「俺がこの痛い名前嫌いなの知ってるでしょう。そんな馬鹿な真似しませんよ」

 こそこそと小声で言い合う二人を涙で濡れた目で見つめるアニーシャ。アニーシャの特別な瞳には、ロイドの魂が持つ輝きをはっきりと捉えることができた。

(一目で分かったわ。このロイド様は勇者ロイド様の生まれ変わりだって。懐かしい、勇者様の魂の色……間違えるはずないわ)

 アニーシャは勇者ロイドが好きだった。したたかで、冷静で、ちょっぴり意地悪で。だけど誰よりも熱い正義の心を持っていた人。どんなに強大な敵でも、守るべき人達がいる限り絶対に背を向けなかった人。

 ろくに回復魔法も使えなかったアニーシャに、根気強く魔法を教え、最後の最後まで守り続けてくれた。過酷な旅の間、どれほど助けられたかわからない。

 だから、魔王との最終決戦。滅び行く魔王の最後の一撃でロイドがアニーシャを庇って倒れたとき、アニーシャは迷うことなく禁断の魔法に手を出した。禁忌と言われる蘇生魔法。膨大な魔王の力を自らの体に取り込んで、その力すら利用して。その代償は三百年もの眠りだったけど。

 アニーシャは、それほどまでに、ロイドを愛していたのだ。最後の一滴まで魔力を奪われた魔王は呆気なく滅びたけれど、取り込んだ力は今もアニーシャの中に渦巻いている。

(今ならもっと、ロイド様のお役に立てるはず)

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