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第3章 おてんば姫の冒険録

49 アリステア王国の闇

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 ◇◇◇

「エリックはまだ戻らないのか」

 アリステア王国の贅を尽くした謁見室で、国王は苛立ちを露わにして教皇を睨みつけた。

「はい。たびたび帰国を求めているのですが、アリシア国王及び、アリシア王国の大神官に撥ねつけられております」

「生意気なっ!教皇、教会の威光も地に落ちたものだな」

「面目次第もございません」

 アリステア教会の最高位につく教皇が唯一膝を折る人物。それが、アリステア国王だ。太古の昔に女神アリステアの加護を受けた女神の名を冠する一族は、長らくこの大陸の覇者として君臨していた。そのため、アリステア国王は誰の前でも頭を垂れ、膝を折ることはない。女神の代理人たる教皇もまた、アリステア王族から選ばれる慣習だ。現教皇はアリステア国王の実弟が務めている。

 誰もが崇め称える、女神の加護に守られた尊い一族。それがアリステアの誇りであり、栄光だった。だが五百年前、全能の賢者と言われるアリシア・アリステアを失ってから、その栄光に陰りが差した。

 最も女神の加護を受けた彼女を、あろうことかこの国から追放してしまったのだ。以来、アリステア王国に降り注いでいた女神の加護は目に見えて減少していった。地にあふれていた豊かな恵みは徐々に陰りを見せ、天災が続き、土地は痩せ、魔物がはびこる様になった。

 そうしてようやく気が付いたのだ。失ったものの大きさを。あの娘こそが、女神の加護そのものだったことを。そして、永遠に失ってしまった。本当に、愚かなことだ。神に愛された娘を取り返そうとして仕掛けた戦が、彼女を死に至らしめた。アリシア王国を作ってからわずか十年で、アリシア・アリステアはその短い生涯を閉じたのだ。

 ただそのとき、ひとつだけ得たものがある。それが、アリシアが片時も離さずに傍に置いていたドラゴンだ。アリシアの死後、ドラゴンはアリシアの体をその身に取り込み、手のひらに載るぐらいの水晶へと姿を変えた。アリシアを打ち取った幼い末王子が、そう証言したのだ。差し出されたその水晶からは、恐ろしいほどの魔力を感じることができた。

 アリステア王国は早速、その水晶を使った魔道具を開発した。水晶から無尽蔵に流れるエネルギーを使って、国を魔力で満たしたのだ。その結果、国で起こっていた災害や魔物の被害を減らすことに成功した。

 ただ、女神の加護である強い魔力を持つ子が生まれなくなり、王族の中から必ず生まれていた回復魔法の使い手も、その数を減らすことになる。それは、女神の加護を持つアリシアをこの世界が失った代償だろうか。それでも、魔力の結晶とも言えるクリスタルのドラゴンを持ち帰った功績は大きかった。

 アリステア王国はそのクリスタルに閉じ込められたドラゴンを女神に代わる新たなる守護神として、城の奥深くに隠した。そして、見事クリスタルを持ち帰った末王子を、新たなるアリステア国王として据えたのだった。
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