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第4話 聖女様は苦労人

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しれっとした顔で澄まして紅茶を飲むロイドと頭を抱えたトムを見て、アニーシャは首をかしげる。

「あの、私のことで何かご迷惑を……」

「迷惑なんてとんでもない!アニーシャ様がお目覚めになられたのは我々にとってまさに天の助けです」

 ロイドの言葉にアニーシャはほっと胸を撫で下す。

「良かった……またお役に立てるのですね。目覚めて真っ先にここに来たのは間違いではありませんでした」

「ええ!素晴らしいご判断でした!」

 上機嫌のロイドを横目で見つつ、トムも口を開く。

「えーと、大聖女様はなんだってまた、冒険者ギルドにいらしたんですか?教会や王族に保護を求めることは考えなかったんですかい?」

 余計なことを言うなとばかりに睨み付けるロイドを軽く無視する。今すぐにでも教会や城に行けば、いくらでも手厚い保護を受けられるだろう。何しろ伝説の大聖女の肩書きを持つ世にも稀な美少女だ。貴族はおろか、王族と結婚することすら夢ではない。

「教会に王様、ですか……」

 だが、教会や王族と言う言葉に、アニーシャはみるみる肩を落として落ち込んだ。

「王族の方や教会にあまりいい思い出がなくて……」

 聞けば、アニーシャは元々庶民の出で教会での立場も弱く、魔王討伐も身分の高い先輩聖女たちに押し付けられたものだったそう。お城で見た王族は冷たく高圧的で、とても恐ろしかったと話す。

「その上ようやく勤めを終えたと思ったら、300年後の世界だもんなぁ……グスッ」

 アニーシャの苦労話を一通り聞いたトムは涙を流さずにはいられなかった。

「ええ。でも、勇者さまはとても優しくて、強くて、頼もしくて、かっこよくて……旅は過酷でしたが何度も助けられました。ですから、勇者さまと共に魔王を倒したこと、後悔はしていません」

 ポッと頬を染めるアニーシャに、トムとロイドは生温かい視線を送る。

「ああ、そう言えば勇者さまは、ここ、王都出身の冒険者でしたね」

「は、はい!だから、ここに来たらせめて勇者さまのご子孫にお逢いできるかもと……」

「それは……無理ですね」

「え、な、なぜですか」
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