上 下
9 / 10

第9話 守りたいもの

しおりを挟む
「も、もう。ロイド様も、ギルマスをからかうのやめて下さい」

 一緒に暮らしていても、手すら握られたことないのだ。まるっきり相手にされていないことは分かっている。それなのに、

「俺は嘘は付かない。結婚しよう。お前、なんかほっとけねぇから。嫌か?」

「え?」

「返事ははいかイエスだろ?」

「い、い、イエス!」

「そっちかよ」

 ふっと笑ってキスするロイドに思わず目を回して倒れるアニーシャ。

「お前、めっちゃ嫌がられてない?」

「失礼な。嬉しすぎて目を回しただけです」

 ヒョイっと抱えられてアニーシャはますますパニックになる。

「と言うわけで今日は休みを貰います。朝までこいつを口説き落とす予定なので」

「え、え、ええー……」

「覚悟しろよ?」

 生き生きとドアを蹴破って出ていく二人を呆然と見送るトム。

「なんだ。あいつもガッツリ惚れてんじゃん」

 幸い数ヵ月に渡った今年のモンスターパレードは心強い助っ人のお陰で事なきを得た。例年にない被害の少なさだ。アニーシャの回復魔法はもちろん、ロイドの強さも鬼気迫るものがあった。勇者の名を持ちながら、魔王の異名を付けられるほどに。

「あいつもようやく、守りたいもんが見付かったのか」

 圧倒的な強さを持ちながら、いつもどこかやる気がなくて、物足りなさを感じていたロイド。満たされない気持ちは果たしてなんだったのか。迷いの無くなった剣はただただ強かった。

「勇者と聖女のハッピーエンドなら、悪くねぇよな」
しおりを挟む

処理中です...